東京・渋谷駅直上の高層ビル「渋谷スクランブルスクエア」の東棟が24日、来月1日の開業を前に報道陣に公開された。高さは約230メートルで渋谷エリアでは最も高い建物となり、屋上を全面利用した展望施設(有料)を備える。広いオフィスには大手ITなどが入居予定だ。再開発が進む渋谷ではIT企業が再び集積しつつある。

 スクランブルスクエアの東棟は地上47階、地下7階建て。東急とJR東日本東京メトロの3社が手がけた再開発ビルだ。大半を占める地上17~45階はオフィスで、面積は計約7万3千平方メートルとなり、東京ドーム約1・5個分の広さ。満室になることが既に決まっており、IT大手のミクシィ本社や、サイバーエージェントが入居する。

 地下2階~地上14階は商業施設で、ファッションや雑貨、飲食店などのテナント約210店が入る。

 東急東横線の地下化に伴い、入り組んでいた渋谷駅の乗り換えルートも改善する。渋谷特有の谷の高低差を踏まえ、エレベーターやエスカレーターを集めた「アーバンコア」と呼ばれる垂直の移動ルートを確保。地下や地上にある駅ホームの利用者が隣接するビルや商業施設へ移動しやすくする。来年1月には、現在は地上3階にある東京メトロ銀座線の改札を1階に移し、地下にある東横線・東京メトロ副都心線との乗り換えも短縮される見通しだ。

 スクランブルスクエアは、今回開業する東棟のほかに、中央棟(地上10階、地下2階建て)と西棟(地上13階、地下5階建て)が27年度に完成する。ほかに渋谷駅南西部で地上39階、地下4階建てのビルが建設中で、今後も再開発が続く。(高橋尚之)

ここから続き

IT大手4社がプロジェクト

 IT企業は、スクランブルスクエアの東棟だけでなく、周りの再開発ビルにも拠点を設けている。

 東棟に隣接して昨年開業した渋谷ストリーム(地上35階、地下4階建て)は、グーグルの日本法人が14~35階の全てのオフィス区画に入居し、9年ぶりに六本木から渋谷に戻る。

 渋谷の道玄坂エリアで11月から開業する渋谷フクラスには、GMOインターネットがグループ会社を集める計画だ。7年前に開業した渋谷ヒカリエにはディー・エヌ・エー本社が入っている。

 渋谷は1990年代後半、ITベンチャーが集まり、「渋谷ビットバレー」と呼ばれた。米国のシリコンバレーにならい、渋(ビター)に谷(バレー)をかけた造語だ。だが、集積の動きは、ITバブルの崩壊などで2000年代前半にはしぼんだ。広いオフィスが少なく、事業拡大で手狭になって離れた企業もある。今回、再開発により広いオフィスが確保できたことで、成長したIT企業が再び集結することになった。

 これを契機に、IT大手はビットバレー再興に向けて動き始めた。ミクシィサイバーエージェント、ディー・エヌ・エー、GMOインターネットの4社は昨年、「シブヤ・ビットバレー」プロジェクトを発足。渋谷をIT分野の世界的な技術拠点にしようと、イベントなどを開いていく。

 ネットで渋谷の情報を発信する「シブヤ経済新聞」の西樹(たてき)編集長は「IT企業はどこもエンジニア不足で、良い人材が欲しい。渋谷の街は文化的な発信力があり、そこで働ける魅力をアピールしている」と話す。(南日慶子)

     ◇

渋谷に詳しい昭和女子大の田村圭介准教授の話

 渋谷駅の複雑さを模型を作って研究する昭和女子大の田村圭介准教授(建築学)の話 渋谷駅は、駅の真ん中を渋谷川という川が通っているのが大きな特徴だ。地下にある東急線と地下鉄から、地上にあるJR線などに乗り換えをする際、川を越えるために階段を上らなければならず、複雑になり、迷宮化した。

 渋谷スクランブルスクエアには、エレベーターやエスカレーターを集めた「アーバンコア」と呼ばれる垂直の移動ルートがある。地下の駅と地上の駅を乗り換えする際、階段をのぼって川を上から渡るのではなく、川をくぐってエスカレーターで地上に上がる動線に変えた。人の流れはスムーズになり、迷うお客さんは減ると思う。迷宮マニアには、ちょっと寂しくなりますね。

 多くのお客さんは渋谷駅に不平不満が多いが、複雑な駅をつくろうとして作ったわけではない。谷底に路面電車が来て、山手線のホームが移り、東横線も乗り込んできた。谷地形の狭い土地に鉄道各社がそれぞれに駅を拡張していったことで複雑になった。鉄道会社が各自の主張を尊重しながらまとめる日本社会そのものだった。ところが迷宮化してしまい、にっちもさっちもいかなくなった。東急、JR東日本東京メトロが一緒になって、よりよくしようと話し合った結果が今回の渋谷駅の改良だ。みんなで一緒につくったことが大きな意義だと思う。