秋は深まり、七十二候は「霜始降(しもはじめてふる)」となりました
2019年10月24日
「居明かして 君をば待たむ ぬばたまの 我が黒髪に 霜は降るとも」
《朝まで寝ないで待ちましょう、私の黒い髪に霜が降ったとしても》
「ありつつも 君をば待たむ うち靡く 我が黒髪に 霜の置くまでに」
《このままあなた様をお待ちしましょう。揺れる私の黒髪に霜が置くまで》
2首とも磐姫皇后(いわのひめのおおきさき)が仁徳天皇を思い詠んだ歌とされています。初めの歌は「霜の降る朝まで待つわ」という一晩を詠ったものですが、後の歌は「黒髪に白髪が混じるまで、このままいつまでも」という年月を感じさせます。ともに万葉のおおらかな恋の歌ですが、「霜」を「降る」と「置く」で時間の長さを使い分けているように感じませんか? 他の歌を見てみると決してはっきりとした使い分けがあるとは考えられませんが、磐姫皇后が動詞の使い方で恋する心をさまざまに表現したかったのではないかしら、と想像したくなるのです。現在では「黒髪に霜を置く」といえば白髪になることの表現として定着しています。
「霜」を使った言い回しは他にもいろいろあるようです。これからの季節折りに触れてきっと出会えますから、気にかけていてくださいね。
霜降る頃に鮮やかに実をつける「柿」の季節です
柿は美味しさだけではありません、木はその堅さから家具をはじめ多くの用材として使われています。ゴルフのドライバーなど、ウッドクラブのヘッドに使われるパーシモン、柿の木が身近でしょうか。柿につきものの渋は防腐剤として紙、木や麻に使われてきました。またこの渋を抜けば甘柿になるという素晴らしい性質をもっています。渋柿が簡単に甘柿になることから「変わりやすい性格」「融通の利く性質」を「柿根性」というそうです。そういわれたら喜んでいいのかどうか? ちょっと考えてしまいます。ちなみに「柿根性」の反対はおわかりになりますか?「しつこくて、変えがたい性質」ということで、酸っぱさを失わない「梅根性」という言葉もあるんですよ。
秋の果物「柿」はさまざまに味わって楽しみたいものですね。
寒くなる日本の風景に欠かせない鳥って?「千鳥」です
波に千鳥文様
青い月夜の 浜辺には
親を探して 鳴く鳥が
波の国から 生まれでる
濡れたつばさの 銀の色
夜鳴く鳥の 悲しさは
親を尋ねて 海こえて
月夜の国へ 消えてゆく
銀のつばさの 浜千鳥
「千鳥」には「霜夜鳥」という別の名前もあります。霜の降りるような寒い夜に千鳥が鳴いているイメージでしょうか。鳥は寒くなると南へ渡っていってしまう仲間も多いなか、浜辺で飛んでいる鳥に思いを寄せる歌詞には寂しさがあふれています。
千鳥と取り合わせのよい波が描かれた「波に千鳥」の文様はもうお馴染みですね。手拭いから着物や帯の柄に使われています。「千鳥格子」は冬にむかってジャケット、スカートやパンツに仕立てられる生地の伝統的な柄として知られています。どうも千鳥に見えるのは日本人の感覚のようで、欧米では「ハウンドトゥース」「猟犬の歯」といわれるそうです。
千鳥にちなんだ言葉はほかにもありますが、注意したいのは「千鳥足」ではないでしょうか。これからの季節は特にお気を付けくださいませ。