プーチン氏は中国をアジア最大の脅威と見なし、それに対抗するため日本
との関係を重視していた。しかしメドベージェフ氏が対日関係悪化を招き、
日本というカードを使えない状況を生み出してしまっていた。
メドベージェフ氏の最大の失敗は対北朝鮮外交だ。メドベージェフ氏は
北朝鮮との関係改善で国際社会での地位向上を目指す戦略を打ち出したが、
プーチン氏は北朝鮮が日本との間で拉致問題を抱えている事実を強く認識
していた。さらに大統領は天然ガスを韓国、北朝鮮に送る方針を示したが、
これはガスの対日輸出が細ることを意味する。今回、北朝鮮の金正日総書記
はモスクワを訪問しなかったが、これはプーチン氏側が金総書記の公式訪問
という形を取らせなかったためだ。
またメドベージェフ氏はロシアのナショナリズムをあおるため北方領土を
訪問し、領土交渉は完全にゼロの状態に陥った。プーチン氏は(平和条約
締結後の歯舞、色丹両島の日本への引き渡しを定めた)「56年宣言」を
ロシアにとって「義務的なもの」と認識しており、この点でも2人の戦略は
大きく異なる。
ただ、プーチン氏が親日家だというわけではない。中国に対抗するために
日本が大事だという、乾いた力の外交の考えを持っているということだ。
プーチン氏が大統領となれば、日本との関係ではまず北方領土問題が動き
始めるだろう。交渉は大変で、ロシアが四島をすぐに返すということは考え
られないが、日本人の感情を逆なでするやり方はないだろう。また日本への
ガス輸出でも、対中牽制(けんせい)という意味合いから日本に優先的に
送ると考えられる。
ただ、プーチン氏はタフ・ネゴシエーターだ。それに向き合うだけの外交的な
基礎体力が日本側にあるだろうか。野田佳彦首相は外交に弱いという側面が
否めず、ロシアに“してやられる”可能性は少なくない。
(産経新聞:「露大統領選 権力闘争に敗れたメドベージェフ氏 佐藤優」)
このインタビューを読むと、彼の免職で外務省いや日本外交が失ったものは
計り知れないように思う。日本外交に欠けているものは正に「乾いた力の外交」
で、彼にそれができるとはいわないが、絶えずそのような力の作用や権力構造
を認識した外交が必要だということは賛同して頂けると思う。