TOMO's Art Office Philosophy

作曲家・平山智の哲学 / Tomo Hirayama, a composer's philosophy

故ピアニスト佐藤祐介くんと僕の信念

2024年05月31日 | 音楽
去る2024年4月19日、ピアニスト佐藤祐介くんが他界された。享年35歳。あまりに早すぎる死と言わざるを得ない。心よりご冥福をお祈りする。

佐藤くんと僕には2つの共通の信念があった。ひとつは、ピアノの可能性は無限大であること。もうひとつは、古典と現代の音楽は地続きであること。

現代の作曲家はピアノ作品の作曲をためらうことがままある。過去の偉大な作曲家が残した星の数ほどの名曲を前に足がすくんでしまうのだ。ピアノのレパートリーは既に出尽くしている、そう語る者も少なくない。だが、本当にそうだろうか?ピアノの鍵盤は88鍵。その組み合わせと配列は無限に等しい。それを全て検証しつくした者などこの世にいるだろうか。否。もし現代の作曲家とピアニストが新しい作品を生み出せないのだとしたら、それは両者の技能と努力が不足しているだけだ。ピアノの可能性は無限大なのだ。

故きを温ねずして新しきを知ることなどできない。彼が古典と現代の作品をプログラムに織り交ぜていたのは単なる思いつきでも客寄せの為でもなく、この当たり前の「事実」を聴者に理解して貰いたかったからだ。アート、現代音楽というと、何か「全く新しいもの」を生み出すことだと考える方がいらっしゃるようだが、それは完全に誤りだ。我々の文化は過去の膨大な遺産の上に積み上げられてきたもの。それらを無視し、何ら影響を受けずに「全く新しいものを創った」と公言する者がいたら神か愚者のどちらかだ(十中八九、後者であろう)。仮に「全く新しいもの」を生み出せたとしても、過去の作品を知ることなしにそれを「新しい」と判断することはできないわけだから完全な論理矛盾である。

換言すれば、過去の偉大な作品の延長上に新しい道を切り拓くのが我々の使命だ。それができる数少ないアーティストを失ってしまったことは大きな悲しみだが、ゆっくりとでも歩を進め続けることが僕の仕事だと考えている。


■佐藤祐介初演作品(平山智作曲)
The Moon from Tokyo to New York
Musica Contemporanea Ⅰ
コラール前奏曲「暁の星はいと麗しきかな」 https://amzn.to/3R7oyr7
Faceless People  https://youtu.be/YbVAiW5nWmE?si=yLb1HiHXr30YCqSn
Faceless People No.2
Faceless People No.3 - Before the Epilogue
ピアノとヴィブラフォンの為の「音象」
ヘラクレイトス断章~ピアノとトイピアノの為の
ヨハン・セバスチャン・バッハ《マタイ受難曲BWV.244》より『62番 受難コラール』(トランスクリプション・平山智)

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