2017-03-03
韓国、「内憂外患」中国減速と家計債務急増で「火の車」経済
勝又壽良の経済時評
日々、内外のニュースに接していると、いろいろの感想や疑問が湧きます。それらについて、私なりの答えを探すべく、このブログを開きます。私は経済記者を30年、大学教授を16年勤めました。第一線記者と研究者の経験を生かし、内外の経済情報を立体的に分析します。
予見している中国の破綻
家計債務はパンク状態へ
韓国は、政治も経済も大混乱状態にある。
目先の問題に目を奪われ、構造的な弱点を一切、直視しなかった。
そのツケが回っているのだ。
政治問題は、歴代大統領の親族が贈賄で逮捕される不名誉な事件を引き起こしながら、原因がどこにあるか。
そういう点の究明がされずにきた。
ただ、政権を与野党どちらが握るか。それだけに全精力を費やしてきた。
経済問題でも、原因は分かっていた。
財閥制度による寡占経済体制が、大企業と中小・零細企業の所得格差を生み出してきた。
この格差拡大が、国内消費を抑圧し家計負債を空前の規模に膨らませている。
経済活性化策といえば、判で押したように「輸出振興」の4文字が決まり文句になっていた。
具体的には、対中国輸出のテコ入れ策が話題になるだけだ。
家計問題は真剣に議論されることもなかった。
輸出は、中国経済の減速と構造変化が起こっているにもかかわらず、対応できずに足踏み状態できた。
一方、家計債務の増加が、かつてないスピードで進む。まさに、韓国経済は「内憂外患」状態に陥っている。
韓国国内では、中国経済の分析をしていたものの、政策面に生かされず「宝の持ち腐れ」状態であった。
警鐘の役割はメディアにあるはずだが、そのメディアが一過性の報道ですましてきた。
根気よく分析・報道することがなかったのだ。
ましてや、産業界では中国経済の変化を肌身で知ることもなく、対応を誤ってきた。
予見している中国の破綻
『ハンギョレ新聞』(2016年8月7日付)は、
「中国経済、ハードランディングを警告―全経連」を報じていた。
韓国の全国経済人連合会(全経連)が、
中国経済の企業および銀行の経営不良、消費・投資・輸出の不振が激化しておりハードランディングの可能性が高いとし、韓国企業の先制的対応が必要だと警告していた。
全経連といえば、日本の経団連に当たる。そこの調査で中国のハードランディングに注目していたが、
この記事はその後、関心を集めることもなくうち捨てられてきた。
(1)「中国の国内総生産(GDP)に対する企業負債の比率は、15年末基準で170.8%。2010年以後5年連続の上昇である。
これは、新興国平均の104%や主要20カ国(G20)の平均92%に比べて極めて高い水準だ。
また、中国企業の営業利益に対する負債の比率は4倍程度で、
アジアの3.4倍、東ヨーロッパの2.3倍に比べ非常に高く、
中国企業の負債リスクが金融市場の不安を引き起こし、
実物経済の成長にも大きな制約要因として作用するだろうと分析した」。
中国企業の負債比率が、15年末で対GDP比170.8%にも達していた。
GDPは、付加価値である。
企業債務は中国全体の付加価値の1.7倍強にもなっていたのだ。
これでは、とうてい債務の返済は困難である。
中国企業はこの時点ですでに「倒産状態」にあった。
中国企業の負債比率は、営業利益に対して4倍程度である。
アジアの3.4倍、東ヨーロッパの2.3倍に比べ非常に高いことが分かる。
一体、これだけの巨額債務は、どうして返済できるのか。不可能である。
中国政府は、その深刻さに気づいていないのだ。
韓国は、これだけ巨額の債務を抱える中国企業に、何らの警戒心も持たずに来た。
人口が世界一で、「市場が無限」という錯覚に囚われていたに違いない。
また、儒教国という親近感に加えて、かつての宗主国である。
韓国の描いていた中国経済の未来は、根拠なき楽観論というほかない。全てが幻想であった。
(2)「16年2月基準で中国銀行の不良債権規模は1兆4千億中国元(約22兆円)で、不良債権の比率が1.83%で過去10年間の最高値を記録した。
全経連は2008年のグローバル金融危機以後、
中国政府が4兆中国元(約61兆円)規模の景気浮揚策を断行し負債の拡大を容認したために一部銀行の不良債権問題が深刻化したとして、
『スタンダードチャータードは中国銀行の不良債権解決に1兆5千億ドル(国内総生産の15%規模)の救済金融が必要と展望した』と付け加えた」。
最新のデータによると2016年12月末、中国の商業銀行の不良債権額は、1兆5123億元(約24兆9千億円)である。
貸し出し全体に占める不良債権の比率は1.74%である。
16年2月基準で見た中国銀行の不良債権規模は、1兆4千億中国元(約22兆円)で、不良債権の比率が1.84%で過去10年間の最高値を記録した。
ここで、注意していただきたいのは、昨年末と同2月末の不良債権額と不良債権比率の比較である。
昨年末の不良債権額は増えたが、不良債権比率が減っている点だ。
これは、不良債権発生を恐れた商業銀行が貸し出し総額を減らした結果である。
もっとはっきり言えば、日本の平成バブル後に行った、「貸しはがし」と同じ荒技で貸出総額を減らしたのだ。
中国の金融機関もここまで追い込まれてきた何よりの証明である。
(3)「全経連のオム・チソン国際本部長は、『中国政府が過去数年間“世界の工場”として供給中心の経済構造からの脱皮、
内需中心の持続的成長基盤の構築を強調してきたにも関わらず、
消費量が減少したことは特に注目する必要がある』とし、
『韓国の高い中国経済依存度を考慮する時、中国リスクに対する本格対応が必要な時点』と話した」。
韓国企業は、中国リスクに対して無防備である。
韓国の対中輸出依存度は、26%にも達していることから当然、中国リスクを織り込まなければならなかった。
ここで、韓国の与野党は政治休戦して、超党派による対策委員会を立ち上げ、労働改革法などを議決して置かなければならなかったはずだ。
そういう理性的な対応はゼロである。感情論に任せた対立によって時間を空費してしまった
中国リスクは、中国経済の減速ばかりでない。
韓国は、中国産業の構造が耐久財からサービス財へと変化している状態に対応しなかった。
『ハンギョレ新聞』(2016年9月22日付)は、「中国、内需中心成長になれば韓国GDPに打撃」と題して、次のように報じた。
中国の内需市場が、耐久材中心からサービス中心にウエイトを移せば、韓国の製造業が大打撃を受けるという分析報告書がすでに出ていた。
それによると、コンピュータ、電子機器業種が最も大きな被害を受ける見込みだ。
これら業種は、韓国製造業でも高い比重を占めている。
それだけに、中国産業の構造変化が起これば、韓国製造業にミスマッチが発生するのは不可避である。
こうした重大な分析結果が出ていたにもかかわらず、その対応策が練られた跡は窺えない。
ここが日本産業界との違いである。
日本であれば、政府を先頭にして産業構造政策が、議論のテーブルに乗って対策が打ち出される。
韓国では、危機が現実に迫ってこない限り、他人事として見ている。
(4)「韓国開発研究院(KDI)のチョン・ソンフン研究委員は、報告書『中国経済の構造変化が韓国の産業成長に及ぼす影響』において、次のように分析している。
製造業工程で国際的分業関係を意味するグローバル・バリュー・チェーン(GVC)の観点から言えば、韓国製造業は中国の内需市場(注:国内生産という意味)が耐久材中心の成長と緊密に連動してきた。
つまり、韓国のコンピュータ・電子機器・石油化学など耐久材を中心にした製造業は、上記のような中国製造業における突出した『中国特需』を享受してきた」。
韓国製造業は、これまで日本や中国と上手く棲み分けてきた。
日本が高級品、韓国は中級品、中国が低級品というランクわけである。
だが、中国の技術が韓国を追い上げている。
中級品分野では、韓国と中国が競り合っているのだ。
この結果、韓国の対中輸出が伸び悩みから減少へと暗い影が見えている。
中国が、コンピュータ・電子機器・石油化学など耐久材を中心にした基礎産業部門の拡充に努力する「中国特需」に、韓国の製造業は上手くフィットしてきた。
韓国は、この関係が長く続くものと想定していたのだ。
だが、中国はこの分野の「内製化率」を引き上げている。
この内製化率の上昇分が、韓国からの輸入分と置き換わってきた。
「輸入代替化」が進んだのである。
韓国は、中国の内製化率上昇=輸入代替率上昇を軽視していたのだ。
今になって、大慌てしているに過ぎない。
(5)「チョン研究委員は報告書で、
『2014年、中国の耐久材需要が1%増加すれば、韓国の国内総生産に及ぼす影響が0.046%に達した』として、『これは20年前の1995年に比べて15倍も増加した数値』だと指摘した。
20年間に、中国の内需市場に対する韓国の依存度がそれだけ高まったことだ。
実際、2014年の韓国の実質国内総生産(GDP)成長率のうち、中国の内需成長の寄与度は18.5%と推算された」。
中国は、加工型貿易が主流であった。
日本や韓国から部材や部品を輸入し、それを製品に加工して輸出するものだ。
中国の輸出が増えれば、それに伴い韓国の対中輸出で部材や部品も増加する好循環を描いてきた。
2014年時点で見ると、過去20年間で15倍も対中輸出が増えた。
韓国は、この状態がずっと続くものと見ていたのだ。
これが、大誤算であることに最近、気づいて大騒ぎしている。
対応策がないからだ。新製品開発を怠っていたツケが回ってきたと言える。
(6)「中国内需市場の重心は、次第にサービス業の方に移っている。
中国特需に依存してきた韓国製造業にとってミスマッチが起こっている。
チョン研究委員は、『2014年に7%だった中国内需市場の実質成長率が1%下がると、韓国のGDPは0.22%低下する』と分析する。
産業別では、コンピュータ・電子機器の総生産が1.02%減少して、最も大きな打撃を受けることが明らかになった。
次いで、機械・電子機器・自動車の生産が0.29~0.44%、石油化学でも0.39%の減少効果がある」。
中国に限らずどこの国でも、1人当たりの名目GDPが増えれば、次第にサービス業が発展する。
これは、ペティー・クラークの法則として知られているように、第一次産業→第二次産業→第三次産業という発展の流れで証明されている。
中国でも、この流れが起こっているに過ぎない。
とすれば、韓国はいつまでも第二次産業の製造業の輸出にこだわってきたこと自体、見通しがきかなかったことの証明になる。
韓国経済が輸出依存であったから早晩、輸出頭打ちによって韓国の経済成長率にマイナス効果を及ぼす。
分かりきったことなのだ。それを察知できなかった点が、韓国政府と企業の大失敗である。
(7)「チョン研究委員は、
『中国の内需市場で、成長率低下とサービス化が同時に進めば、
韓国の主力産業の競争力が相対的に減少する』として、
『最近、韓国で起きている重化学産業の供給過剰問題が深刻化する恐れがあり
、根本的な対応ができるよう準備しなければならない』と指摘した」。
韓国経済が今後、中国への依存度を減らすことが重要である。
幸か不幸か現在、韓国はTHAAD(超高高度ミサイル網)導入をめぐって、中国からの猛反対を受けている。
その結果、中国政府は「韓流」を排除しており、中国国内での出演が姿を消している。
訪韓の中国人観光客も20%はカットされている。
考えようによっては、韓国にとっては良い機会である。
「脱中国」と同時に、韓国国内市場を復活させなければダメである。
それには、次に述べる所得格差の解決が不可避である。
韓国は現在、輸出依存=財閥依存がもたらす弊害のなかに沈んでいる。
大統領弾劾も、政治と経済の癒着がもたらした事件である。
この癒着を解くには、経済構造を変えることである。
財閥を解体して産業の活性化を推進するのだ。
「循環出資」というまやかしの企業支配構造をぶちこわさなければ、中小企業が生きられず窒息する。
財閥は、中小企業製品を買いたたいており、中小企業から「利益収奪」する、というマルクス用語がそのまま当てはまる状況にある。
家計債務はパンク状態へ
韓国銀行(中央銀行)は2月21日、16年の韓国の家計債務は過去最高の1344兆3000億ウォン(約132兆7000億円)に膨らんだと発表した。
増加幅も過去最大だった。
家計債務の増加率は11,7%で、経済成長率(2.7%)の4倍を上回っている。
韓国経済の成長ペースを大幅に上回るスピードで、家計債務が増えているのだ。
さらに、次に指摘するように、家計債務の「量的な膨張と質的な悪化が同時発生」している点で危険性が高くなっている。
昨年1年間に銀行の貸出残高が9.5%の増加にとどまった。
信用力が低い人、低所得者、多重債務者の利用が多い銀行以外の融資は、なんと17.11%もの急増である。
これは、銀行が融資審査を強化したことで、銀行以外の融資が大幅に膨らませたものだ。
正規の金融機関からの借入が困難な人々が、融資条件が緩和されている「非銀行」からの融資に群がった結果である。
問題は、金利が引き上げられた場合の影響である。
米国は近く、今年に入って2度目の利上げに踏み切ると予測されている。
これは、韓国へも影響するはずで利上げの公算が大きくなろう。
その場合、非銀行からの融資者は銀行に比べて高い金利の上に、さらなる高い金利の支払いが求められる。家計への影響は甚大だ。
『韓国経済新聞』(2月22日付)は、社説で「韓国経済の信管、家計負債管理に総力傾ける時」について、次のように論じた。
(8)「韓国銀行の21日の資料を見れば昨年末の韓国の家計負債は1344兆ウォンで再び最大値を記録した。
何より貸し出し需要が銀行圏から非銀行圏に大挙移動した点が尋常でない。
与信審査強化で銀行の敷居が高くなった隙に相互金融、セマウル金庫、保険会社、消費者金融のような高金利のノンバンクが活発な営業を通じて貸し出しを増やす「風船効果」を生んだ。
ノンバンクは所得と信用が低い社会的弱者・多重債務者の割合が大きい。
これらの貸し出しが不健全化する場合、金融不安はもちろん低所得限界階層の生計圧迫→消費萎縮→社会不安が加重されかねない」。
韓国では、家計の破産で「徳政令」を出した経験が複数回ある。
個人が借りすぎによる過剰債務で首が回らなくなったからだ。
こうなると、個人の責任論も出てくるが、韓国の福祉制度は貧弱であるという根本的な問題も抱えている。
OECD加盟国で、韓国の福祉予算は対GDP比によると、最も低いグループに属している。
儒教社会の特色だが、親が子どもの教育費(大学まで)を負担するのが普通である。
大学進学率は70%を越えている。親が、子どもの結婚費用まで持の例も多い。
これでは、親の貧乏は不可避である。
老後資金を貯められず、高齢者の自殺率が最も高いという悲劇的な末路を辿っている。
本来ならば、こういう社会の矛盾を解決すべく社会全体が立ち向かうはずだが、あくまでも個人レベルの問題として捉えられている。
これが、市民社会の歴史がない儒教社会の悲劇であろう。
(9)「経済が大きくなり民間負債が適切に増えるのは自然だ。
だが韓国の家計負債はそうではない。
国際通貨基金(IMF)も韓国の家計負債が管理可能範囲内だと比較的厚く評してきたが昨年から立場を変えた。
ノンバンク貸し出し過多、負債世帯の年齢構造、独特の伝貰制度と住宅貸し出し制度など構造的要因を挙げて管理に努めるよう助言する」。
韓国の貸家制度は、日本と違って月々家賃を支払う制度(月貰:ウォルセ)のほかに伝貰(チョンセ)がある。
伝貰は、賃貸契約時にまとまった保証金を払うことで、月々の家賃を支払う必要がないシステムだ。
あらかじめ大家との間で居住する期間を決めておき、契約期間終了時に保証金は全額返金される。
この間、大家は預かった保証金を運用して利益を出して、家賃に充当する。
ただ、
貸出金利が高い場合はこの伝貰は成り立つが、金利が低下局面では運用益が期待できなくなるという
問題が発生する。
伝貰でなく月貰へシフトする傾向が強い。
それにしても、妙な住宅制度があるものだ。「店子」の夜逃げを防ぐ狙いであったのだろうか。
「ノンバンク貸し出し」とは、非銀行の貸し出しである。中国ではさしずめ「影の銀行(シャドウバンキング)」である。
実は、金融の「膿」はここに貯まっているものだ。
日本でも、平成バブルの裏には、この「ノンバンク」が暗躍した。
銀行貸出では金融規制が厳しいので野放図な貸し出しは不可能である。
銀行がノンバンクを隠れ蓑に利用した面がある。
だが、ノンバンクの尻は最終的に銀行に持ち込まれる例が多いのだ。
韓国の場合、その辺の事情は不明だが、安心はできない。
(2017年3月3日)
韓国、「内憂外患」中国減速と家計債務急増で「火の車」経済
勝又壽良の経済時評
日々、内外のニュースに接していると、いろいろの感想や疑問が湧きます。それらについて、私なりの答えを探すべく、このブログを開きます。私は経済記者を30年、大学教授を16年勤めました。第一線記者と研究者の経験を生かし、内外の経済情報を立体的に分析します。
予見している中国の破綻
家計債務はパンク状態へ
韓国は、政治も経済も大混乱状態にある。
目先の問題に目を奪われ、構造的な弱点を一切、直視しなかった。
そのツケが回っているのだ。
政治問題は、歴代大統領の親族が贈賄で逮捕される不名誉な事件を引き起こしながら、原因がどこにあるか。
そういう点の究明がされずにきた。
ただ、政権を与野党どちらが握るか。それだけに全精力を費やしてきた。
経済問題でも、原因は分かっていた。
財閥制度による寡占経済体制が、大企業と中小・零細企業の所得格差を生み出してきた。
この格差拡大が、国内消費を抑圧し家計負債を空前の規模に膨らませている。
経済活性化策といえば、判で押したように「輸出振興」の4文字が決まり文句になっていた。
具体的には、対中国輸出のテコ入れ策が話題になるだけだ。
家計問題は真剣に議論されることもなかった。
輸出は、中国経済の減速と構造変化が起こっているにもかかわらず、対応できずに足踏み状態できた。
一方、家計債務の増加が、かつてないスピードで進む。まさに、韓国経済は「内憂外患」状態に陥っている。
韓国国内では、中国経済の分析をしていたものの、政策面に生かされず「宝の持ち腐れ」状態であった。
警鐘の役割はメディアにあるはずだが、そのメディアが一過性の報道ですましてきた。
根気よく分析・報道することがなかったのだ。
ましてや、産業界では中国経済の変化を肌身で知ることもなく、対応を誤ってきた。
予見している中国の破綻
『ハンギョレ新聞』(2016年8月7日付)は、
「中国経済、ハードランディングを警告―全経連」を報じていた。
韓国の全国経済人連合会(全経連)が、
中国経済の企業および銀行の経営不良、消費・投資・輸出の不振が激化しておりハードランディングの可能性が高いとし、韓国企業の先制的対応が必要だと警告していた。
全経連といえば、日本の経団連に当たる。そこの調査で中国のハードランディングに注目していたが、
この記事はその後、関心を集めることもなくうち捨てられてきた。
(1)「中国の国内総生産(GDP)に対する企業負債の比率は、15年末基準で170.8%。2010年以後5年連続の上昇である。
これは、新興国平均の104%や主要20カ国(G20)の平均92%に比べて極めて高い水準だ。
また、中国企業の営業利益に対する負債の比率は4倍程度で、
アジアの3.4倍、東ヨーロッパの2.3倍に比べ非常に高く、
中国企業の負債リスクが金融市場の不安を引き起こし、
実物経済の成長にも大きな制約要因として作用するだろうと分析した」。
中国企業の負債比率が、15年末で対GDP比170.8%にも達していた。
GDPは、付加価値である。
企業債務は中国全体の付加価値の1.7倍強にもなっていたのだ。
これでは、とうてい債務の返済は困難である。
中国企業はこの時点ですでに「倒産状態」にあった。
中国企業の負債比率は、営業利益に対して4倍程度である。
アジアの3.4倍、東ヨーロッパの2.3倍に比べ非常に高いことが分かる。
一体、これだけの巨額債務は、どうして返済できるのか。不可能である。
中国政府は、その深刻さに気づいていないのだ。
韓国は、これだけ巨額の債務を抱える中国企業に、何らの警戒心も持たずに来た。
人口が世界一で、「市場が無限」という錯覚に囚われていたに違いない。
また、儒教国という親近感に加えて、かつての宗主国である。
韓国の描いていた中国経済の未来は、根拠なき楽観論というほかない。全てが幻想であった。
(2)「16年2月基準で中国銀行の不良債権規模は1兆4千億中国元(約22兆円)で、不良債権の比率が1.83%で過去10年間の最高値を記録した。
全経連は2008年のグローバル金融危機以後、
中国政府が4兆中国元(約61兆円)規模の景気浮揚策を断行し負債の拡大を容認したために一部銀行の不良債権問題が深刻化したとして、
『スタンダードチャータードは中国銀行の不良債権解決に1兆5千億ドル(国内総生産の15%規模)の救済金融が必要と展望した』と付け加えた」。
最新のデータによると2016年12月末、中国の商業銀行の不良債権額は、1兆5123億元(約24兆9千億円)である。
貸し出し全体に占める不良債権の比率は1.74%である。
16年2月基準で見た中国銀行の不良債権規模は、1兆4千億中国元(約22兆円)で、不良債権の比率が1.84%で過去10年間の最高値を記録した。
ここで、注意していただきたいのは、昨年末と同2月末の不良債権額と不良債権比率の比較である。
昨年末の不良債権額は増えたが、不良債権比率が減っている点だ。
これは、不良債権発生を恐れた商業銀行が貸し出し総額を減らした結果である。
もっとはっきり言えば、日本の平成バブル後に行った、「貸しはがし」と同じ荒技で貸出総額を減らしたのだ。
中国の金融機関もここまで追い込まれてきた何よりの証明である。
(3)「全経連のオム・チソン国際本部長は、『中国政府が過去数年間“世界の工場”として供給中心の経済構造からの脱皮、
内需中心の持続的成長基盤の構築を強調してきたにも関わらず、
消費量が減少したことは特に注目する必要がある』とし、
『韓国の高い中国経済依存度を考慮する時、中国リスクに対する本格対応が必要な時点』と話した」。
韓国企業は、中国リスクに対して無防備である。
韓国の対中輸出依存度は、26%にも達していることから当然、中国リスクを織り込まなければならなかった。
ここで、韓国の与野党は政治休戦して、超党派による対策委員会を立ち上げ、労働改革法などを議決して置かなければならなかったはずだ。
そういう理性的な対応はゼロである。感情論に任せた対立によって時間を空費してしまった
中国リスクは、中国経済の減速ばかりでない。
韓国は、中国産業の構造が耐久財からサービス財へと変化している状態に対応しなかった。
『ハンギョレ新聞』(2016年9月22日付)は、「中国、内需中心成長になれば韓国GDPに打撃」と題して、次のように報じた。
中国の内需市場が、耐久材中心からサービス中心にウエイトを移せば、韓国の製造業が大打撃を受けるという分析報告書がすでに出ていた。
それによると、コンピュータ、電子機器業種が最も大きな被害を受ける見込みだ。
これら業種は、韓国製造業でも高い比重を占めている。
それだけに、中国産業の構造変化が起これば、韓国製造業にミスマッチが発生するのは不可避である。
こうした重大な分析結果が出ていたにもかかわらず、その対応策が練られた跡は窺えない。
ここが日本産業界との違いである。
日本であれば、政府を先頭にして産業構造政策が、議論のテーブルに乗って対策が打ち出される。
韓国では、危機が現実に迫ってこない限り、他人事として見ている。
(4)「韓国開発研究院(KDI)のチョン・ソンフン研究委員は、報告書『中国経済の構造変化が韓国の産業成長に及ぼす影響』において、次のように分析している。
製造業工程で国際的分業関係を意味するグローバル・バリュー・チェーン(GVC)の観点から言えば、韓国製造業は中国の内需市場(注:国内生産という意味)が耐久材中心の成長と緊密に連動してきた。
つまり、韓国のコンピュータ・電子機器・石油化学など耐久材を中心にした製造業は、上記のような中国製造業における突出した『中国特需』を享受してきた」。
韓国製造業は、これまで日本や中国と上手く棲み分けてきた。
日本が高級品、韓国は中級品、中国が低級品というランクわけである。
だが、中国の技術が韓国を追い上げている。
中級品分野では、韓国と中国が競り合っているのだ。
この結果、韓国の対中輸出が伸び悩みから減少へと暗い影が見えている。
中国が、コンピュータ・電子機器・石油化学など耐久材を中心にした基礎産業部門の拡充に努力する「中国特需」に、韓国の製造業は上手くフィットしてきた。
韓国は、この関係が長く続くものと想定していたのだ。
だが、中国はこの分野の「内製化率」を引き上げている。
この内製化率の上昇分が、韓国からの輸入分と置き換わってきた。
「輸入代替化」が進んだのである。
韓国は、中国の内製化率上昇=輸入代替率上昇を軽視していたのだ。
今になって、大慌てしているに過ぎない。
(5)「チョン研究委員は報告書で、
『2014年、中国の耐久材需要が1%増加すれば、韓国の国内総生産に及ぼす影響が0.046%に達した』として、『これは20年前の1995年に比べて15倍も増加した数値』だと指摘した。
20年間に、中国の内需市場に対する韓国の依存度がそれだけ高まったことだ。
実際、2014年の韓国の実質国内総生産(GDP)成長率のうち、中国の内需成長の寄与度は18.5%と推算された」。
中国は、加工型貿易が主流であった。
日本や韓国から部材や部品を輸入し、それを製品に加工して輸出するものだ。
中国の輸出が増えれば、それに伴い韓国の対中輸出で部材や部品も増加する好循環を描いてきた。
2014年時点で見ると、過去20年間で15倍も対中輸出が増えた。
韓国は、この状態がずっと続くものと見ていたのだ。
これが、大誤算であることに最近、気づいて大騒ぎしている。
対応策がないからだ。新製品開発を怠っていたツケが回ってきたと言える。
(6)「中国内需市場の重心は、次第にサービス業の方に移っている。
中国特需に依存してきた韓国製造業にとってミスマッチが起こっている。
チョン研究委員は、『2014年に7%だった中国内需市場の実質成長率が1%下がると、韓国のGDPは0.22%低下する』と分析する。
産業別では、コンピュータ・電子機器の総生産が1.02%減少して、最も大きな打撃を受けることが明らかになった。
次いで、機械・電子機器・自動車の生産が0.29~0.44%、石油化学でも0.39%の減少効果がある」。
中国に限らずどこの国でも、1人当たりの名目GDPが増えれば、次第にサービス業が発展する。
これは、ペティー・クラークの法則として知られているように、第一次産業→第二次産業→第三次産業という発展の流れで証明されている。
中国でも、この流れが起こっているに過ぎない。
とすれば、韓国はいつまでも第二次産業の製造業の輸出にこだわってきたこと自体、見通しがきかなかったことの証明になる。
韓国経済が輸出依存であったから早晩、輸出頭打ちによって韓国の経済成長率にマイナス効果を及ぼす。
分かりきったことなのだ。それを察知できなかった点が、韓国政府と企業の大失敗である。
(7)「チョン研究委員は、
『中国の内需市場で、成長率低下とサービス化が同時に進めば、
韓国の主力産業の競争力が相対的に減少する』として、
『最近、韓国で起きている重化学産業の供給過剰問題が深刻化する恐れがあり
、根本的な対応ができるよう準備しなければならない』と指摘した」。
韓国経済が今後、中国への依存度を減らすことが重要である。
幸か不幸か現在、韓国はTHAAD(超高高度ミサイル網)導入をめぐって、中国からの猛反対を受けている。
その結果、中国政府は「韓流」を排除しており、中国国内での出演が姿を消している。
訪韓の中国人観光客も20%はカットされている。
考えようによっては、韓国にとっては良い機会である。
「脱中国」と同時に、韓国国内市場を復活させなければダメである。
それには、次に述べる所得格差の解決が不可避である。
韓国は現在、輸出依存=財閥依存がもたらす弊害のなかに沈んでいる。
大統領弾劾も、政治と経済の癒着がもたらした事件である。
この癒着を解くには、経済構造を変えることである。
財閥を解体して産業の活性化を推進するのだ。
「循環出資」というまやかしの企業支配構造をぶちこわさなければ、中小企業が生きられず窒息する。
財閥は、中小企業製品を買いたたいており、中小企業から「利益収奪」する、というマルクス用語がそのまま当てはまる状況にある。
家計債務はパンク状態へ
韓国銀行(中央銀行)は2月21日、16年の韓国の家計債務は過去最高の1344兆3000億ウォン(約132兆7000億円)に膨らんだと発表した。
増加幅も過去最大だった。
家計債務の増加率は11,7%で、経済成長率(2.7%)の4倍を上回っている。
韓国経済の成長ペースを大幅に上回るスピードで、家計債務が増えているのだ。
さらに、次に指摘するように、家計債務の「量的な膨張と質的な悪化が同時発生」している点で危険性が高くなっている。
昨年1年間に銀行の貸出残高が9.5%の増加にとどまった。
信用力が低い人、低所得者、多重債務者の利用が多い銀行以外の融資は、なんと17.11%もの急増である。
これは、銀行が融資審査を強化したことで、銀行以外の融資が大幅に膨らませたものだ。
正規の金融機関からの借入が困難な人々が、融資条件が緩和されている「非銀行」からの融資に群がった結果である。
問題は、金利が引き上げられた場合の影響である。
米国は近く、今年に入って2度目の利上げに踏み切ると予測されている。
これは、韓国へも影響するはずで利上げの公算が大きくなろう。
その場合、非銀行からの融資者は銀行に比べて高い金利の上に、さらなる高い金利の支払いが求められる。家計への影響は甚大だ。
『韓国経済新聞』(2月22日付)は、社説で「韓国経済の信管、家計負債管理に総力傾ける時」について、次のように論じた。
(8)「韓国銀行の21日の資料を見れば昨年末の韓国の家計負債は1344兆ウォンで再び最大値を記録した。
何より貸し出し需要が銀行圏から非銀行圏に大挙移動した点が尋常でない。
与信審査強化で銀行の敷居が高くなった隙に相互金融、セマウル金庫、保険会社、消費者金融のような高金利のノンバンクが活発な営業を通じて貸し出しを増やす「風船効果」を生んだ。
ノンバンクは所得と信用が低い社会的弱者・多重債務者の割合が大きい。
これらの貸し出しが不健全化する場合、金融不安はもちろん低所得限界階層の生計圧迫→消費萎縮→社会不安が加重されかねない」。
韓国では、家計の破産で「徳政令」を出した経験が複数回ある。
個人が借りすぎによる過剰債務で首が回らなくなったからだ。
こうなると、個人の責任論も出てくるが、韓国の福祉制度は貧弱であるという根本的な問題も抱えている。
OECD加盟国で、韓国の福祉予算は対GDP比によると、最も低いグループに属している。
儒教社会の特色だが、親が子どもの教育費(大学まで)を負担するのが普通である。
大学進学率は70%を越えている。親が、子どもの結婚費用まで持の例も多い。
これでは、親の貧乏は不可避である。
老後資金を貯められず、高齢者の自殺率が最も高いという悲劇的な末路を辿っている。
本来ならば、こういう社会の矛盾を解決すべく社会全体が立ち向かうはずだが、あくまでも個人レベルの問題として捉えられている。
これが、市民社会の歴史がない儒教社会の悲劇であろう。
(9)「経済が大きくなり民間負債が適切に増えるのは自然だ。
だが韓国の家計負債はそうではない。
国際通貨基金(IMF)も韓国の家計負債が管理可能範囲内だと比較的厚く評してきたが昨年から立場を変えた。
ノンバンク貸し出し過多、負債世帯の年齢構造、独特の伝貰制度と住宅貸し出し制度など構造的要因を挙げて管理に努めるよう助言する」。
韓国の貸家制度は、日本と違って月々家賃を支払う制度(月貰:ウォルセ)のほかに伝貰(チョンセ)がある。
伝貰は、賃貸契約時にまとまった保証金を払うことで、月々の家賃を支払う必要がないシステムだ。
あらかじめ大家との間で居住する期間を決めておき、契約期間終了時に保証金は全額返金される。
この間、大家は預かった保証金を運用して利益を出して、家賃に充当する。
ただ、
貸出金利が高い場合はこの伝貰は成り立つが、金利が低下局面では運用益が期待できなくなるという
問題が発生する。
伝貰でなく月貰へシフトする傾向が強い。
それにしても、妙な住宅制度があるものだ。「店子」の夜逃げを防ぐ狙いであったのだろうか。
「ノンバンク貸し出し」とは、非銀行の貸し出しである。中国ではさしずめ「影の銀行(シャドウバンキング)」である。
実は、金融の「膿」はここに貯まっているものだ。
日本でも、平成バブルの裏には、この「ノンバンク」が暗躍した。
銀行貸出では金融規制が厳しいので野放図な貸し出しは不可能である。
銀行がノンバンクを隠れ蓑に利用した面がある。
だが、ノンバンクの尻は最終的に銀行に持ち込まれる例が多いのだ。
韓国の場合、その辺の事情は不明だが、安心はできない。
(2017年3月3日)