中韓の「経済関係」悪化 ロッテ、現代自動車が大打撃
中韓の経済関係が悪化し始めている。
中国海関総署が8日に発表した2017年1-8月の貿易統計によれば、ドルベースでの輸入は前年同期比で16.9%増加したが、韓国からの輸入は9.5%増に留まった。
ちなみに、日本は14.3%増、ASEANは22.3%増、EUは14.6%増、アメリカは20.1%増、台湾は10.2%増である。
輸入全体の構成比でみると、EUが13.5%、ASEANが12.4%で、韓国は9.4%である。
日本は9.0%、アメリカは8.6%、台湾は8.1%である。国単位で示せば、韓国は中国にとって最大の輸入先である。
一方、台湾と同様、韓国は、内需の規模が小さいために中国からの輸出は少ない。
そのため、韓国との貿易関係は中国側の▲436億ドルの赤字である。
台湾の▲663億ドルよりは少ないが、日本の▲171億ドルよりは大きい。
ちなみに、ASEANは316億ドルの黒字で、全体では2715億ドルの黒字である。
中国は台湾、韓国、日本から大量の部品、素材などを輸入し、それを中国本土で消費するほか、アメリカ、EU、ASEANなどに売るといったグローバルな生産構造を作り上げている。
見方を変えれば韓国は、こうした生産構造の恩恵をもっとも強く受ける国の一つともいえよう。
そうした韓国にとって、中国貿易の不振は大きなダメージである。
ロッテマートが壊滅的な被害 事業売却を検討
貿易以上に不振が顕著なのは、韓国企業の本土事業である。
中でも韓国ロッテグループの小売部門であるロッテマートが壊滅的な被害を受けている。
9月14日の聯合ニュースでは、「中国本土でスーパーマーケットを展開するロッテマートは業績悪化に耐えられず、店舗売却の準備に入った」と伝えている。
また、同日のニューシスの報道によれば、「ゴールドマンサックスを売却業務の主幹事証券として、近日中に店舗売却を決める。
詳細は決まっていないが、112店舗すべてを売却する可能性もある」としている。
原因は明白である。
韓国政府がTHAAD(Terminal High Altitude Area Defense 、高高度ミサイル防衛システム)ミサイルの配置を決定したことにある。
韓国政府は2016年9月30日、慶尚北道星州郡にあったゴルフ場「ロッテスカイヒル星州カントリークラブ」をTHAAD配備用地と決め、所有者のロッテ商事には、代わりに京畿道南楊州市にある軍用地を提供すると発表した。
偶然かもしれないが、この少し後に、パク・クネ大統領のスキャンダルが発覚する。
2016年末時点でロッテマートは本土に115店舗のスーパーマーケットを展開していた。
2007年から本土小売事業に進出、大型店を中心に出店、大量仕入れ大量販売によって、
主に中クラスの商品を値ごろな価格で提供することで、着実に中国消費市場に浸透していった。
ところが、2016年12月、すべての営業店における税務調査、消防、衛生、安全検査を含む大規模な調査が入ることになった。
2017年2月28日、ロッテ商事が用地の交換に応じる契約を結んでからは、消費者の不買運動が高まり、営業停止を免れた店舗についても顧客が激減した。
複数のメディアによると、
2017年8月末現在、中国本土に112店舗あるロッテマートの内、87店舗が消防当局より営業停止処分を受けており、
13店舗が自主的に営業を停止、わずかに12店舗が営業を行っているものの、売上高は75%減少しているなどと伝えている。
ロッテグループは3月24日、増資や貸出の形で3600億ウォン(21億6000万元相当)の支援を行ったものの資金は枯渇、8月31日に3億ドル(19億8000万元相当)の追加支援を行っている。
ロッテグループの不振は本土ビジネスだけに限らない。
8月22日の韓国マスコミ報道によれば、ロッテホテルは中国人顧客の激減によって、上半期の業績は過去最大となる900億ウォン(5億2800万元)の営業赤字となった。
業界トップの免税店事業も同じ理由で第2四半期は14年ぶりの赤字となったようである。
こうした厳しい状況の中でも、ロッテグループは決して中国ビジネスを放棄したりはしないと宣言している。
自動車、化粧品、飲食、芸能など消費関連が大打撃
ロッテマート以外でも、不振に陥っている韓国企業は多い。
例えば、現代自動車では今年上半期の本土での販売台数は前年同期比で▲40.7%減となった。
販売不振が続く中で、合弁先である北京汽車集団との関係が悪化している。
“生産量の低下、一部工場の閉鎖、資金繰り悪化による支払の遅滞、部品供給の停止、生産の遅れ”といった悪循環に陥っており、中国側が合弁解消を検討しているといった報道も見られる。
グループ傘下企業である起亜自動車の上半期販売台数は▲54.2%減であり、中国の消費者は韓国車に対して強い拒否反応を示している。
化粧品にしても、飲食にしても、芸能にしても、消費者に近い分野は大きなダメージを受けている。
サムソン電子については、商品競争力が強く、中国政府、企業にとって重要な顧客であることから、大きな被害は受けていないようだが、本土スマホ市場ではシェアを落としている。
決断を迫られる韓国 選ぶのはアメリカか?中国か?
“安全保障はアメリカ、経済は中国”といったご都合主義は通らなくなってきた。
韓国はアメリカ、中国といった大国の間で板挟み状態となっている。
現状ではマクロベースの貿易、経済への影響はそれほど顕著ではないが、国家、消費者による韓国外しがこの先、数年単位で続くとすれば、これは韓国経済全体を揺るがす大問題となりかねない。
韓国市民の中にはTHAAD配備に反対する者も少なくない。
政局次第では、韓国がこの先、経済や民意を優先し、THAADの配備を中止し、中国との関係を頼りに北朝鮮問題を解決しようとするかもしれない。
そうなれば、日本、アメリカは大きな試練に立たされることになる。
田代尚機(たしろ・なおき)
TS・チャイナ・リサーチ代表取締役
大和総研、内藤証券などを経て独立。2008年6月より現職。1994年から2003年にかけて大和総研代表として北京に駐在。以後、現地を知る数少ない中国株アナリスト、中国経済エコノミストとして第一線で活躍。