日本と世界

世界の中の日本

韓国国民は、迫り来る経済の構造リスクに気づいているのだろうか。

2017-09-29 19:27:08 | 日記

 勝又壽良の経済時評

日々、内外のニュースに接していると、いろいろの感想や疑問が湧きます。それらについて、私なりの答えを探すべく、このブログを開きます。私は経済記者を30年、大学教授を16年勤めました。第一線記者と研究者の経験を生かし、内外の経済情報を立体的に分析します。

2017-09-29 05:00:00

韓国、「3大リスク」家計債務・高齢化・失業率を解決できるか

S&Pはすでに警戒している

 閣僚に教授経験者を揃えたが

  韓国国民は、迫り来る経済の構造リスクに気づいているのだろうか。

  朴槿恵(パク・クネ)前大統領が、性格的に「人見知り」であったゆえに、「不通大統領」と言われて敬遠されてきた。

文在寅(ムン・ジェイン)大統領は朴氏とは打って変わって「外向的」だ。腰は低くいつもニコニコ顔。

人気の高まるのは当然であろう。まず、その人気ぶりを示す記事を紹介する。

  「文大統領の人気はトップアイドルを彷彿(ほうふつ)とさせる。芸能界の熱狂的ファンとよく似ている。

支持者は大統領を『私たちのイニ』(イニは大統領の名前の愛称)と呼ぶ。

大統領の登山服、履き古した靴に甲論乙駁(おつばく)状態だ。

文在寅グッズも人気を集めている。

人気作曲家がつくったという大統領にささげる曲まで登場した」

(『朝鮮日報』9月17日付コラム「批判なき文在寅ブーム」)

  文氏の人気は大変なものだ。

時給の最低賃金は、2020年に約1000円に引上げる。

公務員を17万人増やす。

非正規雇用は正規雇用にするなど、国民ウケする政策をズラリと並べた。「ポピュリズム全開」という感じである。

  だが、韓国経済を襲う大津波の兆候が見え始めている。

皮肉にも、文氏の大統領就任がそのリスクを高める要因になりそうだ。

具体的には、「所得主導経済」である。

最低賃金の大幅引上げに象徴されるように、賃金だけを引上げても韓国経済は好循環過程に移行できるものではない。

この点は、私もブログで一貫して主張している。

所得が増えるには、企業の生産活動が活発でなければならない。

ところが、文政権は「反企業主義」である。企業性悪論に立っているから、企業はできるだけ規制しておかなければならいと見ている。

この「反企業主義」の下では、所得は増えないのだ。この理屈を次のコラムが説明している。

  「世界で250万部売れた『マンキュー経済学』は、そのうち30万部以上が韓国で売れた。

この教科書は一様に、『所得は成長の結果であり、成長の源泉でない』で教えている。

これほど熱心に経済学原論を勉強してきた韓国で、所得が成長の源泉という正反対の所得主導成長論が通じるのは本当に驚く」

(『中央日報』9月13日付コラム「経済学原論と正反対の危険な所得主導成長」)

 『マンキュー経済学』とは、懐かしい書名だ。現政権のトップは、この経済書を読んでいないのだろう。

この書は、1998年に米国で出版されて以来、世界的なベストセラーになっている。

日本語版邦訳は私の古巣、東洋経済新報社である。

文政権は、経済学の常道から外れた「所得主導経済」なるものを実験しようとしている。

結果は、「失敗」という形で「文人気」に水を掛けることになろう。

失敗が分かっていて突進するのは、「カミカゼ経済政策」と言わざるを得ない。

 韓国経済は、これまでの「成長神話」が崩壊した。

戦後の急成長は、日本からの技術と資本の応援があったからだ。

そのことを完全に忘れて、「慰安婦だ」、「徴用工だ」と日本批判に余念がない。

日韓には深い溝ができており、ここ数年は日本企業と韓国企業の交流が断絶してきた。

これが災いして、韓国企業は世界の技術動向から置き去りにされた。

まさに、「反日」が、韓国経済の墓穴を掘った。謙虚でなかった報いを受けているのだ。

  S&Pはすでに警戒している

 『中央日報』(9月15日付)は、

「韓国、格付けを脅かすのは北核より家計負債」と題する米国格付け大手スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)のキムエン・タン常務(アジア・太平洋地域の格付け総括)のインタビュー記事を掲載した。

  この記事では、韓国経済の抱える構造上の問題を指摘している。

家計債務・高齢化・青年失業率の三大リスクである。

これら問題が、文政権の掲げる「所得主導経済」によって解決できるとは思えない。

それほど根が深いのだ。

解決へのヒントは、次の点に要約できる。

規制緩和による経済活性化が大前提だ。

最低賃金を引上げて解決できるような小手先の問題でない。

はっきり言えば、アベノミクスの精神を見倣うことである。

(1)「韓国経済にとって長期的には、3つの課題が横たわっている。

①この2年間に急速に増えた家計負債の問題。

②高齢化問題も時間の経過とともに目立ってくるはずだ。

③青年失業率は経済だけでなく長期的に政治的な影響があるだろう。

若者が就職できない。また、就職が期待に及ばなければ政治的な余波が生じるものと見られる。所得不均衡も深刻化している」

  S&Pは、韓国経済の抱える三大リスクとして、次の点を上げている。

 ①  過去2年間に急速に増えた家計負債の問題。

 ②  高齢化問題は今後、時間の経過とともにさらに目立ってくる。

 ③  高い青年失業率は、経済面だけでなく長期的に政治面不安問題として影響する。

  以上の三点を並べると、韓国経済が危険な状態にあることは、誰にも分かるはずである。

こうした構造問題にメスを入れなければ、いずれ破綻するに違いない。

構造問題にメスを入れるとは、脱「既得権益」を鮮明にすることである。

文政権は、財閥制度の合理化を旗印に掲げている。

もう一つ、既得権益集団である労組に対しては手つかずである。

労働改革は、産業構造の変化に合わせて行なわなければならない。

だが、労組が文政権の強力なサポートをしてきた。この切っても切れない関係が、韓国経済の合理化を阻んでいる元凶である。

 (2)「家計負債の増加問題は、政府が選択できる政策手段を制限するというマイナスがある。

家計負債が増えれば、その負債返済が優先されるので可処分所得が減る。

可処分所得の減少は、個人消費を減らすので企業の売り上げが落ちる。

そうなると、企業は設備投資を抑制する。

銀行の貸出先が減るので、不動産業への貸出も縛られる。

政府が不動産業の振興を展開できる余力が減る。

こうして、不動産価格が急落すれば、銀行は担保価値の目減りが起こり銀行経営が不安定になる。

すぐにこういう一連の影響を及ぼすのだ。しかし2、3年以内は格付けに影響は与えないだろう」

韓国の家計債務の増加要因は、不動産購入に伴う借り入れが大きな理由だ。

韓国の家計は、資産(純資産)構成で不動産比率が極めて高いのだ。

実に74%にも達している。米国の35%、日本の44%と比べて異常な高さである。

韓国人が不動産所有にこだわるのは、金融資産へのなじみが薄いという側面もあろう。

金融資産であれば、負債が増えるはずもない。

一度に高額の支払いがないからだ。

韓国社会全体が、儒教という過去回帰型文化ゆえに、不動産を珍重して金融資産に興味を持たないという性向が強いのであろう。

その点、日本がNISA(少額投資非課税制度)によって、金融資産へ国民の関心を誘導していることは効果的である。

  (3)「ベビーブーマーが引退後に個人事業をしたり、家賃を受けて生活するために家を買おうと融資を受ける。

どんな事業であろうとリスクはある。

しかも韓国では中小企業と自営業者の実績がそれほど良くない。

資金を借りて事業をしても所得として戻ってこないことがある。

高齢化で国内の需要が減れば賃貸料も減り、住居価格自体も落ちるリスクがある。この場合、韓国の家計が悪化するだろう」

  2016年の人口構成比で、韓国は高齢層が若年層を初めて上回った。

韓国統計庁によると、16年11月1日時点の総人口は前年から0.4%増の5127万人で、

うち65歳以上が678万人(13.22%)、0~14歳が677万人(13.20%)だった。

韓国の高齢者の半数は、後述の通り貧困層に当たるとされる。それだけに、高齢社会の韓国経済に与える影響が懸念されている。

 老後資金づくりは、理想を言えば年金に頼ることが基本だ。

韓国では、年金制度が未成熟である。

年金受給が可能な高齢者の78%は、年金を全くもらえないか、年金をもらっていても受給額が月25万ウォン未満(約2万5000円以下)に過ぎない。

老後の生活に備えるべき資金が、子どもの教育費に消えてしまう例も多い。

最近も、子どもから米国の大学院留学費用を支払へという裁判が起こされ敗訴した例がある。

何と、1100万円も支払えという訴状だ。こういうあり得ない話が出るほど、韓国社会は非常識な面がある

  韓国では、親が子どもの教育費を工面して大学を卒業させても、満足な就職先はないのが現状である。

この問題は後で取り上げるが、歳をとった親は生活苦、大学を出た子どもは就職難。

まさに、地獄そのものであろう。

この状態をいかに突破するか。

労働改革の必要性がここにあるのだ。労働組合は、既得権益確保のために一切の労働改革を阻む。余りにも身勝手で「むごい」話だと思う。

  日本の高齢者は恵まれている。

日本の高齢化対策は世界4位である。

米コロンビア大や南カリフォルニア大の研究者が開発した、高齢化対策指数の「ハートフォード・インデックス」によると、

①ノルウェー、

②スウェーデン、

③オランダ、

④日本、

⑤米国である(『ロイター』9月7日付け)。

日本は、福祉先進国の北欧諸国に次いでいる。このランキングは総合指数であり、高齢者が健康な生活を十分に送れるかどうかを判定したものだ。

  閣僚に教授経験者を揃えたが

 『中央日報』(9月15日付)は、S&Pアジア・太平洋地域韓国企業信用評価チームのパク・ジュンホン・チーム長の見解も報じた。

  (4)「S&Pは、家計負債と人口構造変化、高い青年失業率など構造的リスクを国家信用等級に影響を及ぼす長期的変数だと判断した。

タンチーム長は、『韓国は教育に対する投資が依然として高いのに青年失業率が上昇している』とし、

『若者層が職を得ることができる方向で教育投資が行われなければならない』と話した。

S&Pは昨年8月、韓国の国家信用等級をAA-からAAへと一段階上方修正した後、同水準を維持している」

  繰り返しになるが、韓国経済の三大リスクについて、S&Pは①家計負債、②人口構造変化、③高い青年失業率を上げている。

これらの項目をじっと眺めると、共通因子の存在に気づくだろう。

つまり、高学歴の教育を受けながら、それを生かす方法を知らないという皮肉である。

「反日」では国を挙げて日本を糾弾するが、韓国自身が抱える矛盾点には、誰も気づかずにいることだ。

これこそ、保守回帰型文明の落とし穴である。

  韓国の高学歴を生かすには、「イノベーション能力」を高めることだ。

それには、諸々の規制を外すことである。

文政権は、「反企業主義」であって規制を強める方向を目指している。

これが、そもそも間違いである。企業は抑制対象でなく活性化させてこそ、初めて成果が上がるもの。その点で、文政権には多くを期待できないのだ。

  文政権では大学教授を多数、閣僚に任命している。典型的な学歴政権である。

これでは、抽象的な議論に終始して一歩も先へ進むまい。

ちょうど、大学の教授会を思い出せばいいだろう。韓国の大学教授会は、どうなっているか不明だが、一般的には「教授会万能主義」である。

教授会が学部の人事権すら持つという、「治外法権」的な例が多い。韓国政府が、こういうムードに流されているとすれば、「イノベーション」にはほど遠いであろう。

  8月の失業率は前年同月と変わらず3.6%だ。

このうち若年層(15~29歳)の失業率は9.4%で前年同月比0.1ポイント悪化。金融危機に襲われた後の1999年8月の10.7%に次いで最も高い水準である。

若年層は、多くが大学卒である。

日本の昭和初期(金融恐慌時)に大卒失業者が多く出たとき、「大学は出たけれど」という歌が流行った。

今、韓国にそれが起こっているのだ。韓国は大不況でなくても、大卒者の失業率が10%近い社会である。

これは、韓国社会が構造的な問題を抱えている証拠である。

その病根は、社会の閉鎖性にあるはずだ。

既得権益を固守する層が強い権力を握っている。「反日」をやる暇があれば、国を挙げて究明すべきことであろう。

  韓国では、多くの大学卒業者が公務員を希望職種に上げている。

卒業後、2年や3年は「就職浪人」が当たり前という社会では、「高学歴」が企業活動に生かせる余地がない。

親が、老後資金まで子どもの教育費につぎ込んでも、「リターン」は期待薄とすれば「親子共倒れ」になる。

韓国最大の矛盾はここにある。

韓国政府が、「教授会」まがいの陣容を構えても、議論するだけで結論は出ないに違いない。インテリ特有の弱さである。

  (2017年9月29日)

 


【民営化10年 郵政の苦闘(下)】

2017-09-29 17:35:05 | 日記

 【民営化10年 郵政の苦闘(下)】
大型M&A 繰り返せぬ失敗 収益力強化へ「有効な手段」
産経
 
「本当にシナジーがあるんですか。あるのなら数字で出してください」

 日本郵政が昨秋から進めていた野村不動産ホールディングスの買収交渉。

しかし、慎重な意見も根強く、ある社外取締役は、経営陣にこう詰め寄ったという。

自民党議員からも「(買収は)マネーゲームではないか」と指弾された。

結局は売り手側と価格が折り合わず、白紙撤回された。

 交渉が表面化した今年5月は最悪のタイミングだった。

日本郵政は約2週間前に、平成29年3月期連結決算が民営化後初の最終赤字となる見通しを発表したばかり。

その主因が別の大型買収の“失敗”だったからだ。

 27年2月18日、日本郵政の西室泰三社長(当時)は、約6200億円の巨費を投じ、オーストラリアの大手物流会社トール・ホールディングスを買収すると発表。

西室氏は記者会見で「グローバル展開を考えると最高のパートナーだ」と胸を張った。

しかし、その後、資源価格の低迷などでトールの業績は不振に陥った。

 買収額が買収される企業の純資産を上回った場合、その差額は「のれん代」として買い手企業の資産に計上されるが、買収した企業の業績が悪化すると目減り分を取り崩す必要が出てくる。

日本郵政は、残っていた4千億円ののれん代を一括で償却。この特別損失により、29年3月期は最終赤字に転落した。

 西室氏はすでに退任しているが、同じことを繰り返すわけにはいかない。内部から慎重な声が出るのは当然だった。

 それでも、日本郵政が一時、野村不動産の買収を目指した理由は何か。

それは、郵政民営化法を読めば容易に想像がつく。

日本郵政は日本郵便のほか、上場するゆうちょ銀行とかんぽ生命保険を主な子会社としているが、法律では日本郵政が持つ金融2社の株式について「その全部を処分することを目指す」としているのだ。

 日本郵政グループの経常利益の9割超は金融2社がたたき出している。

旧郵政省(現総務省)出身者を中心に、金融2社を手放すことへの危機感が強いという。

日本郵便は子会社であり続けるが、国内郵便事業は成長性に乏しい。

国際物流事業の強化のために買収したのがトールで、不動産事業強化のために傘下に収めようとしたのが、野村不動産だった。

    ◇  ◇

 のどかな田園風景が広がるある地方。地元の人がそこかしこで「売り出すらしいね」とささやき、ヤギを連れた女性が「私も気にした方がいいでしょうか」と関心を示す。

 今月中旬、こんなテレビCMで周知がはかられたのは日本郵政株の2次売却だ。

政府が保有する郵政株を売却するのは27年11月の東証1部上場以来、1年10カ月ぶり。

赤字決算などで見送られる可能性も指摘されていたが、政府は今月下旬、約1兆4千億円分の売却に踏み切った。

財務省幹部は「直近の決算(29年4~6月期)が黒字で、中期経営計画も堅調に進んでいる」と説明、新年度の業績の進(しん)捗(ちょく)が判断材料になったと示唆する。

 29日に新しい株主に受け渡され、政府の保有比率は80%超から60%弱に下がる見通し。日本郵政は少なくとも、数字のうえでは脱・国有化に一歩近づく。

    ◇  ◇

 今後の焦点は、金融2社株の追加売却に移る。

売却が進むと、日本郵政は巨額のキャッシュを獲得する一方、両社がもたらしてきた利益はグループ外に流出する。

日本郵政の長門正貢社長は「郵便だけを持つ会社になることを考えると、何らかの売上高のカバーが必要。M&A(企業の合併・買収)が有効な手段であることは変わらない」と強調する。

トール、野村不動産と苦杯を味わってきた大型買収で「3度目の正直」となるか。地道な収益改善策とともに、民間企業らしい次の“一手”にも注目が集まる。

(この連載は高橋寛次、大坪玲央が担当しました)

 

小池都知事率いる「希望の党」に全く希望が見えない理由

2017-09-29 17:09:54 | 日記

小池都知事率いる「希望の党」に全く希望が見えない理由

安倍総理が衆議院の解散を表明するやいなや、25日、小池百合子東京都知事が新党「希望の党」の立ち上げを発表した。

そして、驚くことに、野党第一党である民進党が希望の党への事実上の合流を一方的に決めた。

有権者にとって新しい選択肢が増えることは望ましいことかもしれないが、「改革保守」という抽象的な理念と「日本をリセットする」というふわふわとした目的を掲げ、現職議員が寄せ集まった新党に、果たして希望はあるのか。

(政治ジャーナリスト 黒瀬徹一)

よくわからない「国政への関与」の目的小池都知事は何がしたいのか

日本をリセットする――。

「希望の党」立ち上げの際に小池都知事の言葉を聞いた時、《どこかで聞いたことがあるな》と感じた。かつて大阪維新の会が国政に進出する際に掲げた「グレート・リセット」という言葉に酷似している。

リセットだけではない。その他にも「しがらみのない政治」など、どこかで聞いたことのある“使い古された言葉”のオンパレードだった。

正直、小池都知事が何をしたいのか、よくわからない。何のために国政に関与するのか。

国政に勢力を持つことは「都政運営にもプラス」という意見もあるが、国政で与党になるならともかく、少数政党を国政に保持したところで、あまり意味がない。

日本維新の会の歴史から見ても明らかなように、地方政治が国政の政局に左右されてしまい、むしろ都政の運営が困難になるだろう。

例えば、2020年に控える東京オリンピック・パラリンピックの準備を円滑に進めるためには、政府との協調は欠かせない。

新党を立ち上げたところで、国政で勝てる議員の数は限定的である。

下手に少数政党を作っても、自民党からの“裏切り者”と一緒に選挙をかき乱せば、当然自民党・公明党との間に禍根を残してしまうだろう。

都議会でも小池都知事の動きへの苦言が相次いだ。

それはそうだ。都議選の後、「知事職に専念する」として都民ファーストの会の代表を退いたにもかかわらず、舌の根も乾かぬうちに、今度は「国政政党の代表をやる」と言い出したのだから。

端から見れば、単に小池人気を背景にした政治屋たちの「議席とりゲーム」にしか見えない。

もしくは、「実は、現職の衆議院議員の中に倒したい敵がいる」など、表に出せない裏目的でもあるのだろうか、と勘ぐってしまう。

正直、筆者は希望の党の設立、そして民進党との合流に全く希望を見いだしていない。その理由を論じたい。

改革保守とは何か政治の世界に蔓延する抽象ワード

小池都知事の会見では抽象ワードばかりが並んでいた。例えば、希望の党は「改革保守」らしい。

あたかも一般的な言葉のように普通な顔でシレッと説明していたが、「改革保守」とは何なのか。読者の中で、きちんと説明できる方がどれだけおられるだろう。もしおられたら、TwitterやSNS上ででも、ぜひ教えていただきたい。

そもそも、日本を「リセット」するのに「保守」とは言葉そのものに矛盾を感じる。

保守という政治概念は、日本においては、戦後、自由民主党が結党される時に確立したと考えている。

冷戦時代の1955年、分裂していた社会党が統一されたことに危機感を覚えた自由党と民主党が合併した、いわゆる「保守合同」である。

ここで言う保守とは、あくまでも社会主義・共産主義が輝いていた(脅威として君臨していた)時代において、資本主義・自由主義体制を保守しようという意味の言葉であって、今の時代にはもはや死語と言っても過言ではないだろう。

改革という言葉にしても、政治家というものは皆一様に「我こそが改革派」と謳うものだ。

「我こそが既得権益」と名乗る人はいない。

筆者はとある政党の候補者が「既得権益と戦う!」と駅前で演説しているのを聞いて、素朴に「既得権益って具体的に誰ですか?」と尋ねてみたことがある。

その候補者は返答に困り、「いや…既得権益は、今の世の中で得してる人です」と抽象的なことしか答えなかった。

新党が掲げる具体的な政策は「情報公開」くらい。

しかし、築地・豊洲問題の決着に関する情報公開は、関係者が満足するレベルのものだったろうか。

都知事選や都議選で掲げた具体的な大義と比べて、今回の国政進出における意義は全く見えない。

東京10区の仁義なき戦い選挙調整に注目

ところで、希望の党設立まで新党を模索していた若狭勝衆議院議員はどういった人物なのか。

若狭氏は、元検察官・弁護士の肩書きを持つ。2014年12月の衆院選では選挙区は持たず、比例単独で初当選した。

その後、小池百合子都知事が東京都知事選挙へ出馬するため衆議院議員を辞任したことに伴って、空席となった東京10区で実施された補欠選挙で自由民主党から出馬し、当選した。

したがって、議員歴は3年弱。東京10区での活動歴は1年にも及ばない。だから、知名度も低い。多くの方が「この人、誰?」と思ったのは自然の反応なのだ。

自由民主党からすれば、小池都知事に裏切られ、空席を埋めるために公認した若狭衆議院議員にも裏切られたことになる。

東京10区は元小池都知事の選挙区だから、小池人気にあやかった方が選挙に強いという判断かもしれない。

だが、ここで自民党が“刺客”を放てば、正直、勝負はわからない。

前回の補欠選挙で若狭氏が獲得した票は7万5755票。一方、民進党は4万7141票を得ており、過去2回の衆院選を見てもこの票数は安定している。

民進党が解党的に希望の党への合流を決定したことで、有権者がどう判断するかが全く予想できなくなったため、東京10区は激戦になるだろう。

去年自民党で当選したばかりの人が、今度は違う方の政党で出馬する。有権者はそのことをどれだけ許容できるだろうか。

政治屋たちの希望の党自民党を倒す本気さは伝わるが…

次に、若狭議員以外の新党に合流する議員の顔ぶれはどうなのだろうか。

まず、小池都知事の威光の恩恵を強く受ける東京から見てみよう。

 ・東京3区(品川区、大田区、島嶼部)の松原仁衆議院議員。

 ・東京9区(練馬区)の木内孝胤衆議院議員。

 ・東京21区(八王子市、立川市、日野市、国立市、多摩市の一部、稲城市の一部)の長島昭久衆議院議員。

この3人の議員の共通項は、元民進党という以外に、皆、小選挙区では勝てていない、ということが挙げられる。木内議員に至ってはほぼダブルスコアで敗退している。

確かに、東京都議会議員選挙で都民ファーストの会は大勝した。しかし、だからと言って、「民進党」から「希望の党」へ看板を変えたからと言って、国政における支持が集まるほど話は単純ではない。

例えば、東京3区であれば、自民党の候補は石原宏高衆議院議員だ。

知名度も高い石原議員を「希望の党」という看板だけで倒せると思うのは甘い考えだろう。

さらに、東京以外の選挙区となると、比例枠狙いの“政党サーファー”ばかり。

埼玉県の行田邦子参議院議員は民主党からみどりの風を経てみんなの党へ渡った後、日本を元気にする会を経て希望の党へやってきた。

日本のこころの中山恭子参議院議員は、元は自由民主党から比例で参議院議員に当選したが、夫の中山成彬が自民党から離党することを決めると、夫にくっついて自らも自民党を離党し、たちあがれ日本へ合流した。

その後は、太陽の党、日本維新の会、次世代の党、日本のこころを経て希望の党へやってきた。

行田議員と中山議員がよくわからない「改革保守」の旗印の下、並んで座っていること自体、筆者には全く理解できない。もはや政治信条は関係ないとしか思えない。

「なんとしても自民党を倒したい」という本気さは確かに伝わってくる。そのための選挙戦略としては取り得る中では、“最強の戦略”かもしれない。

ただ、なんのために自民党を倒すのか、自民党の政策の何をどう批判しているのか、がさっぱりわからない。

「改革保守」とか「しがらみ脱却」やら、抽象的なキャッチコピーではなく、具体的な政策議論がほしい。政治屋にとっての希望は、有権者にとっては絶望でしかない。

選挙における主役は有権者だ。

誰の希望を叶える党なのか、具体的なビジョンを示してもらいたい