2016年8月1日
▲「WEDGE Infinity」
日本の財政が絶対に破綻しない理由
黄金時代(3)
「日本政府の財政赤字は巨額で、借金も巨額であり、しかも今後は少子高齢化で財政収支は悪化して行くから、日本政府はいつかは破産する」と考えている人も多いようです。
それならなぜ日本国債を買うのだ? といった話は別の機会に譲るとして、今回は日本政府の破産の可能性について、考えてみましょう。
まずは「最後の手段」があることを確認
日本政府が破産することは、絶対にありません。
最後の最期には、日銀に紙幣を印刷させて国債を償還してしまえば良いからです。日銀法などの改正は必要ですが、それだけのことです。
これは禁じ手であると言われていて、世の中に大量の紙幣が出回ると超インフレになる可能性が高まると懸念している人が大勢いますが、日銀としては、預金準備率を大幅に高めることで、市場に出回る紙幣を減らし、超インフレを防ぐことも可能ではありますから、人々が考えているほど「有り得ない選択肢」ではなさそうです。
とはいえ、これは銀行への課税と同じ意味を持ちますから、なぜ銀行だけに課税するのか、といった議論が必要ですし、超インフレを心配している人が大勢いる政策は現実的ではないでしょう。
したがって、以下では、「紙幣印刷に頼らなくても国債は償還できる」ことを示したいと思います。
過激な案は、いくつも思いつきます。たとえば資産課税で家計金融資産1700兆円の半分を税金で召し上げてしまえば、財政赤字はほぼ解消します。
さすがの筆者もこれは推奨しませんが、頭の体操としては、「消費税を未来永劫20%にする」のと「一回だけ資産課税をする」のと、どれくらい違うのか、冷静に考えてみることも必要かと思っています。
相続税率を100%にすれば、日本の高齢者は平均すれば金持ちですから、莫大な税収が見込めるでしょう。
これは極端だとしても、「相続税率を大幅に引き上げる。一方で贈与税率を引き下げ、高齢者から子や孫への生前贈与を促す」政策ならば、現実的かも知れません。
ここまでで、最悪でも政府の破産は無いということを確認した上で、
上記のような極端な手段を採らなくても国債が償還でき、日本政府が破産しない、ということを示していきたいと思います。
少子高齢化で増税が容易になる
バブル崩壊後、日本経済の長期停滞期には、失業問題が深刻でした。
そこで、時として大胆な失業対策としての公共投資が行われましたし、そうでなくとも「費用対効果の乏しい歳出」が続く傾向がありました。
「この歳出を止めると、現在この仕事に就いている人が失業してしまう」という反対論が強かったからです。
また、増税も容易ではありませんでした。
「増税をすると景気が悪化して失業が増える。そうなると税収が落ち込むのみならず、再び失業対策の公共投資が必要になってしまう」という反対論が強かったからです。
中には単に税金を払いたくない人が景気悪化を理由として反対していただけの場合もあったでしょうが、そうした人に反対の口実を与えていたのが失業問題だったと考えれば、やはり失業が増税を困難にしていたのです。
また、筆者のように本当に景気を心配して増税に反対していた人も多かったと思います。
そして実際、増税によって景気が悪化し、景気対策が必要となって財政がむしろ悪化したように見えたケースもあったわけです。
しかし、今後は労働力不足の時代ですから、増税して景気が悪くなっても失業者が増えることは無いでしょう。
一時的に失業した人も、比較的容易に次の仕事を見つけることができるはずですから、問題は深刻化しないでしょう。
増税がインフレ対策と財政再建の一石二鳥に
少子高齢化で労働力不足が深刻化していくと、インフレの時代が来ます。
恒常的に労働力が足りないので、物が不足して価格が上がっていくのです。
労働力不足による賃金の上昇も、コストプッシュ・インフレをもたらすでしょう。
通常は、インフレ抑制は金融引き締めの仕事ですが、昨今の日本のように政府が巨額の借金を抱えている場合、金融引き締めで金利が上がると財政部門の金利負担が巨額になってしまうので、好ましくありません。
従って、ポリシーミックスとして金融を緩和したまま増税で景気を抑制してインフレを抑え込もうということになりそうです。
現在、インフレ抑制に財政政策(増税等)が使われていないのは、増税はタイムラグが長いからです。
たとえば消費税の場合、法案を作成して国会で審議して、法律が成立してから準備期間を置いて、ようやく増税されるわけですが、その間に景気が悪化して、増税が実施される頃にはインフレが納まっている可能性も高いのです。
しかし今後は、恒常的なインフレ圧力に悩むことになりますから、増税で対応することが適切でしょう。
増税に多少時間がかかっても、その間にインフレ圧力が消えることはなさそうですし、高い税率で恒常的に景気を抑制し続けることが必要になってくるからです。
政治的には過疎地を維持するか、といった問題も浮上
現在までのところ、過疎地に道路を整備する事業は、効率は悪いけれども失業対策の面もあるので、特に反対意見は強くありませんでした。
しかし今後は、労働力不足の時代を迎え、「過疎地の人々に都会に移住してもらえば、過疎地への道路を整備する必要がなくなり、道路建設要員が介護に従事できるようになる」といった意見が強まってくるでしょう。
「生まれ育った過疎地で暮らしたい」という人々の希望をどこまで尊重するかは政治の問題ですから本稿では深入りしませんが、仮に「過疎地から都会に引っ越していただければ年金を2倍支払います」といった制度ができるならば、財政赤字の面では大いに助かることになるでしょう。
最後の最後は日本人が一人になるので財政赤字は解消
極端な議論ですが、少子化で一人っ子と一人っ子が結婚して一人っ子を産むことが続くと、最後は日本人が一人になります。その子は家計金融資産の1700兆円を相続します。同時に政府から1000兆円の税金を課せられるでしょうが、手元に700兆円残るので、豊かな人生を送るでしょう。
つまり、「財政赤字は子供たちに借金を残すから世代間不公平だ」という議論はミスリーディングなのです。
その部分だけを切り取れば正しいのですが、日本人の高齢者は平均すれば多額の資産を残して他界しますので、後世の世代には遺産が入るのです。
つまり、世代間不公平ではなく、遺産が相続できる子とできない子の世代内不公平が問題なのです。
これについては、相続税率を高くする、資産課税を行う等々の議論があるでしょうが、政治の問題ですから本稿では深入りはやめておきましょう。
不適切な政策が採られなければ子供世代は豊かに
重要なことは、何千年後かに日本人が最後の一人になれば、財政赤字の問題は何の苦も無く解決する、ということです。
このことを充分に認識した上で、では今後何千年かの間に、いつ、どのような財政破綻が生じ得るのかを考える必要があります。
もちろん、政府が不適切な政策を採れば、財政が破綻する可能性も考えられるでしょうが、特に不適切な政策が採られなければ、
淡々と日本人の人口が減少していき、子どもは両親の遺産(つまり4人の祖父母の遺産)を相続し、次第に豊かになっていく、ということになるでしょう。
その間、財務省は「国の借金を国民一人当たりで計算すると、こんなに増えている」と宣伝して増税キャンペーンを張り続けるでしょうが、気にすることはないのです。
以上が筆者の「暴論」ですが、いかがでしたでしょうか。
「非常識だし到底賛同はできないが、理論的に論破することも難しそうだ。今後も論破を目指して頭の体操を続けよう」と思っていただければ、筆者としては幸いです。