かつて世界中で、過激な宗教団体が、いくつもみられました。
ある人は、プロテスタントが過激なカルト集団だと叫ぶし、別の人はカトリックがテロ集団だと頑張ります。
50年もさかのぼれば、アイルランド共和軍なる集団が宗教をからめて過激な行動に走りました。
プロテスタントも、国を問わず、個人の領域を超えて他者へ働きかけたがる傾向があり、血なまぐさい争いへ発展しています。
また日本の歴史を少しでもひもとけば、無数の過激な仏教集団がいたことにも気がつきます。場合によっては、宗教の力を借りて国を統一し政治権力を握ろうとした人もいたり、逆にこれを快く思わない人たちが宗教を攻撃しました。「宗教弾圧」とは宗教の「負の面」ではなく「受難」に特化した言葉なのでしょう。
世界の現実の姿とは言えないかも知れませんが、現在伝えられる限られた世界情勢から判断すれば、
今では、イスラム教の問題が大きくなっている
と思われます。10年以内のニュースでは
- フランスやベルギーでは、公の場所でのイスラム教徒特有のスカーフ着用禁止
- 中国が、いま占領しているウイグル自治区で、イスラム教徒特有の衣服装飾品の着用や長いヒゲを禁止したり、それらの特徴がみられる人が公共交通機関へ乗車するのを禁止。:2014/08/06 AFP
- トルコでは、大昔からの「公務員のイスラム教スカーフ着用禁止」法を廃止したとのこと。現在の大統領エルドアンの影響かも知れませんが、もしも世俗主義(政経分離)だったトルコ国でイスラム教への回帰が始まったのだとしたら、宗教色を薄めようとしているEUへの加盟は遠のくかも知れませんが、そこが現実の政治であり、ロシアとの関係でどうなることやら。:2013/10/09 WSJ
などがみられます。〔スカーフには大小多種あり、まとめて「スカーフ」としました〕
私が感じるのは次のようなことです。
- 人権意識が高まり、宗教色が弱まったため、EUが拡大してきた。
- 人権意識が高まり、ヨーロッパの旧植民地を中心に、移民が増えた。
- 人権意識が高まり、イスラム系の移民たちがイスラム教色を強調し始めたが、これはEUの動きに反する。
- 人権意識が高まり、EUでは薬物依存の若者さえ放置するに至り、これの反動で規制が多く専制主義的なイスラム教へ走る若者が増えてきた。
- 人権意識が高まり、イスラム教徒の権利を保護しようとする風潮の反動で、極端な反イスラム教の動きも見られ始めた。
とかく宗教が政治にからんでくると、話はややこしくなるもの。
イスラム教が国を作っている国には、中国共産党が国を作っている中国と同様に、
自分の国以外においてもイスラム教や共産主義が成立しなければならない、と信じる傾向がみられます。現地の人の意向を無視しており、大きい間違いの始まりでしょう。
ここに、かならず対立・対決を生むイスラム教・キリスト教・ユダヤ教・共産主義などの1神教の限界を私は感じるのです。そこには止揚(しよう)とか昇華(しょうか)などはみられず、対立・対決を好ましく思う理由がみつからないからです。
自分が一番正しくて、他者はまちがっている、よって自分が世界を制覇する、こういう考えをどれだけ弱めることができるか、いま生きる人たちの叡智が試されています。
ヨーロッパの移民問題に戻りますが、まるでニワトリと玉子の論争のようにも見えてきます。
- 人権意識が高まった結果、宗教意識が高まった
- 宗教意識が高まった結果、人権意識が高まった
どちらが正しいのか、私には何とも言えませんが、
移民が、受け容れ国で、現地の人とくらべて、法の前では同様の扱いを受けるというのは立派な目標であり、正しいと思いますが、移民が宗教上の権利を背景にして人種間の対立を深めるような行動を取るべきではないでしょう。ましてや移民が、外国の同種移民と手を組んで、受け入れ国を攻撃するような行動を取るべきでも、ないでしょう。
一言でいえば、人権と信仰の自由とが混在する国で、両者の関係を捉え切れていないのが、現在の状況でしょうか。
人権も信仰の自由も存在しない中華人民共和国では、この悩みさえ生じようがなく、まさに別世界なのでした(笑)。
日本ではどうか、
神道各派、仏教各派、キリスト教各派、儒教、新宗教(神道系・仏教系)、イスラム教系、などなど無数にあり、一神教もあれば多神教もあります。概してこれだけ宗教が乱立していて比較的うまく共存しているのは、もともと日本人が多神教になじんでいるからでしょう。
個人の心の中にある限り、大きな問題はないと思いますが、近年、宗教政党である公明党が自民党にすり寄っています。日本では宗教が政治にからんだ時、ろくなことがありませんでしたね(笑)。経団連が自民党への献金を再開するようですが、ある宗教の信者が宗教政党へ献金するのと、どういう関係にあるのでしょうか。
イスラム教徒のスカーフについてのヨーロッパ諸国の対応については、こちら(ル・モンド)でも書かれています。