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世羅ダルマガエル物語

2019年11月15日 | 農業日誌(米編)
 平成15年(2003年)広島県福山市神辺(かんなべ)町に大型スーパーができる計画が持ち上がりました。
その駐車場予定地の水田から「ダルマガエル」という絶滅危惧種のカエルが見つかりました。
ダルマガエルの移殖先として、以前から「ギフチョウ」の保護に熱心だった世羅町小谷(おたに)の井藤文男さんが里親に選ばれました。
小谷地区は空気や水がきれいな場所で、神辺と同じ芦田川(あしだがわ)水系です。
とはいえ、神辺と小谷は30キロ以上離れています。
100メートル移動させるだけでも繁殖に失敗するデリケートなカエルのため保護活動は難しいと思われました。
しかし井藤さんは
「大変なことを引き受けたが、これは面白いぞ!ワクワクするわい!」
と思ったそうです。

 その後、世羅町小谷には広島大学、川崎医科大学、広島市安佐動物公園、福山動物園、復建調査設計株式会社等から多くの専門家が訪れました。
なかでも川崎医科大学の宇都宮妙子先生は
「井藤さん。このカエルの保護は難しいよ。どこでも失敗しています。よろしく頼みます。」
と目に涙を浮かべて話されたそうです。
小谷に移殖されたダルマガエルを毎日観察しているうちにいろいろなことがわかってきました。

1.トノサマガエルに似ているが、足は短く移動範囲が狭いので外敵に襲われやすい。
2.池や川のカエルではなく、田んぼのカエルで、稲と共に生きている。
3.トノサマガエルより産卵時期が遅く、稲作の「中干し」という時期に、まだオタマジャクシの状態である。
4.ダルマガエルはたくさん虫を食べている。

 

ダルマガエルの生態から「あきろまん」という品種の稲が選ばれました。
あきろまんは稲刈り時期の遅い晩生 品種のため水を遅くまで張っておけること。
そして中干しをしなくても倒伏のリスクが少ないことが生態にあっ ている。
そして何よりも美味しく、食感がしっかりしたお米だからです。

 
 ダルマガエルが移殖されて5年目を迎えた平成20年(2008年)の春。
この年は「国際カエル年」でもありました。
5年目にしてようやく産卵が始まりました。
井藤さんは当時のことを思い出しながら語ります。

『カメラを持つ手が震えるのよ。鳥肌は立つし。
「宇都宮先生やったよ。産まれたよ」と空を向いて叫んだよ。
あとからあとから涙がこぼれてね。続けてきてよかった。。。。。』


 熱心に指導して頂いた宇都宮先生はその年の初めに他界されていました。
この年以降、順調に数を増やし今日では春から夏にかけてダルマガエルの大合唱が響く田んぼになりました。     
 地元の小学校や地域と共に活動してきた保護活動に対して、平成20年(2008年)には農水省の「田園自然再生活動コンクール」で最優秀賞を受賞。
平成23年(2011年)には内閣総理大臣賞、並びに「ひろしま環境賞・個人の部」を受賞。
そして平成24年(2012年)には農林水産大臣に優良認定されています。
ダルマガエルの保護を目的とした稲作は農薬や除草の回数を減らすことになり、たくさんの生き物が生息する田んぼになりました。
その結果、生物多様性に配慮した人にやさしいお米ができあがりました。
「ダルマガエル米」をご賞味いただき、ダルマガエルのことを多くの方にお知らせしてほしいと願っています。

■農事組合法人ダルマガエルの里

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