👄💨🎶笛の名人👄💨🎵
笛の名人用光(もちみつ)は、ある年の夏、土佐の国から京都へのぼろうとして、船に乗った。
船が、ある港に泊まった夜のことであった。
どこからかあやしい船が現れて、用光の船に近づいたと思うと、恐ろしい海賊が、
どやどやと乗り移ってきて、用光を取り囲んでしまった。
用光は、逃げようにも逃げられず、戦おうにも武器がなかった。
とても助からぬと覚悟を決めた。
ただ、自分は楽人であるから、一生の思い出に、
心残りなく笛を吹いてから死にたいと思った。
それで、海賊どもに向かって、
「こうなっては、お前たちには、とてもかなわない。
私も覚悟をした。
私は楽人である。
今ここで、命を取られるのだから、この世の別れに、1曲だけ吹かせてもらいたい。
そうして、こんなこともあったと、世の中に伝えてもらいたい」
といって、笛を取り出した。
海賊たちは顔を見合わせて、
「おもしろい。まぁ、ひとつ聞こうではないか」
といった。
これが、名人といわれた自分の最後の曲だと思って、
用光は、静かに吹きはじめた。
曲の進むにつれて、用光は、自分の笛の音によったように、
ただ一心に吹いた。
雲もない空には、月が美しく輝いていた。
笛の音は、高く低く、波を越えて響いた。
海賊どもは、じっと耳を傾けて聞いた。
目には涙さえ浮かべていた。
やがて、曲は終わった。
「ダメだ。あの笛を聞いたら、
悪いことなんかできなくなった」
海賊どもは、そのまま、船をこいで帰っていった。
おしまい
笛の名人用光(もちみつ)は、ある年の夏、土佐の国から京都へのぼろうとして、船に乗った。
船が、ある港に泊まった夜のことであった。
どこからかあやしい船が現れて、用光の船に近づいたと思うと、恐ろしい海賊が、
どやどやと乗り移ってきて、用光を取り囲んでしまった。
用光は、逃げようにも逃げられず、戦おうにも武器がなかった。
とても助からぬと覚悟を決めた。
ただ、自分は楽人であるから、一生の思い出に、
心残りなく笛を吹いてから死にたいと思った。
それで、海賊どもに向かって、
「こうなっては、お前たちには、とてもかなわない。
私も覚悟をした。
私は楽人である。
今ここで、命を取られるのだから、この世の別れに、1曲だけ吹かせてもらいたい。
そうして、こんなこともあったと、世の中に伝えてもらいたい」
といって、笛を取り出した。
海賊たちは顔を見合わせて、
「おもしろい。まぁ、ひとつ聞こうではないか」
といった。
これが、名人といわれた自分の最後の曲だと思って、
用光は、静かに吹きはじめた。
曲の進むにつれて、用光は、自分の笛の音によったように、
ただ一心に吹いた。
雲もない空には、月が美しく輝いていた。
笛の音は、高く低く、波を越えて響いた。
海賊どもは、じっと耳を傾けて聞いた。
目には涙さえ浮かべていた。
やがて、曲は終わった。
「ダメだ。あの笛を聞いたら、
悪いことなんかできなくなった」
海賊どもは、そのまま、船をこいで帰っていった。
おしまい