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笛の名人

2016-09-10 19:51:06 | お話
👄💨🎶笛の名人👄💨🎵


笛の名人用光(もちみつ)は、ある年の夏、土佐の国から京都へのぼろうとして、船に乗った。

船が、ある港に泊まった夜のことであった。

どこからかあやしい船が現れて、用光の船に近づいたと思うと、恐ろしい海賊が、

どやどやと乗り移ってきて、用光を取り囲んでしまった。

用光は、逃げようにも逃げられず、戦おうにも武器がなかった。

とても助からぬと覚悟を決めた。

ただ、自分は楽人であるから、一生の思い出に、

心残りなく笛を吹いてから死にたいと思った。

それで、海賊どもに向かって、

「こうなっては、お前たちには、とてもかなわない。

私も覚悟をした。

私は楽人である。

今ここで、命を取られるのだから、この世の別れに、1曲だけ吹かせてもらいたい。

そうして、こんなこともあったと、世の中に伝えてもらいたい」

といって、笛を取り出した。


海賊たちは顔を見合わせて、

「おもしろい。まぁ、ひとつ聞こうではないか」

といった。

これが、名人といわれた自分の最後の曲だと思って、

用光は、静かに吹きはじめた。

曲の進むにつれて、用光は、自分の笛の音によったように、

ただ一心に吹いた。

雲もない空には、月が美しく輝いていた。

笛の音は、高く低く、波を越えて響いた。

海賊どもは、じっと耳を傾けて聞いた。

目には涙さえ浮かべていた。

やがて、曲は終わった。

「ダメだ。あの笛を聞いたら、

悪いことなんかできなくなった」

海賊どもは、そのまま、船をこいで帰っていった。


おしまい