注文をまちがえる料理店
僕は普段、テレビ局で番組を作るディレクターをやっています。
と当時に、「注文をまちがえる料理店」というプロジェクトの発起人をしています。
今日は、「このプロジェクトって一体どういうものなのか」
「何でこんなことやったのか」、そういったことをお話しします。
「注文をまちがえる料理店」を一言で言うと、注文と配膳をするホールスタッフがみんな痴呆症の方という、
ちょっと不思議なレストランです。
具体的には2017年6月に、プレオープンとして東京の港区で小さなレストランを借りて二日間、
その後、9月に東京の六本木で、三日間 再オープンさせました。
ですからこれは常設のお店ではありません。
その時のホールスタッフに、昭和2年生まれのシズさんというおばあさんがいました。
90歳で、今回参加した方の中で最高齢です。
もともと彼女は高級料亭の女将をやっていらっしゃったそうです。
そんなシズさんですが、
「注文をまちがえる料理店」に来る前、
「不安でいっぱいでした」とおっしゃっていました。
認知症になって以来、できることがどんどん減っていっているのをご自分でも自覚されていたのです。
そんなシズさんにお客さんが
「自分の母と同じ歳のシズさんが元気に働いてるのを母に紹介したので写真を撮らせてほしい」
と声をかけました。
これはシズさんにとって、とても大きなことだったようです。
すごく喜んでいました。
シズさんはこの9月のイベントの1ヶ月後に亡くなられたのですが、
「注文をまちがえる料理店」で働くシズさんの顔が、すごくイキイキされていたので、
その写真をご家族に差し上げたら、とても喜んでくださいました。
ご家族の方が言うには、
「注文をまちがえる料理店」から帰ってきたシズさんは、
「私はまだまだやれる。自信がついた」というようなことをおっしゃっていたそうです。
僕はその話を聞いて、
福祉の専門家でもないし、認知症の何たるかも分かっていないのに、
「注文をまちがえる料理店」をやってよかったと素直に思えたのでした。
6月の「注文をまちがえる料理店」がテレビで紹介されると、想像以上の反響がありました。
9月のときには「アルジャジーラ」という中東のメディアやアメリカの「ニューヨークタイムス」、中国・国営放送「CCTB」、そして韓国の公共放送「KBS」など、
多数の海外メディアから取材を受けました。
面白かったのは、国や人種、思想の異なる人たちが、
この「注文をまちがえる料理店」を熱心に取材してくれたことです。
皆さん、何に1番反応したかと言うと
「認知症の人なのになぜあんなに笑顔で働いているのか」
ということと、
「注文をまちがえているのに、なぜお客は起こらないのか」
という、この2点です。
6月のプレオープンの映像を見て、それはどういうことなのか知りたくて取材に来たということでした。
「注文をまちがえる料理店」というプロジェクトをどうやって作ったのかという話ですが、
1つは、「ハンバーグが餃子になった」というエピソードが原点となっています。
5年前、僕はディレクターとして、名古屋で認知症介護のプロフェッショナルといわれている和田行男さんという方のグループホームの取材をしました。
和田さんはかなりユニークな介護をやっている方で、
「認知症になっても最後まで自分らしく生きる姿を支える介護」
に、こだわって30年近くやってこられた方です。
だから、和田さんのグループホームでは、皆さんお料理はするし、お掃除、洗濯、買い物など、当たり前の暮らしを続けています。
ただ、認知症ですからちょっとずれてしまう。
そこをサポートしていくのがプロの介護福祉士の仕事というポリシーです。
取材中、入居者の方にご飯を作っていただきました。
献立はハンバーグと聞いていました。
ところが出てきたのは餃子でした。
「どこでどう間違えたのハンバーグが餃子になるのかな」
と思うのですが、
ひき肉だけが共通した材料ですよね。
それで
「これは違いますよね。今日はハンバーグですよね」
と言おうとして、その言葉を飲み込みました。
何でかと言うと、
そのことを気にしているのは、
その場で僕だけだったからです。
それが日常のことなので、皆さん餃子を美味しそうに食べているんです。
その時、はっとしました。
「間違いと言うのは、その場にいる人たちがそのことを受け入れさえすれば、間違いではなくなるんだ」
という当たり前のことに気づいたのです。
同時に、「注文をまちがえる料理店」というキーワードが思いつき、頭の中に映像が流れてきました。
僕がその料理店に入ったら、お年寄りの方が接客してくれて、
僕がハンバーグを頼んだのに餃子が出てくる。
僕が
「餃子じゃないですよ、ハンバーグですよ」
とツッコミを入れると、
おじいさんおばあさんも、
「わっはっはっ」と笑う、そんな映像が浮かんで、
「これ、いつかやりたいな」
って思ったんです。
これが僕が「注文のまちがう料理店」を作ろうと思った1番のきっかけです。
(「みやざき中央新聞」H30.6.11 NHKディレクター小国士朗さんより)
僕は普段、テレビ局で番組を作るディレクターをやっています。
と当時に、「注文をまちがえる料理店」というプロジェクトの発起人をしています。
今日は、「このプロジェクトって一体どういうものなのか」
「何でこんなことやったのか」、そういったことをお話しします。
「注文をまちがえる料理店」を一言で言うと、注文と配膳をするホールスタッフがみんな痴呆症の方という、
ちょっと不思議なレストランです。
具体的には2017年6月に、プレオープンとして東京の港区で小さなレストランを借りて二日間、
その後、9月に東京の六本木で、三日間 再オープンさせました。
ですからこれは常設のお店ではありません。
その時のホールスタッフに、昭和2年生まれのシズさんというおばあさんがいました。
90歳で、今回参加した方の中で最高齢です。
もともと彼女は高級料亭の女将をやっていらっしゃったそうです。
そんなシズさんですが、
「注文をまちがえる料理店」に来る前、
「不安でいっぱいでした」とおっしゃっていました。
認知症になって以来、できることがどんどん減っていっているのをご自分でも自覚されていたのです。
そんなシズさんにお客さんが
「自分の母と同じ歳のシズさんが元気に働いてるのを母に紹介したので写真を撮らせてほしい」
と声をかけました。
これはシズさんにとって、とても大きなことだったようです。
すごく喜んでいました。
シズさんはこの9月のイベントの1ヶ月後に亡くなられたのですが、
「注文をまちがえる料理店」で働くシズさんの顔が、すごくイキイキされていたので、
その写真をご家族に差し上げたら、とても喜んでくださいました。
ご家族の方が言うには、
「注文をまちがえる料理店」から帰ってきたシズさんは、
「私はまだまだやれる。自信がついた」というようなことをおっしゃっていたそうです。
僕はその話を聞いて、
福祉の専門家でもないし、認知症の何たるかも分かっていないのに、
「注文をまちがえる料理店」をやってよかったと素直に思えたのでした。
6月の「注文をまちがえる料理店」がテレビで紹介されると、想像以上の反響がありました。
9月のときには「アルジャジーラ」という中東のメディアやアメリカの「ニューヨークタイムス」、中国・国営放送「CCTB」、そして韓国の公共放送「KBS」など、
多数の海外メディアから取材を受けました。
面白かったのは、国や人種、思想の異なる人たちが、
この「注文をまちがえる料理店」を熱心に取材してくれたことです。
皆さん、何に1番反応したかと言うと
「認知症の人なのになぜあんなに笑顔で働いているのか」
ということと、
「注文をまちがえているのに、なぜお客は起こらないのか」
という、この2点です。
6月のプレオープンの映像を見て、それはどういうことなのか知りたくて取材に来たということでした。
「注文をまちがえる料理店」というプロジェクトをどうやって作ったのかという話ですが、
1つは、「ハンバーグが餃子になった」というエピソードが原点となっています。
5年前、僕はディレクターとして、名古屋で認知症介護のプロフェッショナルといわれている和田行男さんという方のグループホームの取材をしました。
和田さんはかなりユニークな介護をやっている方で、
「認知症になっても最後まで自分らしく生きる姿を支える介護」
に、こだわって30年近くやってこられた方です。
だから、和田さんのグループホームでは、皆さんお料理はするし、お掃除、洗濯、買い物など、当たり前の暮らしを続けています。
ただ、認知症ですからちょっとずれてしまう。
そこをサポートしていくのがプロの介護福祉士の仕事というポリシーです。
取材中、入居者の方にご飯を作っていただきました。
献立はハンバーグと聞いていました。
ところが出てきたのは餃子でした。
「どこでどう間違えたのハンバーグが餃子になるのかな」
と思うのですが、
ひき肉だけが共通した材料ですよね。
それで
「これは違いますよね。今日はハンバーグですよね」
と言おうとして、その言葉を飲み込みました。
何でかと言うと、
そのことを気にしているのは、
その場で僕だけだったからです。
それが日常のことなので、皆さん餃子を美味しそうに食べているんです。
その時、はっとしました。
「間違いと言うのは、その場にいる人たちがそのことを受け入れさえすれば、間違いではなくなるんだ」
という当たり前のことに気づいたのです。
同時に、「注文をまちがえる料理店」というキーワードが思いつき、頭の中に映像が流れてきました。
僕がその料理店に入ったら、お年寄りの方が接客してくれて、
僕がハンバーグを頼んだのに餃子が出てくる。
僕が
「餃子じゃないですよ、ハンバーグですよ」
とツッコミを入れると、
おじいさんおばあさんも、
「わっはっはっ」と笑う、そんな映像が浮かんで、
「これ、いつかやりたいな」
って思ったんです。
これが僕が「注文のまちがう料理店」を作ろうと思った1番のきっかけです。
(「みやざき中央新聞」H30.6.11 NHKディレクター小国士朗さんより)