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アルツハイマー薬①

2019-12-04 13:13:00 | お話
アルツハイマー薬①


(杉本さんは現在、アルツハイマー型認知症の根本治療薬の開発に挑まれているそうですね)

🔹杉本、私はエーザイ時代に世界で初めてアルツハイマー病治療薬「アリセプト」を開発しました。

これはあくまでも症状の進行を遅らせる対症療法薬なんです。

アリセプトを成功させたおかげでよく講演の時に、

「先生、根本治療薬はいつできるんですか?」

って聞かれるんですよ。

アリセプトで成功したことから考えると、根本治療薬の開発はどうしても手掛けたい。

そういう使命感を持っている。
だから76歳でも休めないんです(笑)。

(とっても76歳とは思えないほど若々しく見えますが、健康を保つ秘訣は何かありますか?)

🔹杉本、剣道でしょうね。私は教士七段なのですが、今も週2回、稽古に励んでいます。

月曜は京都府庁の夜げいこで、金曜は京都警察の朝げいこ。

竹刀で人の頭を殴っていますから(笑)。

人の頭を殴ってお礼を言われることって、あまりないですよね(笑)。

これが元気でいられる秘訣かもしれません。

(新薬開発の現状と今後の展望についてお聞かせください)

🔹杉本、アルツハイマーというのは脳細胞が徐々に死んでいく病です。

一度死んでしまった細胞は、もう蘇りません。

アルツハイマーには予備軍があって、軽度認知障害(MCI)って言うんですね。

これは病気ではないものの、やがてはアルツハイマーになってしまう。

予備軍が予備軍のままでもし止まれば、
日常生活に支障がないので根本治療になるんですよ。

これがいま狙っているゴールです。

ただ、アルツハイマーの研究が非常に難しいのは、
原因が多岐にわたっている点にあります。

いま最も有力だと考えられているのは、「アミロイドβ」と「タウタンパク」、

これらが凝集(ぎょうしゅう)すると神経毒性を示すんです。

このアミロイドβとタウタンパクが脳に溜まるのをを減少させることができれば、アルツハイマーにはならない。

これが今世界のアルツハイマー研究者たちが考えている、治療のコンセプトです。

世界中の大手製薬会社らが鎬(しのぎ)を削って開発に挑戦していますが、

どちらか1つの物質だけを減らすことしかできていません。

そんな中、私たちは2011年に両方を減少させる化合物「GT 863」をつくることに成功したんです。

私が社長を務めるベンチャー企業グリーン・テック(GT)の八郎さんって意味なのですが(笑)、

早ければ1年半後から臨床試験に入る予定です。

(実用化に至れば、世界中の患者さんを救うことができますね)

🔹杉本、ええ。しかし、臨床試験には莫大な費用と時間がかかります。

私のところのような社員数5〜6名のベンチャー企業は資金力不足でとても続けることができないんですけど、

幸運にも今年8月末に国から大口の助成金をもらえることが決まりました。

日本だけではなく、すでにマレーシア、シンガポール、中国でも開発計画を企画しています。

現在、日本だけでアルツハイマー患者が約462万人、予備軍は約400万人います。

予備軍の中の1割は1年後にアルツハイマーになる可能性が高いため、

6年後の2025年には700万人に達する。

これは大きな問題で、私は国家戦略の一環として取り組むべき課題だと感じているんです。


(GT863はどのように誕生したのですか?)

🔹杉本、私はエーザイ時代から「運だけで生きている」と言われてきたんですけど(笑)、

成功の突破口となったクルクミンという化合物に出逢ったのも偶然でした。

実は10年くらい前に大腸がんになりましてね。

バンクーバーに住む甥っ子が私の体調を心配して、クルクミンという化合物が大腸がんに効くという新聞記事を見つけて送ってくれたんです。

そこでクルクミンを調べたところ、アルツハイマーの治療薬にも使えるのではないかとピンときました。

クルクミンというのは英語でいうとターメリック、カレーなどによく含まれているスパイスのことです。

実はカレーをよく食べるインド人はアメリカ人に比べ、

アルツハイマーに罹患する割合が4分の1という結果があります。

私は、「加齢になったらカレーを食べろ」と冗談で言ってるんですけど(笑)、

このクルクミンを脳まで届くようにできれば必ず成功すると。

なかなか頭に入らなくなって苦労したものの、

研究員たちを鼓舞して5年間で約1000個の化合物をつくり、859番目に出来上がったのがGT 863でした。

(杉本さんの情熱が成功を引き寄せたのでしょうね)

🔹杉本、先ほど説明した国の大口の助成金も天が味方をしてくれた結果だと思います。

応募は全部で75件あって、最終的に受かったのが15件。

その中でGT 863は14番目に通ったと聞いていたんですけど、

ここにも運が働いたと思っています。

多くの大手企業がアルツハイマー病治療薬の開発で2000億円程度の開発費を使って失敗しています。

そのため投資家はリスクが大きすぎることから投資を控えています。

その意味でこの助成金はありがたかったですね。

幸運にも大口の資金を確保できましたから、根本治療は必ずできると確信しています。

というのも、その発表があった数日後に、四つ葉タクシーに乗りましてね。

京都では割と有名な話ですが、三つ葉マークで知られるヤサカタクシーには、

1300台の中に4台だけ四つ葉のクローバーのマークが付いているタクシーがあるんです。

これに乗ると幸運が訪れると。

このタイミングで乗車できたということはいいことが起きる予兆ですから(笑)、

必ず成功するでしょう。

これはもう "根拠のない自信" です。

(根拠のない自信、ですか?)

🔹杉本、科学者が根拠のない自信なんて言ったら笑われます。

だけど結局、成功者に共通するのは根拠のない自信なんです。

例えば、スティーブ・ジョブズがスタンフォード大学で講義した時の最後のフレーズは、有名な、

「Stay hungry,stay foolish(ステイ ハングリー ステイ フーリッシュ)」

じゃないですか。

確かに、成功するためにはハングリー精神が必要です。

だけど、普通の西洋人は「愚かであれ」とは言いません。

ジョブズは日本が好きで、大徳寺で坐禅をやっていたんです。

禅に「大愚(だいぐ)」という言葉がありますよね。

「愚かであれ」っていうフレーズは、

禅の「大愚」から来ていて、これはまさに根拠のない自信だと思います。

日本電産の永守重信会長も

「なぜここまで会社が成長したのか」

との質問に、

「社員が馬鹿だったから」とよく言っています。

これはどういう意味か。

私の持論では、利口な人は先が読めてしまうので、

やらない理由を挙げてリスクを取ろうとしない。

エリートコースの人たちは挑戦しなくても出世するからです。

私のようなしがない末端の研究者は大馬鹿になってリスクを取らなければ絶対、上にはいけません。

(未来に希望を表して、とことん挑戦する)

🔹杉本、薬というのは逆から読むと "リスク" になります。

私はよく「薬づくりは迷ったらGOだ」と言うんですけど、

新薬開発の世界は成功率0.002%といわれています。

だったら、やらないで後悔するより、やって失敗して悔やんだ方がはるかにいい。


(つづく)

(「致知」12月号 杉本八郎さんより)