ここが場末一丁目。夜明けの鶯谷で啜る敗北のスープ
鶯谷駅前で24時間・年中無休で営業している食堂「信濃路」へ。料理も酒も1品3~400円程度。1皿はそこそこの量があるので、2000円も握りしめていけば満足出来るだろう。メニューも煮物、焼き物、揚げ物からカレー、ラーメンまで様々。これほど罪悪感なく朝酒を呑める店も珍しい。
ただ、いくら「せんべろ」「昼呑み」がブームだと言っても、ラブホテルに囲まれているため客層は偏る。深夜となれば尚更だ。盗み聞きとは行儀が悪いが、耳をそばだてると「今日の客は…」「今の店やめたら次は…」など興味深い話がラジオのように聴こえてくる。失礼だが、都内の中でも相当の「場末」に当たるだろう。
こちらはラーメンの専門店ではないし、出てくるラーメンも大して旨くない。でもたまに、この店のカウンターに独り身を置き、濃い味付けの料理でゆっくり酒を呑みたくなる。そう、ここは「自分反省会」用の店だ。聴こえてくる身の上話や苦労話を肴に甲類焼酎を流し込む。啜るのは敗北のスープだ。
そりゃ、一杯350円なのだから、ナルトもメンマもチャーシューも、決して上等な素材を使ってはいないだろう。鶏ガラベースのスープが、それなりの味がするのが救いか。〆ラーメンが前提なので、麺は胃に優しい柔らか目の仕上がり。ネギを絡めて一気に啜り上げる。旨くはない。でも、いつも強烈に記憶に残る一杯だ。
ラーメンの他に、よく頼むのは「レバーニンニク(400円)」。甘辛い醤油味とニンニクスライスがクセになる。興が乗った時は、ポテサラや鶏唐揚げ、焼売、短冊の文字が「カシ」に見える「カツ」など追加していく。深夜帯の厨房は外国人スタッフだらけ。彼らには、この日本文化はどう映っているのだろう。
夜が白む頃に店を出る。夜明けの鶯谷駅前。空を見上げると、信濃路の店舗の上に神社が。そう、この店は元三島神社の1階にあるのだ。その裏手にはラブホテル群。人間の生業とは面白いものだ。そう思いながら、酔客の待つ山手線始発列車へと乗り込んだ。
<店舗データ>
【店名】 信濃路 鶯谷店
【住所】 東京都台東区根岸1-7-4
【最寄】 JR山手線「鶯谷駅」北口から10歩