アレルギーの薬が効いているのは飲んでいる間だけですし、レーザー治療も数ヶ月から長くて数年しか効果が続かないとされています。しかし免疫療法(減感作)は、治療終了後もずっと効いていてくれる、ある意味完治の可能性のある、唯一の治療法です。また、この治療を行うことによって、スギ花粉症だけでなく、他の抗原に対する喘息や結膜炎にも、効果が期待できるとされています。
とは言え、免疫療法は、かなり長期間根気よく続けなければならない治療法です。“アレルギー性鼻炎に対する舌下免疫療法の実際と適応”の適応の3で、軽症から重症まで対象になり得るとされていますが、実際には、軽症の方には治療を続ける意志を持てないかも知れません。やはり対象は、毎年花粉症で苦しむ方、花粉症の期間は薬を続けなければならない方、薬があまり効かない方、薬を飲みたくない方、そして完治の可能性を望まれる方に、限られるでしょう。
以下は、“アレルギー性鼻炎に対する舌下免疫療法の実際と適応”の中の、“舌下免疫療法SLITの患者への確認”という項目です。治療を始めるにあたっては、これらを知っていただかなければならないというものです。
・花粉非飛散期も含め、長期間の治療を受ける意志がある(最低2年間程度)
・舌下アレルゲンエキスの服用(舌下に2分間保持)を毎日継続できる
・少なくとも1か月に1度受診可能である(発売1年以内は2週間に1回)
・すべての患者に効果を期待出来るわけではないことを理解できる
・効果があって終了した場合も、その後効果が減弱する可能性があることを理解できる
・副作用等の対処法が理解できる
自宅などで自分で行える治療とは言いながら、毎日、最低2年間、できれば3年間続けなければなりません。そして1ヶ月1回の受診が必要となっていますが、他の薬でもそうですが発売後1年間は2週間分の処方しかできませんので、当面は2週間に1回の受診ということになります。
また、それだけ頑張って続けても、全員に効果が出るわけではありません。 現在当院で行っている皮下注射によるハウスダストの減感作の場合、治療を行った4割の方は症状がほとんど出なくなる、4割は治療前より軽くなる、しかし2割には全く効果が出ない、と患者さんにお話しています。スギ花粉症の舌下免疫療法の効果も、せいぜいこれと同程度と考えられます。さらに、治療中は有効でも、終了後、効果が減弱する可能性があります。これについては、3年以上続けると、終了後減弱することが少ないとされています。
アナフィラキシーというのは、全身に強いアレルギー反応が出る副作用で、全身に発疹が出るだけでなく、喉が腫れて呼吸が苦しくなったり、血圧が下がってしまったりする、重い症状の出ることを言います。この副作用はたいてい投与後15分前後で出ます。注射で行うときは、病院にいる間に症状が出るので、すぐ治療が行われます。重症の場合、アドレナリンの筋肉注射、酸素吸入、点滴などが行われますが、そこまで至ることはまずありません。多数の患者さんの注射を行っている大きな病院のアレルギー外来でも、数年に1度しかありませんし、あってもさほど重症にならずにすぐ回復します。
注射に比べ、舌下免疫療法では、口の中の粘膜が荒れるなどの局所の小さな副作用はあっても、アナフィラキシーはきわめて少ないとされています。舌下免疫療法は欧米では既にずっと以前から行われていますが、アナフィラキシーの報告は世界でも数例のみで、それもいずれも大事には至っていません。日本での治験では、1例もありませんでした。しかし稀とはいえ可能性が全くないわけではないので、自宅などでご自分で行う方法ですから、万が一起きてしまったときには、病院に救急受診する必要があることを理解していただかなければなりません。
実際の方法
2週間分のエキスを処方しますが、初回は院内で投与を行います。少ない量のアレルゲンエキスを舌下に滴下し、2分間保持した後、飲み込みます。その後、30分間は院内にいていただき、副作用のないことを確かめます。
翌日からは、それをご自分で行っていただきます。投与開始後2週間は、毎日だんだん量を増やしていきます。1日1回あらかじめ決められた量を、舌下に滴下し、2分間保持した後、飲み込みます。その後5分間はうがいと飲食を控えるようにします。投与後2時間は激しい運動や入浴を避けることも必要です。
2週間後には、受診して副作用の有無などを確認した上で、維持量のエキスを2週間分処方します。原則としてこの維持量で、毎日治療を続けていきます。その後も2週間に1度の受診が必要です。(発売後1年以上経てば、4週間分の処方が可能になります。)2年間はこれを続けます。
花粉飛散期には副作用が起きやすい可能性があるので、飛散期まで3ヶ月は余裕を持って治療を開始すべきとされています。従って治療を開始するのは、4月中旬から10月までの間が望ましいということになります。