横浜市都筑区耳鼻咽喉科

南山田(センター北と北山田の間)の耳鼻咽喉科院長のブログ。

長引く咳の原因としての副鼻腔炎(副鼻腔気管支症候群の不思議)

2014-01-29 13:57:22 | 院長ブログ

日本呼吸器学会の咳嗽に関するガイドライン第 2 版によれば、3週間以上続く咳を遷延性咳嗽と呼び、8週間以上を慢性咳嗽と呼びます。また、喀痰を伴う咳を湿性咳嗽、喀痰を伴わない咳を乾性咳嗽と呼びます。もちろん、明らかな喘息や感染症の診断がついたり、胸部レントゲンに異常が見られるような疾患は、ここから除外されます。

その中で、湿性咳嗽の原因の代表的なものとして、副鼻腔気管支症候群があげられています。副鼻腔気管支症候群とは、副鼻腔炎と気管支炎を合併する例を言いますが、ここで以前から不思議に思っていることがあります。ガイドラインには、欧米と我が国の慢性咳嗽の原因疾患の頻度の報告がそれぞれ3件づつ書かれていますが、日本の報告3件では、慢性咳嗽の原因として副鼻腔気管支症候群がそれぞれ17%、8%、7%として書かれているのに対し、欧米の報告3件にはその項目が全くないのです。そのかわり欧米の報告には、鼻炎/後鼻漏という、日本の報告にはない項目があり、それぞれ21%、34%、14%と報告されています。

一方、2007年に日本鼻科学会が出した”副鼻腔炎診療の手引き”でも、 2010年の”急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン”でも、 副鼻腔炎ないし鼻副鼻腔炎の定義として、鼻閉、鼻漏、後鼻漏と並んで、咳嗽がその主要症状のひとつとしてあげられており、副鼻腔炎単独でも咳嗽は高率に見られることは、耳鼻咽喉科医の側から見ると、コンセンサスが得られていると考えられます。とくに小児副鼻腔炎では、鼻症状よりも咳の方が目立つことが多いとする成書もあり、それは開業医として多くの患者さんを診ていても実感されるところです。そして私は、耳鼻咽喉科医として、副鼻腔炎の専門家として、長い間副鼻腔炎に携わってきたにも関わらず、副鼻腔炎に気管支炎を伴う、確定診断のついた副鼻腔気管支症候群の患者さんは、稀にしか見たことがありません。

主に下気道疾患を見る呼吸器科の先生と、主に鼻やのどを見る耳鼻咽喉科で、診る対象になる患者さんと優先的に行う検査が違うということはあるでしょうが、欧米の報告には副鼻腔気管支症候群という概念がないのを見ても、日本の呼吸器科の先生の報告にこれほど副鼻腔気管支症候群が多いのは、不思議な気がするのです。耳鼻咽喉科開業医が考えると、ここは副鼻腔気管支症候群を、単純に鼻副鼻腔炎と置き換えて、湿性咳嗽の原因として最も多いのは、鼻副鼻腔炎と言ってもいいように思えるのです。

それともうひとつ。3週間以上続いている副鼻腔炎でも、activeな細菌感染は存在していることがあり、その場合は、このガイドラインで副鼻腔気管支症候群の治療に推奨されているマクロライドは、あまり有効でないのです。まず短期間レスピラトリーニューキノロンなどを投与すべきなのですが、本音を言えば、遷延性、慢性の湿性咳嗽の患者さんは、耳鼻咽喉科に紹介して欲しい。耳鼻咽喉科医なら、簡単に副鼻腔炎を診断して、局所の処置を含めて適切な治療をするはずですから。

内科や小児科に通っていても咳が何週間も治らず、耳鼻咽喉科を受診したら副鼻腔炎で、その治療をしたらすぐ治ったという方があまりにも多いので、ついそう思ってしまいます。もちろん逆に、耳鼻科医の側は、喘息や肺の病気を見逃さないように、気をつけなければなりません。その意味で、私は開業以来、喘息が疑われる患者さん、とくに小児では、できるだけ胸部の聴診を行い、必要な場合には内科や小児科の先生を紹介するようにしています。

 

コメント (2)
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