語れなかった仲間との死別
俺が小学校の5年生の頃のことだよ 時期は記憶が定かではないけどね
仲良くしていた男友達が交通事故で死んだよ 凄いショックだったね 直前まで遊んでいた仲間だからね
そいつは運動能力が学年でも飛び抜けて凄かった 足が速いし運動神経が発達してたよ
甘いマスクで男前だよ 女子にも好かれていて「憧れの人」みたいな存在だったね 男友達も多くて誰からも好かれていたよ
小学校では運動会は花形行事だろ スターだよ 俺も脚は速かったけどね とても適わぬ相手だったよ
そんな奴が 突然、交通事故で死んでしまったよ 一緒に遊ぶ予定だったけど二度と会えなくなってしまった
俺たちは学校が終ると校庭で暗くなるまで良く遊んだんだよ その日も、俺は帰宅しないで校庭で遊んでいたよ
そいつは一度帰宅して、学校に遊びに戻ってくる途中だった、仲間の自転車に二人乗りで向かってるときだったんだ
後ろから来たダンプに巻き込まれて事故になったようだ 狭い道路でダンプが来ると路肩がなくなるからね 危ない道路なんだ
昔の道路は酷い状態だったからね アスファルト舗装にはなっていたんだけどね、工事用のダンプの通行が激しかったんだ
重い荷物を積んだダンプは道路を壊して、路面のアスファルトを波のように歪めてしまうんだよ
自転車に二人乗りをした仲間は左側通行で道路の歪みに振られたんだね その時にダンプが来たようだ
後ろに乗っていた仲間がダンプに巻き込まれた 後輪で轢かれて引きずられたよ 悲惨な事故になってしまった
自転車を運転した仲間は無傷で無事だったけど、死んだ仲間の姿は悲惨だったと思うよ 生き残った仲間は見てしまったんだね
生き残った仲間の心の底には入り込むことは出来ないよ 聞くこともその事を話題にすることも出来ないよ
自分だけが無傷で生き残ったんだからね ハンドルは自分が握っていたんだからね
自分が死なせてしまったとの思いが強かったと思う 仲間の悲惨な姿を見たショックは言葉にならないよ
今でも仲良くしてる仲間だけどね この事件のことを聞いたことも話したこともないよ 心情は痛いほど分かるからね
事故が起きた時、俺は校庭で遊んでいたよ 救急車のサイレンが鳴り響いたよ 何かあったと気になったけどね
そのうちに仲間の一人が「たいへんだ!○○がダンプに轢かれた」と言って走ってきたよ
俺たちはビックリして現場に駆けつけたよ 現場にはもう誰もいなかった でも事故の痕は直ぐに分かったよ
血溜まりの中にはどろどろの朱色の血の塊があった 道路には血の帯が5m位付いていたよ
轢きづられた跡だよ よく見ると肉が挽き肉状態になってこびり付いていた
赤い血は年中見ているけどね 朱色のどろどろした血ははじめてみたよ 異常な血だったね 頭を潰したかもと思ったよ
背筋がぞっとしたよ 一瞬で助からないかもと感じたね 事故の痕跡はすさまじい状態だったよ
二人乗りだから二人ともやられたのかと思ったけど、一人は無事だったと後で確認出来たから、ホット一安心はしたけどね
もう一人は危篤状態だったからね 無傷に危篤と明暗を分けた結果に複雑な思いがあった 一瞬の怖さがあったね
助かることを願っても、事故の痕跡を見てるからね 絶望感が強かったけど奇跡を信じるしかなかったね
翌日、学校で事故の説明を受けたよ、助かっても両足切断になるかもしれないとの話もあった
「走れなくなるのか」それでも助かって欲しいと願ったけどね、夕方には帰らぬ人となってしまったよ
お別れに行きたいと思ったけどね、遺体の損傷が激しいのか、会わせてもらえなかった 見ないほうが良いということになったよ
クラスでは生き残った仲間にどう接するかが話し合われたよ 当人はショックで何日か学校を休んだと思う
クラスでは今までどおり何もなかったように接することにしたと思う 事故の話をクラスで話題にしたことがないよ
仲間の心の傷に触れたくなかったんだね 誰しもがタブーな事として触れなかったと記憶しているよ
普通に誘って遊んで過ごしたよ 笑いを取り戻せるように普通に接したよ 本人に笑いを求めることもしなかった
仲間同士がじゃれ合ってふざけて笑っている中に放置していたよ 自然に笑顔が戻ってきたよ
仲間が心底笑えるようになるには時間がかかったように記憶してるよ
死んだ仲間への思慕の情は皆が共有していたけどね、口には出さなかった 悲しみはそれぞれの胸の内にしまい込んだよ
悲惨で悲しい事故だった 残酷なことを目の当たりにしたよ ショックな出来事だったね
生き残った仲間は陽気で人気者に戻ったよ 陰のある表情はまったく見せなくなった 克服したんだね
責任感のある男だからね 心の葛藤は想像を絶するものだったと思うけどね 仲間の対応も良かったと思うよ
現代で同様の事故があったらどの様に対応するかね 興味本位に聞いたり話題にしたりしないかね
どんな対応が正しいかは分からないけどね 俺たちの仲間が取った対応は記載したとおりだよ
人を思いやる情の世界だと思うね 先生の指導も良かったんだろうね 思いやりだよね
仲間が死んだことの後悔は、当事者の胸ににグサリと突き刺さっていて痛ましいものだった
悲しい事故と受け止めて、苦しむ仲間の立ち直りをじっと待ったんだよ 笑いを取り戻すまでね
仲間の死に直面して「人は何時死ぬか分からないんだ」との認識はさせられたよ
突然、仲間がいなくなってしまう悲しさや寂しさに、死ぬって事の意味が実感として伝わってきたよ
人の死を強く感じた出来事だったね 死んだ仲間を思い出し語ることはできなかったよ 傷つく仲間がいるからね
このことを知ってる仲間同士では、語れなかった悲しい話だよ
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます