ドイツのメディア ”Die Zeit(時)”は、さる8月20日、マイクロソフトの扱いの難しい(touchy)OSであるWindows 8は、詮索好きなハッカーに対しきわめて脆弱を持つことから、ドイツの民間企業や政府は利用すべきでないとするドイツ連邦内務省「情報セキュリテイ庁(Bundesamt für Sicherheit in der Informationstechnik:BSI)」(注1)が発した一連の通達内容を引用・紹介した。
この問題を詳しく報じたのは英国ITメディア”The Register”や英米、EUを中心とする専門誌”Infosecurity Magazine”等である。本ブログでは専門的な内容につき比較的にわかりやすく論じている両者をベースにBSIレポートの内容につき解説する。
1.デジタル著作権やセキュリティ対策からみた問題の核心
(1)BSIが指摘する懸念とその背景
すなわち、米国が独占的に管理・支配する「トラステッド プラットフォーム モジュール(Trusted Platform Module v 2.0:TPM 2.0)」において同モジュールにつき旧バージョンと異なりユーザーが非活性化(deactivated:オプトアウト)することができないことからユーザーの立場から見たコントロール権侵害問題を例示をあげて取り上げてた。
そもそもTPMはいかなる意義をもって登場したのであろうか。その前に、"Trusted Computing Group:TCG"および”TPM”につきNTTデータの解説から一部抜粋し、概観する。
「TCGとは、コンピュータの信頼性と安全性を向上させるための標準技術を策定する業界団体の名称である。米AMD、Hewlett-Packard、IBM、Intel、Microsoftの5社によって2003年4月8日に設立された。
TCGでは、ハードウェアやソフトウェアの区別を超えてセキュリティ性を向上させるための標準技術を策定し、その標準仕様を実際にハードウェアやソフトウェアに搭載するための指針の策定などを行っている。
不正なソフトウェアなど、コンピュータ内部からの攻撃に対する防御のために導入が始まったセキュリティ・チップについて、その代表的な標準化団体であるTrusted Computing Group(TCG)が取り組んでいる。
すなわち、コンピュータにソフトウェアからの不正ができないような耐タンパ領域をセキュリティチップという形で設け、そこにコンピュータ固有の情報、暗号鍵、ユーザの秘密データを格納、管理しようという取り組みが活発となっている。その取り組みを行う業界団体の動きの結果がTPMである。
その中心企業はAMD、HP、IBM、Intel、Microsoft、Sun Microsystems等、現在のコンピュータ産業を支える中心的企業である。このことは、今後のTCGの仕様に準拠したコンピュータプラットフォームの普及が加速していくと予想される大きな理由である。 ソフトウェアは常に改竄や偽造の恐れがあり、ソフトウェアで実現される信頼性には自ずと限界がある。その限界を克服するため、TPM(Trusted Platform Module)と呼ばれるセキュリティチップが、TCGでは定義されている。TPMに基づく信頼を実現することにより、初めて信頼可能なプラットフォームが実現する。」
2.BSIのWindows 8 OSとトラステッド・プラットフォーム・モジュール( TPM)導入に対する問題指摘
8月21日、BSIは次の内容の指摘リリースを行った。仮訳する。
メディアは、現時点で連邦政府はWindows 8 OSと TPMについての警告ならす旨の報告を行った。その報告記事によると、「ドイツ連邦のWindows 8のIT専門家は紛れもなく危険であると指摘し続けている」。メディアは「ドイツ連邦経済技術省(BMWi)」による次の文書を引用している。「連邦省の適格な専門家、連邦およびBSIの警告としてドイツ当局は新しいIT世代技術であるトラステッド·コンピューティングの使用に対し、明確に反対する」 BSIは、この点に関し次のとおり説明した。: BSIは、Windows 8の展開に先立ってドイツ連邦機関や民間会社に対する警告としてWindows 8がTPM 2.0を有するハードウェアとの組合わせで動作させる特定のシナリオに関連するいくつかの重要な問題点に現在直面している。(BMWiと連邦内務省(Bundesministerium des Innern:BMI)は2007年9月4日に「連邦政府のトラステッド·コンピューティング"に関する主要な問題指摘レポート(Eckpunktepapier „Trusted Computing“ der Bundesregierung)」を公表している)。
TPMとの組合わせにより、Windows 8の使用中において特定のユーザー・グループのためによく、安全性の向上を意味するかもしれない。つまり、これは安全なソリューションを提供し、維持している様々な理由のためのシステムの製造元に、セキュリティの世話を行うことや、信用できないユーザーの排除が含まれる。これは有効なTMPの使用例であるが、そのためにはメーカーが提供するアーキテクチャーおよび使用可能な結果の可能性の限界について十分な透明性を提供する必要がある。 BSIの立場からいうと、 TPM v2.0との組み合わせによるWindows 8の使用は、使用するオペレーティング・システムとハードウェア上の制御権の損失を伴う。このことは、結果として特に連邦政府と重要インフラ等ユーザーにとって、新たなリスクをもたらす。
特に、ハードウェアやオペレーティング·システムの製造業者の偶発的なエラーによるWindows 8とTPM v 2.0で動作させるハードウェアにおいて、また、システムのさらなる誤動作を防止すべくITシステムのエラー状態の所有者にとって、使用するオペレーティングシステムおよびハードウェアに加えて、エラーが発生した場合に恒久的に使用できなくなる結果を引き起こす可能性がある。このような状況は、連邦政府だけでなく他のユーザのために許容されないことである。また、この新設されTMPメカニズムにより、第三者の破壊行為に使用することができるため、ユーザーはこれらのリスクに対処する必要もある。
BSIは、ユーザーによる意識的な「オプトイン」と「オプトアウト」、後続の可能性がハードウェアおよびオペレーティング·システムの責任ある使用のための基本的な条件として、含まれている技術的に使用される情報を完全に制御すべき点につき検討を行った。オペレーティング·システムおよびハードウェア上の結果的に要求条件はトラステッド·コンピューティングとセキュア・ブート(注2)に関する問題点として連邦政府が策定している。
一般的には、ITユーザーに自己決定およびIT技術に伴う自律的取引を維持することを可能となるべきである。その例としては、裁量により、代替のオペレーティング・システムとアプリケーションを使用する能力を備えられるべきである。
したがって、これらの条件は、Windowsおよびトラステッド・プラット・フォームで達成することができるモジュールにおいても継続されるべきであり、BSIは、連邦政府や重要インフラで使用するためにユーザーと引き換えに、トラステッド·コンピューティング·グループ(TCG)に対すると同様にオペレーティングシステムやハードウェアのメーカーに適切な解決策を見つける努力を行っている。
3.Zeit記事の要点
前述Zeit記事は上記BSI等のリリース内容を3つの重要な問題としてさらに整理している。
・TPMは義務違反である。
・TPMはオプトアウトができない。
・ユーザーはOSに関し、常にWindows8とマイクロソフトに制御される。
また、感知されたさらなる危険性を示す点は「機密キー」をNSAに引き渡すことを可能にすることである。決して閉じることのないすべてのWindows 8 PCへの裏口(backdoor)をNSAに引き渡すことである。
さらなる問題を”Zeit”は取り上げている。ベルリンのボイト工科大学(Beuth Hochschule für Technik Berlin )の暗号化問題の専門家ルディガー・ヴァイス教授(Rüdiger Weis)の「すべてのマイクロソフトのチップTPMの生産工場は中華人民共和国にあることを忘れてはならない」というコメントである。すなわち中国の諜報機関へのユーザーの情報流出のリスク問題である。
4.その他のセキュリティ・メディアの警告
8月22日の”emptywheel. net”は上記の指摘事項のほかに次のようなマイクロソフト・ビジネスのセキュリティへの脆弱性問題を取り上げている。
Trusted Computing Platformは、もともと”Trusted Computing Group”と いう技術企業との協力により開発された。マイクロソフトの”Windows Genuine Advantage”は技術的にみて最初から問題がある。(注3)
その内容をよく見ると、一度法的に認証された合法的認証のように見せる内容、ファームウェアやドライバー・ソフトウェアのアップデート、また1ヶ月に1回(第二火曜日)または緊急時のパッチ・プログラムの挿入等の方式は、とりわけNSAのモニタリング・スクリプトの挿入ベクトルときわめて類似している。
セキュリティ開発企業はマクロソフトの毎月の火曜日の「セキュリティ・パッチ(月例パッチ)」コード8/26(28)の1行ごとの情報収集内容の照合・チェックを行う。その情報はどのようなものか?
何人のユーザーが非マイクロソフト周辺機器に関するどドライバーの最新情報を要求するものを含み、わざわざパッチ、アップデートやアップグレードの正当性を尋ねるであろうか?
マイクロソフトとNSAは彼らの技術画広がることを確実にするためデフォルトの偏在のみに質問することの不便さに依存した。
製造の標準規格として Win 8とTPM 2.0の使用で、マイクロソフトとNSAは統一された規格の類似にもとづく保証されたシステムの遵守しうることになる。
さらに、Win8とTPMに関するシステムの準拠性に関するもう1つの手段として、マイクロソフトの企業体質に関する再調整として述べられていることがある。
すなわちすべてのシステムが同一の標準に従うため、すべてのハードウェアプラットフォーム(同じOSで動かすPC、ネットブック、携帯電話)に関する問題とがただ人のWindows Managerに報告する形となっている。
唯一の疑問が残る。マイクロソフトのXboxプラットホームはTPM2.0に関し同じWindows標準にいつまでに移行するのか、また、したがってXboxから離れるために新たなゲームコミュニティを要することになるのか?
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(注1)BSIについては、筆者ブログ「ドイツの国家情報セキュリティ機関(BSI)の概要」で詳しく解説している。
(注2)「Secure Boot(セキュアブート)」とは、コンピューターの起動時にあらかじめデジタル署名のあるソフトウェアしか実行できないようにする技術のこと。ファームウェアのインターフェース仕様である「UEFI(Unified Extensible Firmware Interface)」によって策定されており、trusted boot(トラステッドブート)、verified boot(ベリファイドブート)といった別名がある。
従来のBIOSに代わる技術として、ハードウェアがOSの立ち上げ過程を検証することで、無署名のソフトウェアの実行を禁止する。これにより、マスターブートレコードに感染するタイプのマルウェアなどがOSよりも前に読み込まれ、実行されることを防ぎ、セキュリティをより向上させる効果が期待される。
マイクロソフト社の新OSである「Windows 8」では、起動時の技術にSecure Bootが採用されることになった。一方で、起動に必要な認証キーがメーカーのプリインストールPCに組み込まれて出荷されるケースが見込まれるため、結果的に純正のWindows 8マシンでは、Linuxなど他のオープンソースOSの利用が不可能になるのではないかという話も上がっている。(Security blogの解説から一部抜粋)
2011年12月にMicrosoftが発表した、Windows 8のハードウェア仕様に関する文書(Hardware Design and Development for Windows 8)では、Windows 8の起動時の技術にセキュア・ブートが導入されることが具体的に記されている。
(注3) Windows Genuine Advantage (WGA) プログラムについてマイクロソフト社のサイト説明から一部抜粋する。
「Windows Genuine Advantage (WGA) プログラムは、教育、エンジニアリング、および政策法規の実施により、お客様やパートナーを偽造者から保護するという、マイクロソフトの取り組みの一環です。WGA は偽造ソフトウェアを識別し、正規の Windows ソフトウェアの価値を高めます。これにより、お客様に本来の機能を活用していただくこと、お使いのソフトウェアが正規のものであるという確信を持っていただくこと、パーソナル コンピュータでより多くのことを実行できるシステムの機能強化を継続的に行うことが可能になります。 WGA は、正規の Windows のユーザーに、より良い Windows を使用していただくためのプログラムです。正規の Microsoft ソフトウェアを使用すると、最新の機能、セキュリティ、およびサポートに確実にアクセスできます。これは、ユーザーの生産性を高め、お使いのコンピュータの機能を拡張するのに役立ちます。また、正規品の Microsoft ソフトウェアを所有するお客様だけが使用できる新機能とサポートにアクセスすることもできます。このプログラムには、違法ソフトウェアを受け取ってしまったことがわかっているユーザー向けに推奨事項とヘルプが用意されています。」
(注4)ネットブックとは、ノートPCの分類のうち、もっぱらインターネット関連のサービスを利用するために特化された、小型、シンプル、低価格なノートPCの総称である。
ネットブックは、Webブラウザを用いたWebサイトの閲覧や、電子メール、その他基本的なアプリケーションの利用といった比較的簡単なPC利用のために特化された端末であるといえる。大まかな共通点として、インターネットが充分に利用できる最低限のスペックを持ち、キーボードや、OSにはWindowsといったPCとして利用できる最低限のインターフェースを備えている。「IT用語辞典バイナリー」から抜粋
(注5) Xbox(エックスボックス)とは、マイクロソフトが開発および販売を行った家庭用ゲーム機である。
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