安い日当で寒風の中、あちこち配達するのが嫌になったと、何百通もの年賀状が河原土手に捨てられていた、といった記事を再三新聞で読んだことがある。だから、若い頃、無謀にも書いたラブレターの返事が無かったのも、そういう事情が有ったのではないかと、後生を直前に控えた今でも未練がましく思い返すことがある。イギリスでは、若い娘が書き送った手紙が100年以上経って宛先に届いた奇譚があったと、米CNNが伝えている。
宛名違いのその手紙は16年2月の消印があった。受取人の男性(27)は最初、2016年の郵便物が数年も経ってから届くか?!、と戸惑った。しかし、切手にあるのは英国王ジョージ5世だった。あれッ、在位70年のエリザベス女王を飛び越して前の王とはどういうこと?、と不思議に思い、男性は数年前に地方歴史協会に持ち込んで調べてもらった。すると、それは1916年の第1次世界大戦さなかに投函された封書だと分かった。手紙の宛先に住む男性の住所はハムレット通りで、他人の私信を開封することを英郵便法が禁じているので、「開けて見るべきか、見ざるか」と王子のように悩んだ末、開封した。そして歴史的関心を呼ぶだろうと地元の雑誌に持ち込み、100年を超えて日の目を見た。
手紙はケイティーという地域経済の大立者の奥様宛てで、差出人はお茶貿易商の娘のクリスタベルというお嬢さん。大風邪を引いてぐったりしていますなどと記されていた。発信年から1900年辺りの生まれで、現在120-30歳に相当する。
仮受取人の男性、グレン氏は劇作家兼演出家であり、このような不思議な運命のいたずらの展開を描いたことはないが、次作には取り入れるかもしれないと言っている。しかし、作中のドラマでなく、アンタ、なに、ヒトの手紙を勝手に見てんのよー、とクリスタべりさんがいきなり怒鳴り込んできたら、もっと面白い展開になると期待したい。