異常な危機に直面すると、人間とか組織は常の仮面がずれて、隠された本性が垣間見えるものである。孟子は、子供が誤って井戸に落ちようとするのを見る時、あっ、可哀そう、助けなくては、という気持ちが自然と湧き上がる人の心の働きを、惻隠の情と呼んだけれど、実際は一様でなく、すぐ走り出して助け上げようとする人もいるし、自分とは関係ないと思う人もおり、咄嗟の出来事への対応は人様々で、それぞれが持つ背景に左右される。
ロシアのウクライナ侵略戦争のように、第3次世界大戦に突入しかねない非常時になると、第2次大戦時のゾルゲ事件のように、コミンテルン本部の指令を受けた尾崎秀実ばりの人物があぶり出されてくる。現代ではスパイ摘発能力が極度に緩くなっているため、金とかハニートラップを通じて相当数蠢いている気配がある。スパイ適性が高いのは政治家や官僚、職業軍人に、マスコミ、報道機関、タレント、芸能人などで、要注意が必要である。これらの界隈で、惻隠の情のような人の常識を持たない、妙に筋違いな言動をする人物は怪しんで良い。
戦争報道も現地取材が極端に少ないのに反比例して、あたかも見てきた情報が異常に多いのは、プロパガンダと憶測が大半と見て良い。素知らぬ振りをして当局情報を垂れ流すゾルゲ通信社と呼べる存在も散見される。国すらも、侵略反対とか西側民主主義国家を唱えながらロシアとの抜き差しならない関係から便宜融通を図るのだから、個人や民間団体においては、人道より裏金と腐れ縁を大事にするのは致し方ないのかもしれない。台所の天井棚から金盥が床に落ちてきた時のように、ゴキブリがぞろぞろ這い出す様がいずれ目撃できるかもしれない。憲兵、特高は無くなったけれど、不穏な動きを摘発する必要性は全く無くなっていない。
今、人たちまちに孺子(子供)のまさに井(戸)に入らんとするを見れば、皆な怵惕(ジュッテキ=驚いて動揺する気持ち)惻隠(ソクイン=可哀そうに思う気持ち)の心有り。
惻隠の心は仁の端なり(以下、惻隠、羞悪、辞譲、是非の四端が人の心に備わっており、それぞれ儒教の根本徳目である仁、義、礼、智の表れであるとの教え)。