立ち上がって、いよいよ競技場に足を踏み入れる。
前を歩いてくださる組織委員会の方が手前で立ち止まったけれど、
えっと私は・・・
「ここで良いですかね」とオドオドしながら聞いてみる。
しかしその後の動きがまったくわからない。
「えっと… あの辺に歩いていけばいいんですかね」
ここのところのリハーサルはやっていなかったのだ。
さすがギリシャ…!
感心している場合ではない。
カプラロス会長はスタスタと聖火ランナーの方へ歩いていき、
トーチを受け取って、戻ってきた。
今か?行っちゃう?
会長の方へ歩いていき、前に行くと、会長は英語で話し始めた。
「この聖火を日本の皆さんが希望を乗せて東京まで届けることを祈っています」
みたいなことを言っていたと思うけれど、はっきり覚えていない。
私の方は、会長が持っているトーチにいつ手を添えるべきか否かみたいなことをごちゃごちゃ考えていたのだから。
←二十顎同士
会長がトーチを手放す。
私は、ほとんど勘で、トーチを掲げてみる。
そのシミュレーションは頭の中でできていなかったことに気づく。
トーチを下ろして、
次はランタンに火を移すのだ。
でも風が強すぎて全然つかない。
その間、私の髪の毛は強風で一層ぐちゃぐちゃになり、顔面にかかる髪の毛を払うので私は必死。
と同時に、持っているトーチの火が吹き荒れ、技術士の方の背中にかかりそうになる。それはマズ過ぎるだろう!
結構時間がかかって(実はこの時、技術士の方のテクニックでやっと火が移ったことは後で知った)、
ランタンに火が灯って、私はそのランタンを受け取るのだけれど、
その前に私が持っているトーチを誰かに渡さなきゃいけないことはリハーサルでできていた。
でもみんなランタンに火が移すことが多分冷や冷やで、その一大任務が終わり、次のアクションが吹っ飛んでしまっていたと思う。
「すみません、トーチ、トーチ」と私が言って、
技術士の方が気が付いて、トーチを受け取ってくださってから、
私はランタンを受け取った。
ランタンを掲げるところのシミュレーションは前日にバッチリできていました。
しかしその後の動きはまた全然わかっていなくて、
どこかに歩いていくのは知っているけれど、どこに行くんだ?
周りの人の動きに合わせて歩く。
競技場の中心から外までやん!結構長いやん!
と思っていたら、カプラロス会長に、
「この聖火を持っているのは、今世界中で君だけなんだよ」と言われた。
そういうことか…。
「世界に一つだけの火」なんだ。
私は恥ずかしながら、聖火の意味を初めて理解した。
↑ ここを歩いている時は、「またなんか協力しよう。ミーティングでもしようね」なんて話をしていました。
「終わったーーー」
この後、囲み取材。
日本語と英語。
コロナウィルス対策のため、記者さんには2m以上離れてくださいと頼んでおいた。
その後組織委員会の方に、「ではここで」と聖火を引き渡し、
彼らは空港へすたこらさっさと向かわれた。
私はその後も、個人携帯やLINE経由で日本からの取材を数件こなし、
一旦(スタジアムの隣の)家に帰って、
部屋着に着替えてからフランスの新聞(実はお友達)の取材を電話で受けていたら、
テレ朝の「報道ステーション」の知り合いから連絡があり、
「(50分後の)放送の前にメッセージ欲しいから今イケる?」と言われ、
フランス人の電話は切って、さっきの服にまた着替えて、スタジアムに走って戻ったのでした。