小生は五輪塔からハマりました。宝篋印塔や磨崖仏などを経て今は宝塔に関心の比重が移りつつあります。(まだ層塔や板碑は勉強不足です)
はじめて郷里近くの中世の大きい五輪塔を見学した時、その大きさ、デザインの妙、水輪の曲線、青みがかった花崗岩の質感、ひんやりとした石の触感に何ともいえない感動を覚え、文献をあさり、以降近畿を中心に主だった中世の五輪塔を訪ね歩いてきました。(まだまだごくごく一部です・・・)
とりわけ深い感銘をうけたのは、奈良市西大寺体性院の叡尊塔を一人訪ねた時でした。誰もいない静かな廟所の広大な基壇に立ち、青空に聳える巨大な叡尊塔と対峙した瞬間、時が止まりました。生家は仏教徒でも大学はミッション系、宗教などにまったく興味もない小生でしたが、700有余年の時間を隔てた今この瞬間、ここには思円上人と小生が五輪塔を介して二人っきりになっている・・・そう思えたのです。時空を越え、写実的なあの眉毛豊かな叡尊像が想起され、説法する上人の力強い声がしたような気がしました。そして巨大な五輪塔を見上げる時、完璧なバランス、曲線と直線の構成美、石の表面の質感、陽の当たる面の石の白さと陰の部分のコントラストに改めて美しさを認識するに至ったのです。
それから、書物を頼りに目当ての石塔を捜して徘徊したあげく、吐く息が白い山村の静か過ぎる無音の木蔭に、人知れず厳しい佇まいを見せる宝篋印塔の凛とした姿とようやくにして邂逅した時の感動は忘れえぬものがありました。
そして今、その美しさに惹かれているのは宝塔です。日本一の宝塔の宝庫、夢は近江路を駆け巡るといった近況です。