◆「圧力団体イクチヲステガ」の第七回公演「物語」(演出・戸張裕介)を東京・渋谷の「SPACE EDGE」で観劇した。今回は、海に飛び込んで、意識不明になって生死の淵をさ迷っている一人の若者・ユマが、主人公らしい。研究員が若者の意識を観察しているところを見ると、臨死状態を研究する実験室なのか、病室なのか定かではないけれど、若者が「夢」のなかでアタリという死神と思しき妖人に誘われて、先に旅立ったという兄・マキナを捜す旅に出かける。「塔」の上を目指す欲望に取り付かれて、騙し絵のような世界を循環しながら、だんだんと黄泉の世界に引き込まれていく。最後に死神の企みを知り、黄泉の国に連れ込まれそうになったところで、研究員が電気ショックのボタンを押し、その度に、死神が打撃を受けて倒れては、また立ち上がり、生に呼び戻そうとする研究員との間で、緊張した葛藤が繰り返されて、ついに死神がその存在そのものを失い、若者は、現実の世界に帰還し、田園風景のなかで、平和な日常生活を取り戻す。
現実と夢、虚虚実実、その反復のなかで、物語が進行する。意識不明のなかで繰り広げられる夢と、現実の世界に生きて、上昇志向の目標である夢とが、交錯しつつ、一体何を
求めて「高い塔」を登り、限りなく夢を追い続けるのか、その意味そのものへの疑問が、湧いてくる。
◆扇谷正造さんの著書「なくて七癖」という書物のなかで、日本人は、上昇志向の強い民族であることが書かれていた。富士山登山しかり、大学進学しかり、出世志向が強く、「高いところ」を見つけると、すぐに登りたがる。
思えば、いまから47年前、郷里・広島県呉市を出て上京したのは、この「登り癖」のせいだったのかも知れない。幕末の僧・月性が「男子志しを立てて、郷関を出ず、学もし成らずんば死すとも帰らず・・・」と詠んだ漢詩が思い出される。それにしても、「少年老い易く、学成り難し、一寸の光陰軽んずべからず」である。まさに「光陰矢の如し」で、「上」を目指して、塔を登っているうちに、残り時間がだんだんと少なくなり、死神の罠にまんまと嵌ってしまう焦りを感じられてくる。
◆ふと我に帰ると、現実の世界では、桜が満開をすぎて、葉桜へと移り変わり、いよいよ新緑の季節に向かっている。西行の歌「願わくば花の下にて春死なむその如月の望月の頃」が、脳裏をかすめ、懐かしさがこみ上げてくる思いがした。多忙な生活に追われていると、ついつい花鳥風月を忘れてしまう。「圧力団体イクチヲステガ」の「物語」が、個人的には、新たな物語を紡ぎ、人生にとって大事なものを見過ごしてきたことを反省させられた。
◆「圧力団体イクチヲステガ」の脚本、演技ともに回を重ねる毎に、レベルアップしている。そのことに満足させられた。今後、さらに「上昇志向」を強め、塔の天辺をめざし、文化庁主催の「芸術祭参加作品」での見事、受賞を期待したい。やっぱり、「登る」のは、必要かも。
板垣英憲マスコミ事務所
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現実と夢、虚虚実実、その反復のなかで、物語が進行する。意識不明のなかで繰り広げられる夢と、現実の世界に生きて、上昇志向の目標である夢とが、交錯しつつ、一体何を
求めて「高い塔」を登り、限りなく夢を追い続けるのか、その意味そのものへの疑問が、湧いてくる。
◆扇谷正造さんの著書「なくて七癖」という書物のなかで、日本人は、上昇志向の強い民族であることが書かれていた。富士山登山しかり、大学進学しかり、出世志向が強く、「高いところ」を見つけると、すぐに登りたがる。
思えば、いまから47年前、郷里・広島県呉市を出て上京したのは、この「登り癖」のせいだったのかも知れない。幕末の僧・月性が「男子志しを立てて、郷関を出ず、学もし成らずんば死すとも帰らず・・・」と詠んだ漢詩が思い出される。それにしても、「少年老い易く、学成り難し、一寸の光陰軽んずべからず」である。まさに「光陰矢の如し」で、「上」を目指して、塔を登っているうちに、残り時間がだんだんと少なくなり、死神の罠にまんまと嵌ってしまう焦りを感じられてくる。
◆ふと我に帰ると、現実の世界では、桜が満開をすぎて、葉桜へと移り変わり、いよいよ新緑の季節に向かっている。西行の歌「願わくば花の下にて春死なむその如月の望月の頃」が、脳裏をかすめ、懐かしさがこみ上げてくる思いがした。多忙な生活に追われていると、ついつい花鳥風月を忘れてしまう。「圧力団体イクチヲステガ」の「物語」が、個人的には、新たな物語を紡ぎ、人生にとって大事なものを見過ごしてきたことを反省させられた。
◆「圧力団体イクチヲステガ」の脚本、演技ともに回を重ねる毎に、レベルアップしている。そのことに満足させられた。今後、さらに「上昇志向」を強め、塔の天辺をめざし、文化庁主催の「芸術祭参加作品」での見事、受賞を期待したい。やっぱり、「登る」のは、必要かも。
板垣英憲マスコミ事務所
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