ドイツ・コンスタンツ大学の生態学者ダニエラ・レスラー(Daniela Rößler)氏は、アマゾンの奥地でフィールドワークを行なう研究者とのことですが、
コロナ禍でフィールドワークに行けず、仕方なく自宅近くの草むらをかき分けていたところ、
そこにうごめく小さなハエトリグモ(Evarcha arcuata)にたちまち魅了されてしまったそうです。
なかでもある個体が、夜休むとき、1本の糸の先に逆さにぶら下がり、足をくるっと丸めてじっとしている最中、
時折周期的にピクッと体を震わせるのを見つけました。
それはまるで、イヌやネコが夢を見ているときに見せる動きによく似ていました。
そこで研究室に頭部がまだ透明な生後10日の幼体のクモの寝床を作り、拡大鏡を装着した暗視カメラで本格的に観察してみると、
レム睡眠中のヒトと同様、「網膜管」というクモの眼を動かす部分もピクピクと動いているではありませんか。
つまり、レム睡眠のような状態で、もしそうなら無脊椎動物では初めての画期的な発見ということになります。
ただし、彼らが私たちの見ている視覚的な夢と同じように、夢を見ているのかどうかについては、レスラー氏は慎重です。
クモのレム睡眠に似た状態が科学的な意味で本当に睡眠と言えるのか、そしてその状態に入ると彼ら自身にとってどんな利益があるのか、
検証する研究をさらに計画しているとのことです。
彼らも夢見る動物であるとわかったら、果たして私たちは、依然、彼らを叩き潰すことができるでしょうか?
<原著論文>
Rößler, D.C., Kimd, K., De Agrò, M., Jordan, A., Galizia, C. G. & Shamble, P. S., 2022 Regularly occurring bouts of retinal movements suggest an REM sleep–like state in
jumping spiders, in Proceedings of the National Academy of Sciences of U.S.A., vol.119, no.33 : e2204754119. →こちら(動画もあります)