シリルの内面的な焦りとは別に、ジャガイモの買い付けは順調に進んだ。旧知の友人は、こんな時だからこそ助け合わねばならないと言って、かなり安くゆずってくれた。シリルは心より感謝し、旧知を暖めてまた深い友情を結んだ。
シリル・ノールは、国内有数の資産家だったが、今その私財を投じて、食糧不足に苦しむ人民のために慈善を行っていた。このジャガイモも自分が食うために買ったのではない。これでうすいスープを作り、人民に与えるために買ったのだ。
自宅倉庫には、ウリムズにある農場から取り寄せた小麦もある。それに申し訳程度のパン種をこめて硬いパンを作り、毎日のように人民に分けていた。
国のために何かをせねばならない。焦るような気持ちで彼はそれをやっているのだったが、日々もどかしさは募るばかりだった。
自分に、政治的手腕を発揮できる機会が与えられれば、存分にやれることがあるものを。
これが民主制の決定的な難点だ、と彼は思っている。時に嫉妬や低級な願望に振り回される人民が、一時の軽い迷いで、為政者を選んでしまう。それを防ぐ手立てがない。
それはともかく、シリルはジャガイモの箱をトラックに積み込むと、自分もその助手席に乗り込み、運転手に言った。
「最短距離を行ってくれ。ガソリンも節約せねばならない」
すると忠実な運転手は、穏やかな声で、「ウィ、ムッシュー」と言った。
(つづく)