世界はキラキラおもちゃ箱・第3館

スピカが主な管理人です。時々留守にしているときは、ほかのものが管理します。コメントは月の裏側をご利用ください。

風の断旗⑦

2018-06-04 04:16:53 | 夢幻詩語


シリルも、毎日の食糧調達に疲れ果てていった。いくら交友範囲の広いシリルとはいえ、限界はある。その限界がひしひしと迫っている、ある日のことだった。

シリルが朝起きて間もなく、冷たい水で顔を洗っていると、執事のダヴィドが叫ぶように声をあげて、洗面所に躍り込んできた。

「だんな様! だんな様! 大変です!!」

「何事だ」

「空が、西の空が燃えています!!」

シリルは息を飲みこんだ。体は反射的に動いた。タオルで顔をふきながら、寝間着のまま外に走り出た。ダヴィドの言った通り、西の空が赤く燃えていた。

午前中だ。夕焼けなどであるはずがない。

風がうなり、空が轟いていた。それが戦闘機の音だと気づくのに、数分かかった。

「タ、タイカナだ! 隣町のタイカナがやられてるんだ・・・・・・!」

「神よ・・・・・・!」

庭に出ていた召使たちが口々に言った。

シリルは呆然としながら上空を見た。釘を並べたように、ロメリアの戦闘機の軍団が光っていた。

「本土攻撃か・・・・・・!」

シリルは邸内に走り戻り、飛びつくようにラジオをつけた。ラジオは戦時下の統制で、常にニュースを流していた。だがラジオは爆撃については何も言わなかった。ただ、大統領ジャルベールが、休暇のため、保養地トレガドにむかうと、それだけのことを小さく伝えただけだった。

シリルはラジオを床に投げつけながら、叫んだ。

「馬鹿者が!!!」

(つづく)




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