シリルも、毎日の食糧調達に疲れ果てていった。いくら交友範囲の広いシリルとはいえ、限界はある。その限界がひしひしと迫っている、ある日のことだった。
シリルが朝起きて間もなく、冷たい水で顔を洗っていると、執事のダヴィドが叫ぶように声をあげて、洗面所に躍り込んできた。
「だんな様! だんな様! 大変です!!」
「何事だ」
「空が、西の空が燃えています!!」
シリルは息を飲みこんだ。体は反射的に動いた。タオルで顔をふきながら、寝間着のまま外に走り出た。ダヴィドの言った通り、西の空が赤く燃えていた。
午前中だ。夕焼けなどであるはずがない。
風がうなり、空が轟いていた。それが戦闘機の音だと気づくのに、数分かかった。
「タ、タイカナだ! 隣町のタイカナがやられてるんだ・・・・・・!」
「神よ・・・・・・!」
庭に出ていた召使たちが口々に言った。
シリルは呆然としながら上空を見た。釘を並べたように、ロメリアの戦闘機の軍団が光っていた。
「本土攻撃か・・・・・・!」
シリルは邸内に走り戻り、飛びつくようにラジオをつけた。ラジオは戦時下の統制で、常にニュースを流していた。だがラジオは爆撃については何も言わなかった。ただ、大統領ジャルベールが、休暇のため、保養地トレガドにむかうと、それだけのことを小さく伝えただけだった。
シリルはラジオを床に投げつけながら、叫んだ。
「馬鹿者が!!!」
(つづく)