チュリオンという町にある自邸には、毎日のように、飢えた町の人々が押し寄せる。シリルは召使を総動員して、世話に当たらせていた。
シリルがシラテスから持って来たジャガイモを見た時、女中頭のベルタは涙を流して喜んだ。
「ありがとうございます! これだけあれば、千人分のスープができるわ!!」
また後から追加が来る、というと、ベルタは一層喜んだ。箱の中身は屑芋と言った方がよいものばかりで、中には芋というより豆と言った方がいいものまで入っていたが、ベルタの喜びはひとしおだった。
早速女中たちに皮をむかせ、スープの仕込みに入った。もっといいものを作ってやりたかったが、今はかさを増やすために、屑野菜と一緒に煮込んで、スープにするしかない。
大なべを七つも仕込んで、薄い塩味のスープを作る。あればベーコンやハムの薄切りを入れることもあった。そういうものもみな、シリルがどこからともなく調達してきてくれるのだ。
毎日昼頃になると、大小の器を持った市民たちが、二百人近くも列をなして、シリルの屋敷の前に並んだ。
アマトリア人は行儀が良い。こんな非常時にも関わらず、みな順番を守って一列に並び、器にスープを入れてもらっていく。これだけがたよりだという市民も多く、シリルは慈善をやめることができなかった。女中たちも髪を振り乱して働いていた。
来た者みんなに与えられたらいいのだが、長い時間並んでもスープもパンももらえない者もいた。そんな時ベルタは自分の分も人に与えてしまう時があった。
何て時代だろう。何て時代だろう。戦争がこんなことになるとは思わなかった。
人民は警察の耳をはばかって滅多に口に出しては言わなかったが、ジャルベールへの呪詛を胸の中に積み上げている者は多かった。
飢えて死んでいく市民も少なくなかった。シリルは国民が疲弊していく様子を、黙って見ているしかない自分を嘆くことしかできなかった。
民主制とは何なのだ。
すべての人民を幸せにしようとして、すべてを平等にしてみたら、いい人材とよくない人材の見分けもつかない教養の低い人間に権力が渡り、そういう者が大勢集まって、エゴを振り回すようになった。民主制の理想を掲げながら、たくみなレトリックで嫉妬を隠し、人民は高い資質を持つよい人材をことごとくつぶしていく。なぜか。自分よりいい奴が嫌なのだ。自分が一番でなくては嫌なのだ。そういう平等を根底から侮辱するエゴが、民主制の国には、常に嵐のように吹きまくのだ。
(つづく)