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爆撃そのものは、三十秒ほどで終わったらしい。だが町は一日中燃え続けた。時ならぬ妖火が、チュリオンの西の空を焼いた。異様な臭いが、風に混ざって流れて来た。
ロメリアの戦闘機の部隊はすぐに去った。彼らを追撃するアマトリアの戦闘機は、一機も現れなかった。
「ジャルベールはなにをしてるんだ!」シリルは窓から西の空を見ながら、吐き捨てるように言った。
その日の夕方ごろ、タイカナから流れてきた負傷者の行列が、チュリオンに現れた。タイカナはもはや焼け野原になったので、助けを求めて、隣町のチュリオンにやってきたのだ。
やけどを負い、足を引きずり、みじめに破れた服を着た人間たちの群れは、まるで亡者の行列の様にも見えた。チュリオンの住人は息を飲んだが、反応の早い人間が、真っ先に行列に声をかけ、彼らをチュリオン最大の病院に案内した。
途中で歩けなくなった負傷者を、背負って歩く住民も多かった。みな、ほとんど何も言わなかった。ただ、涙だけが、物言わぬ叫びのように、人々のほおを流れ続けていた。
その日の夜、チュリオンの大病院は、タイカナから流れて来た大勢の負傷者で埋まった。ベッドの数など足りるはずがない。床や机の上にも毛布を敷き、患者をあちこちに寝かせて、てんてこ舞いの手当てが始まった。
消毒薬が足りないという叫びを聞いて、住民が酒を持ち寄ってきた。包帯の代わりに、カーテンやシーツを引き裂いて傷にまいた。下の世話をしてやりたくても手が回らず、たれながしの状態が続いた。後はもう何が何だかわからなかった。
三日もすると、腐臭が漂い始めた。医師も看護師も、手当てに振り回され、死人を外に運ぶことさえ、なかなかできないのだ。地獄のような情景があちこちで起こった。
シリル・ノールも、病院でこの一部始終を見た。密偵の情報から、タイカナのほかに四つの町が爆撃を受けたことを知った。首都アミスコットも一部が焼け野原になったと言う。
シリルは病院を回っているうちに、ベッドに横たわっている負傷者の中に、知った顔を見て立ち止まった。やつれ果てているが、学生時代の後輩に間違いなかった。思わず声をかけようとしたが、死んだように眠っている。だがそこから動くことができず、近くにあった椅子に座り込んだ。
(つづく)