フランツ・フォン・シュトゥック
原題「自画像」。
この画家は心を閉じている。あまりにこの世界が苦しいからだろう。自己活動のほとんどを守護霊にまかせている。そしてその表現に自分が加担するという、ほとんど、本霊と守護霊が逆転したかのような活動をしているのである。
ゆえにこの画家の作品群には常に異様な苦しさがつきまとう。本霊が常に、これらは自分の作品ではないことを感じているからだ。
シュトゥック自身は、もっと繊細な絵を描く画家なのである。だが彼の守護霊は大胆な構図を描く。それもまたよいが、自分とは違う絵を自分が描くのが、本霊にはきついのだ。
馬鹿と矛盾の吹きすさぶ世の中を、芸術家の魂を守って生きるための、これは彼が選んだ方便だろう。できあがった作品は実におもしろいものになっている。大胆な構図の中に、繊細で奥ゆかしい魂のおののきがあるのだ。
本霊は美しいものを描きたいのに、守護霊はなかなかそれをしてくれない。彼の守護霊は、矛盾の世の中でもある程度生きることのできる痛い人格なのだ。それにまかせていれば、自分はそれほど傷つくことはない。だが思うように自分の表現はできない。
人間の、自分というものが、おそろしいほど歪んでいた時代を生きようとした、繊細な魂の、これはひとつの試みなのである。
この自画像は、自分を描いているようで、自分とは違う人間と、奇妙に融合した不思議な人格を描いているのである。