1 発明の意義
発明とは自然法則を利用した技術的思想である。
2 自然法則の利用
「自然法則」とは、自然界において経験的に見いだされる法則のことをいう。「法則」という以上、ある一定の条件の下で、ある一定の確率で、特定の結果が生じる必要がある。従って、単なる精神活動、純然たる学問上の法則、人為的な取極等は特許の対象たる「発明」に含まれない。
発明の要件は、自然法則の「利用」であるから、自然法則自体を発見しても発明には該当しない。逆に、永久機関のような自然法則に反するアイデアは自然法則を利用していないから発明に該当しない。また、自然法則を利用していれば良く、その法則の理論的説明が欠落していても問題はなく、また、それが誤っていても構わない。
この点、ソフトウエアに関連する発明については、ソフトウエア自体は情報であり、それ自体は自然法則を利用しているとはいえないものの、ソフトウエアは物理的な存在であるハードウエアにより処理され、一定の結果を生み出すものであるから、この意味において自然法則の利用性が肯定されると解されている。ビジネスモデル発明についても、ビジネスモデル自体は情報であり、それ自体は自然法則を利用しているとはいえないものの、ソフトウエアを関連づけることにより、ソフトウエア発明の一種として、自然法則の利用性が肯定できる場合がある。
3 技術的思想
アイデアが発明に該当するためには、「技術的」なものである必要がある(なお、「思想」は高邁なものに限定されるものではなく、単なるアイデアと同義である)。技術という以上、実施可能性と反復可能性があること(最高裁平成12年2月29日判決(民集54巻2号709頁))が必要であるとされている。ここで、反復可能性があるとは、100%の確率で同一の効果が得られることを意味するものではなく、確率がわずかであっても効果が得られることが確実である限り、反復可能性があるといえる。
4 参考になる裁判例等
現行法の下での判例としては、実用新案法において「資金別貸借対照表」なる考案について自然法則利用性を否定した事例(東京地裁平成15年1月20日(判時1809号3頁))、錦鯉飼育方法について自然法則利用性を肯定した事例(東京高裁平成2年2月13日(判時1348号139頁))などがみられる。
なお、特許を受けることができるのは発明として完成されたものに限られる。発明が完成されたといえるためには、「当該技術分野における通常の知識を有する者が反復実施して目的とする技術効果を挙げることができる程度にまで具体的・客観的なものとして構成されていなければならない」というのが判例である(最高裁昭和52年10月13日判決(民集31巻6号805頁))。例えば、「折りたたみ式の電子レンジ」という「発明」をしたといわれても、発明者がその具体的実現手段に想到していない場合、未完成発明といわざるを得ない。もっとも、明細書の記載からは、発明者が具体的手段に想到していないのか、あるいは、単に記載がないだけであるのかを区別することは困難である。従って、特許庁の審査実務としては、たとえ実態としては発明未完成であっても、未完成発明であるという理由により拒絶理由が通知されるのではなく、記載不備として拒絶理由が通知される場合が多い。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます