鈴木康広さんの「まばたきとはばたき」(青幻舎)をkatsuraさんにお借りしました。
鈴木康広さんは帯にもあるように、瀬戸内国際芸術祭2010出品作「ファスナーの船」で話題を呼んだ作者です。
319ページの分厚い本で、収められている作品の数も膨大なのですが、何回でも読み返してしまう発想と思考のゆたかさがあります。
そのなかから、作品を5点選んで紹介します。
テキストは本からの転載(一部省略)です。
◆現在/過去
現在という瞬間は判子を押すともう過去になってしまいます。
時間について、とくに瞬間について考えると、「現在」を認識することは不可能なことに思えてきました。
過去という文字が現れた瞬間のはっとした感覚そのものが、時間の最小単位なのかもしれません。
人間の認識そのものにもわずかな時間がかかっていることを考えると、自分自身の中に決して追いつけない「ずれ」があります。
さっきの自分/今さっきの自分/今の自分。自分の記憶をさらに微分していったとき、自分はどこにいるのでしょうか?
まばたきは自分の「今」を切り取る最もシンプルな現象のような気がします。
◆キャベツの器
ほんもののキャベツを型どりした型に紙粘土を貼り付け、乾燥させてとりはずすと、本物と同じようなしなやかさのある、まるで抜け殻のような白いキャベツの葉が現れました。
一枚ずつが皿になり、何枚か集めると結球したキャベツになります。
キャベツの葉に水がたまっているのを見かけたのがきっかけで、そこにはもともと「器」がひそんでいたことに気がつきました。
キャベツの葉の形は、生産や調理に便利なように品種改良で「デザイン」されてきたといいます。この器が思った以上に収まりよく重ねられたことに納得がいきました。
◆ファスナーの船
飛行機の窓から東京湾を見下ろしたとき、海を進む船と航跡がファスナーのように見えました。
(後略)
船内の座席の配置は、限られた空間を有効に活用するために「お見合い席」にしました。
すると向かい合って座った人と偶然足が交互になり、ファスナーの噛み合う金具のように見えて、思わず互いに笑いあいました。
ファスナーの船の船内は、開く直前のつなぐ空間でもあることに気づきました。
◆?のあめ
あめが容器から飛び出した「瞬間の形」を活かしたあめのパッケージをつくりました。
?マークの「ん?」というニュアンスが、この容器からあめが出る寸前の気分と一致しました。
正面から見ると「はてな」のかたちですが、90°回転させると「びっくり」の形になります。
「なんだろう?」と思いながら、あめが出た瞬間、端から見ると「びっくり」に見えます。
「はてな」と「びっくり」は、同一のものの「側面」を表現した記号なのかもしれません。
◆募金箱「泉」
募金箱を「箱」の形から考えるのではなく、美術館そのものを募金箱に見立てました。
コインを自分の「分身」としてとらえ、壁面にスリットを施し、美術館の活動への入口をつくりました。
コインを投入するとコインの落ちる音は消え、水滴が落ちた音が響きます。
入れたコインの種類によって水滴の音が異なります。
スリットをのぞくと美術館の敷地内の木漏れ日や水面に映る揺らぎの映像がぽっかりと浮かんでいます。
Facebookを見ていると、関係のないページから、偶然、鈴木さんの展覧会通知のページにリンクして、びっくりしました、彼の作品なども紹介されています。
鈴木康広の個展「近所の地球」