チハルだより

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ふしぎのこたえ

2007-09-25 | エッセイ
 

 幼いとき、ふしぎなこと、わからないことがいっぱいでした。
 あのころの私には、飽きるほど、ひまな時間がありました。身のまわりのものごとに、のんびりと触れながら、いつのまにか、ぼんやり考えあぐねていたのでしょう、いろんな「なぜ?」にぶつかって、まわりの大人に、よくものを尋ねるこどもでした。大人はなんでも知っている、そう思いこんでいたのです。
 幼さゆえに、「なぜ?」をうまく伝えることが、できないときもありました。すると爪をかんだり、家の畳にぺたんと座り、窓越しに庭の松を途方に暮れて眺めたり。
 つたないなりに、なんとか疑問を投げかけることができたとしても、ときとして、大人の口からこぼれる言葉は難解で、誰もがわかったような顔なのに、どうして私の心には、ストンと落ちてくれないの、と寂しくなったものでした。
 小さな娘の好奇心は、ただ納得したい一心で、「なぜ?」のこたえを探して求めていたけれど、問いかけてみた相手から、「それは当たり前のことですよ」「きまりきったことだから」と、話の幕を引かれれば、当たり前ときめたのは、いったいぜんたい誰なのか、謎は深まるばかりとなったのです。
 あのころのふしぎのひとつをモチーフに、絵本をつくりました。まほうつかいのポポちゃんシリーズ三作目『もうすぐってどのくらい?』(絵 ひだきょうこ/岩崎書店)です。
「もうすぐ」は、その場しのぎにちょうどよい便利な言葉であるけれど、幼いこどもたちにとってはどうでしょう。ふだん耳にはしていても、いまひとつピンとこない、ふしぎな言葉のように思います。
「もうすぐ楽しいことがやってくる」と聞いたなら、「もうすぐ」が具体的にいつなのか、知りたくてたまらないのがこども心。絵本の中の主人公と、その心にそって、楽しみながら書きました。そのじつ、不安もあったのです。幼い読者が納得できる「もうすぐ」のこたえって、あるのかなあ、と。
 さいわいに、主人公は、みずからこたえを見出しました。なんてことない結末です。とはいえ、当たり前ですませずに、「なぜ?」と向きあう人の心には、手探りでつかみ得た、ふしぎのこたえの喜びをわかちあえるものでしょう。
 さて大人になったはずのこの私、ふしぎなこと、わからないことがまだまだいっぱいあるのです。考えだせば不安や迷いもあるけれど、そのさきに、自分なりのこたえを見つけるしあわせが、きっと待っているのだと、いま、仕事部屋の小窓から、亀岡の夏空をぼんやり眺め、思っています。

■京都新聞 2007年8月28日 丹波ワイド版 口丹随想掲載


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