孫が三才になった。
すやすやと眠っている。
そうか、ワタシはこの年に母を失ったのか。
八才、六才、三才。
三人の子どもたちは父の手一つで育てられた。
仕事に出かける父親の後を泣きながら追ったことがある。
あれはなんだったのか、学校の正門から家に引き返したことがある。
参観日に一度も来てもらえなかった。
一度も。
暗くさびしく不安な毎日だった。
姉は中卒で集団就職した。
兄は自力で大学に進み、就職した。
中学の頃、叔母の家に養子に出された。
姉や兄と苗字がちがう。
自分は自分だ! と自分に言い聞かせた。
暗くさびしく不安な毎日だった。
兄の援助で大学に進んだ。
はたちの頃、知り合いに「子宝に恵まれる」と占ってもらった。
気持ちが明るくなった。
研究室の教授から「幸せって死語なんだよ」と聞かされた。
そう言えば、ずっと幸せを感じたことがなった。
「幸せってあるのだろうか」
これが人生の問いになった。
大学を出て、就職し、結婚し、家を建てた。
二人の子宝に恵まれた。
三十半ばで父を見送った。
ずっとやさしい父だった。
ときどき夢に出る。
二人の子は元気に学校に通い、就職し、結婚し、家を建てた。
二人ずつ、四人の孫が生まれた。
「幸せってあるのだろうか」
この問いを片時も忘れなかった。
定年退職する頃、答えが見つかった。
それは家族が笑顔でいることだった!
まわりの人の幸せが自分の幸せだったのだ!
40年もかかった。
むだに遠回りをした気がしたが、これが人生か!
三才の頃の自分に言ってやりたい。
大丈夫だ!
おまえは大丈夫だ!
しっかり自分の道を歩め!
内向きな人生だった。
孫には外向きの人生を送ってほしい。
もうすぐ孫が目を覚ますだろう。
起きたら、ギュッと抱きしめて、
「大丈夫だ! おまえは大丈夫だ! しっかり自分の道を歩め!」
そう言ってやろう。