江國香織の昨年暮れに出たこの本をやっと手にすることが出来た。
2つの催事に、次の仕事を同時進行で進めていてじっくり本を読む時間が全くありませんでした。
「ひとりでカラカサさしていく」は、80代の男女が東京のホテルの一室で、大みそかの夜に猟銃自殺をするという衝撃的な内容です。
男性2人に女性一人、昔の仕事仲間で、精一杯働き、お酒を飲んで過ごした過去を懐かしみ、一緒に命を絶ったのです。
物語は、彼らの遺された家族のそれぞれの状況を事細かに綴られ進む。
私の読後感は「死ぬときは何も持っていく物はないのだ、持っていくものは過ぎた日の思い出だけ」改めてですが、そんな覚悟のような思いでした。
誰もが抱える老いの悲しみ(悲しみなんて無いよと言う人もいるかもしれないが)家族のそれぞれが抱える厄介な日常、それでも若き日の、キラキラした時間は美しい残照のように3人を染める。
「ほしいものも、行きたいところも、会いたい人も、ここにはもうなんにもないのー」
その3人がホテルの窓から最後に見た下界は、コロナにあがく人々の姿か?
江國香織 「ひとリでカラカサさしていく」新潮社
(初出 小説新潮 2020年4月号~2021年7月号)