この数年、鎌倉の不動産屋さんには「手ごろな古民家ありませんか?」と、都心から若いカップルが数多く訪れるという。
木の住居、引き戸、障子、ふすまに土壁・・・。緑豊かな山と海に囲まれた、東京駅から55分というアクセスの鎌倉の人気は衰えを知らない。
実は私も、そんな理由で28年前横浜の港の見えるマンションから越してきた口だ。小体な山の一角の、木造平屋のその家の居間から由比ガ浜の海が見えた。鎌倉駅からも、北鎌倉駅からも徒歩20分という立地は、買い物や、幼子を育てるにはちょっと不便だった。
軟弱な都会暮らしが身についていた私は、鎌倉暮らし1日目から自然の手痛い洗礼を受けることになる。玄関前の落ち葉を竹ぼうきで30分も掃くと、手のひらの皮がぺろりとむけて泣きべそをかいた。
雨戸を開ければとげを刺し、手は日増しにささくれだち、玄関に大きな蛇がのそっと入って時は腰が抜けるほど驚いた。
考えたら、この自然の中に住んでいたみみずく(庭に巣を作っていた!)や、野鳥たちにもさぞかし迷惑な話だったことだろう。
庭木を打つ雨の音、新緑をわたる風,居間から見た花火ー、気が付けば再びあの日の暮らしに強く心惹かれる私がいる。
やがて、山の上のこの静な暮らしは,私の「起業」というアクシデントにより3年で終わりを告げたのです。