http://kousyoublog.jp/?eid=2771 よりメモ
知人の職場(一応業種はぼかしておきます)に、什器備品を破損させたり、作業工程で失敗した場合は従業員が全額弁償という取り決めがある、という話を聞いて、当人にもそれはかくかくしかじかの理由で違法なので、もしもの時には弁護士や労基署に要相談だよ、という話はしたけど、一応簡単に整理しておく。
まず、労働基準法第十六条に『使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。』としっかりと明記してある。もともとは戦前に違約金や損害賠償額を予定する契約を結ぶことで『労働者の足止めや身分的従属の創出に利用』(菅野P140)された例が多く見られたことから規定されたもので、これが明記された就業規則等は無効である。
また、労働基準法第九十一条『就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。』として、減給自体は否定されるものではないが、その額が巨大になると労働者の生活に多大な影響を与える可能性があることから、制裁金の額についても規定されている。
通常一賃金支払期は一ヵ月なので、例えば月給三〇万円だとすると、その金額は三万円を超えてはならず、また一回に平均賃金の一日分の半額、つまり一万円の半額五〇〇〇円を超えて徴収することもできない。
一方で会社が損害賠償を請求する権利は否定されない、つまり会社が従業員に対して違約金を定めたり損害賠償額を予定する契約をすることはできないが、実際に損害が起きたときに従業員に損害賠償を請求することはできる。ただし、その結果は信義則に基づいて判断される。
『すなわち、使用者は、不法行為に基づく損害賠償および求償権の(民715条)行使に際して、「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において」のみ、被用者に対し損害の賠償または求償の請求をすることができる。この判断は、債務不履行(労働義務違反)を理由とする損害賠償請求にも応用されている。責任制限の基準は、(1)労働者の帰着性(故意・過失の有無・程度)、(2)労働者の地位・職務内容・労働条件、(3)損害発生に対する使用者の寄与度(指示内容の適否、保険加入による事故予防・リスク分散の有無等)に求められる。』(菅野P76)
簡単に言うと、まじめに働いている過程で生じたミスや事故による損害賠償の金額が全て一般の従業員に帰せられることはまず認められない。特に、会社の使用者側に当たる上司の指示内容が適切だったかどうか、また会社は損害保険なり、マニュアル作成なり事故を防ぐ対策を行っているはずで、行っていないならば会社の方にこそ責任は多く認められることになる。
もう一度まとめると
・あらかじめ損害賠償の金額や違約金を取り決めるのは違法。
・罰則の金額は給料一ヶ月分の十分の一、一日分の半額まで。
・従業員に対する業務上の損害全額賠償はまず認められない。
こういう取り決めは、会社側としては従業員のミスを防ぐマネジメントの一環として緊張感を持たせるために規定しているのだろうけれど、ある種無知と暗黙の了解で辛うじて保たれているローカルルールでしかなくて、実際にインシデントが起きて問題が表面化したときに、どう転んでも違法な内容なので、むしろ会社に対してより大きな損害を与えることになるだけと思う。
要するに会社から従業員に責任を転嫁することで、使用者側が目の前にあるリスクに目をつぶって、安心した気になっているだけでしかない。リスクを見ないふりするのではなく、最小限にするためにどうするか、を考える方が健全な経営だと思うなぁ。まぁ、安易で違法なマネジメントはリスクを見ない振りすることで始まるという良くある例の一つと考えればいいのかな。
追記(12/3 15:50)
「レジの精算額が合わないときに不足分を従業員が支払うことで弁済するのは?」という疑問がこの記事に対して多く見られたのですが、もちろん上記の理由で違法です。そもそも原因不明の不足分は経理処理上雑損失で計上して、損金処理される、つまり課税対象にならないので、労働法を抜きにしても従業員がそこで穴埋めする必然性も合理的理由もありません。
そのようなレジの弁済という慣行が横行する理由としては第一に個人に責任を帰させることでミスを防いだり、連帯責任感を生じさせるという安易なマネジメント手段として、もう一つは経理担当者や経営陣が「数字が合わないと気持ち悪い」というだけの感情的な理由だと思いますよ。
完璧は達成されにくいからこそ
リスクを軽減させるマネジメントがある
罰則で管理するのは無意味
知人の職場(一応業種はぼかしておきます)に、什器備品を破損させたり、作業工程で失敗した場合は従業員が全額弁償という取り決めがある、という話を聞いて、当人にもそれはかくかくしかじかの理由で違法なので、もしもの時には弁護士や労基署に要相談だよ、という話はしたけど、一応簡単に整理しておく。
まず、労働基準法第十六条に『使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。』としっかりと明記してある。もともとは戦前に違約金や損害賠償額を予定する契約を結ぶことで『労働者の足止めや身分的従属の創出に利用』(菅野P140)された例が多く見られたことから規定されたもので、これが明記された就業規則等は無効である。
また、労働基準法第九十一条『就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。』として、減給自体は否定されるものではないが、その額が巨大になると労働者の生活に多大な影響を与える可能性があることから、制裁金の額についても規定されている。
通常一賃金支払期は一ヵ月なので、例えば月給三〇万円だとすると、その金額は三万円を超えてはならず、また一回に平均賃金の一日分の半額、つまり一万円の半額五〇〇〇円を超えて徴収することもできない。
一方で会社が損害賠償を請求する権利は否定されない、つまり会社が従業員に対して違約金を定めたり損害賠償額を予定する契約をすることはできないが、実際に損害が起きたときに従業員に損害賠償を請求することはできる。ただし、その結果は信義則に基づいて判断される。
『すなわち、使用者は、不法行為に基づく損害賠償および求償権の(民715条)行使に際して、「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において」のみ、被用者に対し損害の賠償または求償の請求をすることができる。この判断は、債務不履行(労働義務違反)を理由とする損害賠償請求にも応用されている。責任制限の基準は、(1)労働者の帰着性(故意・過失の有無・程度)、(2)労働者の地位・職務内容・労働条件、(3)損害発生に対する使用者の寄与度(指示内容の適否、保険加入による事故予防・リスク分散の有無等)に求められる。』(菅野P76)
簡単に言うと、まじめに働いている過程で生じたミスや事故による損害賠償の金額が全て一般の従業員に帰せられることはまず認められない。特に、会社の使用者側に当たる上司の指示内容が適切だったかどうか、また会社は損害保険なり、マニュアル作成なり事故を防ぐ対策を行っているはずで、行っていないならば会社の方にこそ責任は多く認められることになる。
もう一度まとめると
・あらかじめ損害賠償の金額や違約金を取り決めるのは違法。
・罰則の金額は給料一ヶ月分の十分の一、一日分の半額まで。
・従業員に対する業務上の損害全額賠償はまず認められない。
こういう取り決めは、会社側としては従業員のミスを防ぐマネジメントの一環として緊張感を持たせるために規定しているのだろうけれど、ある種無知と暗黙の了解で辛うじて保たれているローカルルールでしかなくて、実際にインシデントが起きて問題が表面化したときに、どう転んでも違法な内容なので、むしろ会社に対してより大きな損害を与えることになるだけと思う。
要するに会社から従業員に責任を転嫁することで、使用者側が目の前にあるリスクに目をつぶって、安心した気になっているだけでしかない。リスクを見ないふりするのではなく、最小限にするためにどうするか、を考える方が健全な経営だと思うなぁ。まぁ、安易で違法なマネジメントはリスクを見ない振りすることで始まるという良くある例の一つと考えればいいのかな。
追記(12/3 15:50)
「レジの精算額が合わないときに不足分を従業員が支払うことで弁済するのは?」という疑問がこの記事に対して多く見られたのですが、もちろん上記の理由で違法です。そもそも原因不明の不足分は経理処理上雑損失で計上して、損金処理される、つまり課税対象にならないので、労働法を抜きにしても従業員がそこで穴埋めする必然性も合理的理由もありません。
そのようなレジの弁済という慣行が横行する理由としては第一に個人に責任を帰させることでミスを防いだり、連帯責任感を生じさせるという安易なマネジメント手段として、もう一つは経理担当者や経営陣が「数字が合わないと気持ち悪い」というだけの感情的な理由だと思いますよ。
完璧は達成されにくいからこそ
リスクを軽減させるマネジメントがある
罰則で管理するのは無意味