持ち運びが重かったけど、だんだんハマって、最後は仕事行くのが嫌になるほど夢中になりましたf(^_^;
朱川湊人著
「冥の水底」
なんで朱川さんの小説を読むと、毎回なんだか切ない気持ちになるんでしょう。
あまり内容には関係ありませんが、ふと思ったこと。↓
小説だから、いい人も悪い人も出てきますが、朱川さんの話って悪い人にもちゃんと理由があって悪い人に思えなくなる、なんだか優しさに溢れている気がします。
でも決して、正直に真面目に生きるいい人が、幸せになれるわけではない…今回はまさにそんな話のように思いました。
朱川さんのお話は、ちょっと現実離れした設定があるのも魅力です。
ストーリーは複雑。
現代の場面と手紙によって語られる場面とで、時間を越えたスケールの大きなお話になってます。
現代の医師市川が息子(実は自分の子ではない)と、謎の生物「マガチ」の謎を探りながら事件に巻き込まれるミステリーと、「マガチ」であるシズクが初恋の女性麻弥子を追って東京に来て、彼女への思いや報告を出せない手紙に綴る、ちょっとレトロ感漂う物語の2本立てを読んでいる感じですが、次第にその関連が明らかになっていくのです。
ちなみにマガチとは、東北の山奥に住む、「山の気」を持った人々のことで、彼らは獣人などに姿を変えることができるのです。
そのため、人間とは隔絶してひっそりと暮らしてきましたが、時代の変化によって人間社会ともまじわることにより、差別や色々な苦しみが生まれてきます。
どうして「人」と違うのか。
「マガチ」として生まれてきて、「今回の人生は失敗」という言葉が何度かでてくるのですが、それがなんか重かったです。
何をやってもうまくいかない、良いことが続くと次には悪いことがある、悪いことが二度起これば、次にはもっと悪いことが起こるから気を付けろ…そんなことを聞かされて育つなんて、本当に重荷を背負って生きているようなもので、それだけで苦しいです。
「マガチ」という存在の悲しさが、シズクという雪の「気」をもつマガチによって切実に伝わりました。
初恋の人間の女性をずっと思い続け、そのために数奇な運命をたどることになるのですから。
シズクの手紙は、つねに麻弥子を気遣いながら、理不尽な世の中へ不満を言うのではなく、それを素直に不思議に思う、素晴らしく純粋なシズクの性質がよく現れています。
話が進むにつれ、重大なことが語られ、シズクが変化を遂げていくことに、読んでいて苦しくなることもありました。
全体を通して、人間社会の夫婦のあり方や、親の気持ち、犯罪、なんか色々な「悲しさ」を凝縮している気がしました。
さらに、シズクが「雪の気」を持つことから、それをきれいにはかなく象徴させていると思いました。
力を使いすぎて、「人」でいることができなくなっていくシズクの力が溢れて部屋に雪を降らせるところなんか、雪が涙に思えます…。
スリリングなシーンもかなりあって、市川が見えない敵と戦い続けるのは、ホラー小説を読んでいる気分になる場面も…。
最後にシズクの真実にたどり着くのですが、市川の敵と思えた者たちも、結局はシズクを守るための「マガチ」であり、その人々さえ、最後のシーンは痛々しかったです。
誰も幸せになれない終わり方なので、余計に余韻が残りました。