画家のルソー(Henri Julien Félix Rousseau)は特別に絵を学んだ経験もなく、いわばアマチュアとして絵を描いてきた人だ。
死後その評価は高まるが、年金生活の中で書き続けるにはあまりにも収入が不足した。
そんな彼をひそかに応援したのがロートレック、ゴーギャン、ピカソ等である。お世辞にもうまいとは言えない彼の絵だが、人々は彼の絵の中に、静かな優しさや、誠実な彼の人柄や、懸命に生きた彼の人生が反映していることを感じ取る。
物は言いようでそんな彼は「素朴派」といわれる。
ぼくは直方の谷尾美術館に行き、いまや日本を代表する画家となった植木好正画伯から面白い話を聞いた。
40年前、まだ一介の画家だった彼から一枚の絵をかいてもらったことがある。Rousseau(ルソー)とはジャンルの違う絵だがタッチには不思議と共通性を感じる。ンなもんだから彼と話すうちなんだか彼とルソーがダブってきた。
世事に疎く、すぐ人を信用する。物事に素直に感動し、詐欺師にとっては絶好のカモのはずだ。ところが画壇とは、奸計、権謀術数が渦巻く世界なのだ。絵の世界も悪人に満ちている。
ただあまりにもおおらかで自分を飾らず無防備な人に会うと、こちらもいつの間にか浄化され神経をピリピリさせて生きる自分が恥ずかしくなる時がある。
ルソーの絵から人々はそんな心の浄化作用を感じていると思う。
ところが、そんなルソーを茶化し笑いものにしサンドバッグにしていたのがピカソだ。友達とか援助者とか理解者のふりをして接近したのだからたちが悪い。
世の中からは当時全く評価されないルソー。それどころか蔑視さえ受けていた彼にやさしく接近し、自分の使い古したり書き損じたりしたキャンバスをルソーに援助したのがピカソである。
あのピカソから援助を受けたことをルソーは素直に喜び周囲に言わずにはおれなかった。私にあのピカソ、あの世界最高の画家ピカソが目をかけてくれたのだと。
ピカソは計算高い。まるで公園のハトに餌をやるように自分にすがってくるルソーを楽しんでいたのだ。ピカソは友人とともに彼をバカにし面白がった。
下手が画家になったつもりで吹聴しているぞ。そういって無邪気に喜ぶルソーを面白がった。