本邦初公開
彼岸は春分・秋分の日を中日として、前後三日を会わせた七日間をいう。この間は彼岸会といって仏事が催される。仏教で煩悩を脱して、悟りの境地に達することをいっている。この世を此岸(こがん)としたときに、煩悩の川の流れを超越した向こう岸のことを彼岸というので、死の世界をイメージする言葉であるため、彼岸花は死花、死人花、地獄花、幽霊花などと呼ばれている。墓地に咲くことも多いためか、意識して植えられたのかは定かでないが、一説に、土葬された死体を掘り返す野犬や、小動物に対し、鱗茎に持つ毒性分で動物を寄りつかせないため植えられたとする説がある。モグラは植物性の鱗茎を食することはないが、餌となるミミズは鱗茎部の毒性のため、近寄らない。したがって、モグラの被害からもあぜ道などの崩壊を防ぐようである。
一方、赤い花、天上の花、の意味もあり、めでたい兆しとの解釈もある。マンジュシャゲは彼岸花の異称であるが、法華経などの仏典に由来していて、サンスクリット語である。花と葉は同時に出ないため、葉見ず、花見ずといわれ、葉は花を思い、花は葉を思うという意味で、相思花(華)という乙な名前で呼ばれることがある。今回ブログでヒガンバナの写真を掲載したところ、同様なご指摘をコメントでいただいた。花と葉とが、別々に育成するので、植物としての関連性を不思議に思われたらしい。上述したことを参考までにお教えしたところである。
彼岸花の鱗茎(球根)にはアルカロイドを多く含んでいることが知られている。有毒性で、リコリン、ガランタミン、セキサニン、ホモリコリンなどである。この鱗茎を経口摂取すると、吐き気や下痢を起こし、ひどい場合には中枢神経を麻痺させて死に至る。有毒成分のリコリンは水溶性なので、長時間水にさらせば無毒化できる。その意味では、鱗茎部にはでんぷんを含むため、救飢植物として、戦時中の食糧難の時代に食料とされた。また、近年において、ガランタミンはアルツハイマー病の治療薬として利用されている。
花の種類は赤と黄みを帯びた白色がある。ナツズイセンと同じ属であるため、近縁種同士の交雑によって白色が生まれたようである。