Light in June

文学やアニメ、毎日の生活についての日記。

悲しい話

2010-08-08 22:51:07 | 文学
ぼくは悲しい話というのが案外好きなのだと思う。
胸が締め付けられるような、切なくなる、哀しみと悲しみに満ちた物語。茫漠とした荒野を一人歩かされているような、ぞわぞわしてくる感情を必死にこらえなくてはならないような物語。

村上春樹の『蛍』という短編は、長編『ノルウェイの森』の基となった作品なのだけれど、この『蛍』がまさしく悲しい話なのです。空虚な悲しみ。自分から一つ一つ何かが失われていくような、喪失感という名前で呼ばれるところの感覚を胸に刻みつけてゆく、鋭い、それでいてとてつもない大きさでぼくを包みこんでしまうような小説。ユーモアもあるし、文章はしゃれている。でもそれがかえって寂しい。

確かに、蛍というモチーフはありふれているし、その使用はいささか安易で、陳腐とさえ言えるかもしれない。けれども、それを補ってあまりあるこの寂寥感と喪失感と茫漠とした不安と悲しみ。この空っぽの哀しみは何なんだろう。これほどの孤独、これほどの痛み。絶望することすらできない、というのは初めから希望なんて抱いてなかったからなんだけど、その空虚はどうだろう。

ちょっと感傷的になってしまうなあ。透き通った哀しみか。その点で大衆受けするのかもしれない。でも、これほどの空虚を受け入れられる読者はそう多くないだろう。

一方で、ぼくは底抜けに愉快な話も好き。『サマーウォーズ』は楽しかった。金曜ロードショーではカットされてた場面が著しく多かったけれども、でもおもしろかった。

もっともっとたくさんの本や映画に接して、自分の感情がどんなふうにそのありようを変えていくのか見てみたい。どうか、いつまでも何かにときめいていられますように。

余談。シクロフスキーのごく短い論文を読む。何書いてんのかさっぱり分からねえや。内容のまとめを読んでから読んでいるのに、該当箇所が見当たりやしねえ。辞書の調べ方が悪いのか、それとも・・・