悪魔が来りて笛を吹く
読みました。
素晴らしいっ!!
す…好きです。付き合ってください!←本に告白かよ
横溝正史作を立て続けに読んでいると
だんだん世間で言われるような
当たり外れがある…と言うのがわかってきます。
「八ツ墓村」も、とても良かったです
岡山の田舎の大きな旧家や双子の老婆の居る描写がミステリアスで
より幻想的な描かれ方をして…。
こちら、「悪魔が来りて笛を吹く」は最初の舞台は東京。斜陽族…戦後間もない昭和22年
貴族階級の廃止となるその前直後辺りがストーリーの始まりとなり
伯爵、子爵と言った身分の人々が織りなす物語。
没落貴族ってやつですね。
子供ながらに裕福なバブル時代とその崩壊の痛手をよーっく身を以て経験した私、なんとなくわかります。←違うだろ
(あ、でもウチも没落貴族ですよ!
財産こそうまく残したものの、私の祖父がものすごい浪費ぶりで、実質そこで全て終わった感じです)
華やかさと翳りのあるこの世界観がとても良かった。そしてフルートの曲が文章からは聞き取れない、これが気になってい仕方がなかった。
東京と、もう一つの舞台が
兵庫、淡路方面に出向いている。
淡路島のあたりに大きな橋がかかっているけれど、当然戦後のあの頃はその橋がないので
船で渡る描写などが見られた。
これも今の時代の人間には新鮮味があり良い、
物語は
この没落上流階級の家系に起こる連続殺人事件。
複雑な因果関係。
銀座の天銀堂(宝石店の名前。とても平成を生きる我々からはビックリするネーミングだがこれが昭和22年では当たり前とされたのだろう)
椿元子爵の失踪、そして自殺
悪魔が来りて笛を吹く
椿元子爵の屋敷に住む
椿元子爵の妻あきこ(どこか変な愛欲に溺れる美女)
一人娘の 美禰子(19歳)
椿家の屋敷は戦災を免れている
ここで焼け出された
あきこの兄一家、あきこの叔父である伯爵と妾の菊江と言う美女
これらが集まって暮らしている
自殺した…と思われる椿子爵が実は生きていて笛を吹き復讐に舞い戻ってきたかのような描写が
なんともダークファンタジーで良い。
主人公は金田一耕介。
でも他にヒロイン級、メインに描かれるとすれば美禰子。
19歳のこの元子爵令嬢だが
私が読んできた横溝作品のヒロイン格としてはかなり珍しいタイプの女性。
他作品のヒロインやその他の女性は
絶世の美女や…とにかく絶世とは行かなくても美女が多い。
ヒロインともなれば絶対。
しかしこの物語のヒロイン
元子爵令嬢と申し分のない身分だった19歳の美禰子は、ななんと!!
不美人なのだ!!!
イカツイらしい。19歳の少女が!子爵令嬢が!
その母親は横溝作品の定番と言える妖艶な美女。
また美禰子の母の叔父さんに当たる伯爵の若い愛人、菊江も美人。
召使いポジションの女性さえ美禰子よりは容姿がいいと。
そんな美しくない19歳の令嬢がヒロイン格という前代未聞の横溝作品(わたしが読んできた中では)
しかし、美禰子、強いっ!!!
強すぎる!!!
芯の強い美女ヒロインは今までにも登場している。が、彼女らは良い男性が現れ守られたり…やはりお姫様格なのだ。
王子様に守ってもらえるのだ。
しかし、美禰子には何もない。
親戚の母の叔父や母の兄などの家族に乗っ取られるように敷地内に住まれ
優しかった父は自殺し
母は色狂い(定番)
貴族階級も戦後、GHQにより剥奪。
そして起こる殺人事件…傲慢な親戚…
彼女の顔の美しくないと言う描写が沢山出てくるが
私は内面から、芯から強く美しいと思った美禰子。
言葉使いから元子爵令嬢としての誇りと気高さ、そして不安に押しつぶされそうなこの連続殺人事件の中で気を強く持とうとする意志の強さ。
本当に素敵っ!!!
彼女の気持ちは本当に押しつぶされそうだったと思う。
その連続殺人事件に見え隠れする父の影。
父の作曲し演奏したフルート、「悪魔が来りて笛を吹く」が流れ、父によく似た姿が度々目撃され、美禰子自身もそれを見ている。
どんな気持ちだっただろう…。
最後はさらなる追い討ちのように周りの命が奪われていくが、彼女を守ってくれる者は居ない。
それでもイトコや叔母を励まし、強く生きようとする心。
彼女自身が男の様に強かった。
一方で金田一耕助、こちらはこの作品では最初から出てくるのでファンも楽しめると思う。
東京と神戸やらの方で事件が起きるため
等々力警部と磯川警部とで両方出てくるのだ。
いっぺんに出られるとどっちがどっちだか混乱してくる
いつもは片方に偏ってるのにぃっ!!
なんて思いながら読んだものだが
やはり横溝正史最高傑作と言われるだけの作品だ。
八ツ墓村もまた同じ。
悪魔の手毬唄はDVDでしか見てないけれどあの作品も大変良かった!