おはなしきっき堂

引越ししてきました。
お話を中心にのせてます。

プレゼント

2008年09月25日 | ショート・ショート
暗くて寒い所から旅立とうとしている「小さき者」達に「光」は聞いた。

「さて、これから旅立つお前達に何かひとつプレゼントをしよう。なにがよいか?」



「私はきれいな声がほしい」

「私は早く走れる足がほしい」

「私は何もかもが理解できる頭がほしい」

「私はきれいな絵を描く腕がほしい」



皆、思い思いの願いを言った。

最後の一番「小さき者」の番がやってきた。

「私は・・・私は・・・私が温かくなれる心がほしい」

その言葉を聞いたほかの「小さき者」達も口々に言った。
「私も!」「私も!」「私も!」「私も!」「私も!」

何故ならそこは暗くて寒いところだったから。

「光」は言った。

「大丈夫、お行きなさい。あそこにあなた達が望んでいる場所がある。あなた達を愛して温かくしてくれる場所が!」

そう言って「光」は「小さき者」達を押し出した。
「小さき者」達は安心して旅立った。

そしてその行き着いた場所はとても温かで幸せな場所だった。
「小さき者」達は思う。
なんて幸せなんだろう・・・と。
フワフワと漂う中思う。

「私を温かにしてくれてありがとう。そして・・・アナタが大好きです。そして私を守ってください」と。

この温かな場所がいつまでも続かない事を「小さき者」達は知っている。
でも、この温かな場所を与えてくれる存在が自分を守ってくれる事を知っている。

「アナタを愛してます。そして私を愛してください」

そうつぶやき「小さな者」達はフワフワとまどろんだ。


*****************************************

どっかで読んだような話だと思ってもご容赦下さい。

なんとなく書きたくなって。

自分の子供の愛し方がわからない方。
呪文を唱えてください。

「○○ちゃんの事がお母さんは大好きよ」

何回も何回も言ってください。

それは子供達にはもちろん親にも効く呪文です。

抱きしめてあげて下さい。
でも、それが出来ないときは上の呪文を唱えてください。

スベスベのほほを見て涙が出るときがありませんか?
すっぱい匂いのする頭をクシャクシャってするときありませんか?
べとべとの手をぷにゅぷにゅする時ありませんか?

そして愛おしくて訳もわからず泣きそうになる時ありませんか?

子供達は愛されるために生まれてきてます。
もちろん私達、親もです。

だけど、心が一杯でどうしても無理なときは・・・
呪文を唱えるのです。
「大好き」「愛している」と。

そして・・・自分の事も愛してあげましょう。
自分達も愛される事を欲して生まれてきているのですから。



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助けに来たよ

2008年09月18日 | ショート・ショート
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今日はおじいちゃんのお葬式だった。
おじいちゃんは僕のお母さんのお父さんでお母さんはボロボロと大粒の涙を流して泣いていた。
もう立ち上がる気力もないおばあちゃんを支えて必死で頑張って立っているお母さんが可哀相で、そして僕も大好きだったおじいちゃんが死んでしまったのが信じられなくて大声で泣いた。

「おじいちゃんはね、息子がほしかったんだよ」

と言っておじいちゃんは良く僕の頭をクシャクシャと撫ぜた。
お母さんは叔母ちゃんとの2人姉妹だ。
お母さんの妹の叔母ちゃんは
「お父さんは私達の頼みはあまり聞かなかったのに和樹(僕の名前だよ)の言うことならなんでも聞くのね」とよく言っていた。
その度におじいちゃんは
「和樹が一番かわいいから仕方ないだろ」
と満面の笑顔を見せ僕の頭をクシャクシャとした。

僕はおじいちゃんの事が大好きだった。
それなのに・・・ある日、持病の喘息の発作がトイレで起きて、そのまま息が出来なくなりおじいちゃんは倒れてしまった。
おばあちゃんが一人でいた為、救急車を呼ぶことしか出来ず、救急車が来たときにはもうおじいちゃんは・・・。
おばあちゃんの取り乱しようは大変だった。お母さんは必死でおばあちゃんを慰め自分は涙をこらえていた。
でも、そんな頑張りもおじいちゃんとの最後の別れの時までは持たなかった。
お母さんは大声で
「お父さん、お父さん!」と言って泣いていた。
僕はもう3年生なのだからお母さんを支えなくっちゃと思ったが一緒に
「おじいちゃん、おじいちゃん!」と言って泣いてしまった。
男の子は僕一人だと思っても涙が後から後から出てくる。
本来ならもう一人いる男の子の僕のお父さんはその場にいなかった。

「どうしても仕事が・・・すまない」と言って出席しなかった。

そして、その時からお母さんとお父さんの仲は険悪になった。

二人とも本当は仲良しだったのにどうしてしまったんだろう。
僕は毎日が悲しかった。

おじいちゃんが亡くなってから数週間たった時のことだった。
僕はもう9時ごろにはまぶたが半分閉じかけていた。
仕事でいつも深夜に帰ってくるお父さんを待つお母さんの事が気になったが
「和樹、そこで寝ないでちゃんとお布団に入って寝なさい」
と言うお母さんの言葉にしたがい、布団にもぐった。
すぐに眠りについた。

そして・・・夢を見た。

「和樹、和樹!」

この声は!おじいちゃんだ!

僕は夢の中で顔を上げた。
「おじいちゃん!」

おじいちゃんは白いもやのかかった中でニコニコ笑いながら僕の頭を撫ぜた。
クシャクシャっとね。

「和樹を助けに来たよ」
おじいちゃんはそう言ってもう一回僕の頭を撫ぜた。

「ありがとう!おじいちゃん!僕そういえば困ってるんだ。明日出す宿題がまだ出来てないんだ!手伝ってくれるの?」

おじいちゃんは頭を横に振った。

「明日ね、1階の押入れにある小さい引き出しの上から3番目を開けて、その中の写真を寝る前に玄関におくんだ。出来るかな?」

僕はなぜそれが僕を助けるのかよくわからなかったが
「出来るよ!」と言った。

おじいちゃんは頷いて
「頑張れ!」と言って僕の頭をクシャクシャして白いもやの中に消えていった。

翌朝、目が覚めた時おじいちゃんが言った事ははっきり覚えていた。
学校から帰るとお母さんの隙を狙い、押入れの引き出しを開けた。
数枚の写真が出てきた。
すごい若い頃のお母さんとお父さんだ。
僕はその一枚を抜き取って、玄関に寝る前においておいた。

そして・・・その日の夢にもおじいちゃんは出てきた。

「僕ちゃんと出来たよ」とおじいちゃんに言うとおじいちゃんはニコニコ笑って

「よし!それじゃあ、次の指令だ」
と言って今度は僕にコスモスを摘んでくるように言った。
僕のうちの近くには空き地があって誰が植えたのかわからないけど、コスモスが咲いている。
勝手に種が飛んではえているので誰が摘んでも怒られない。

僕は頷いた。

そして、次の日。
僕は空き地でコスモスを摘んだ。
そしておじいちゃんに言われたように、寝る前まで隠して置いて、こっそりとインスタントコーヒーの空き瓶に入れて玄関に置いた。

これで僕に何が起きるのか?僕はワクワクドキドキしながら毎日眠りについた。

おじいちゃんは毎日、夢に出てきて僕に妙な指令を出した。
ハンカチを置いておけだの。ビー玉を置いておけだの。僕の赤ちゃんの頃のおもちゃを置けというのあった。

そんなある日のこと・・・珍しく僕が起きている時間にお父さんが帰ってきた。

「会社が倒産した」と青ざめた顔でお父さんは項垂れて言った。

倒産って、何?って言おうとしたら一瞬固まってたお母さんが顔をスパッと上げて言った。

「大丈夫。家族でがんばって行きましょう。こんな時は家族が力を合わせないとどうするの!」
と涙を流しながら言った。

「ありがとう」
そう言うお父さんの目にも涙が流れていた。

それから後は僕は話が半分ほどよくわからなかったけど、お父さんは会社は倒産になったけど、以前から会社に出入りしていた業者の人に「うちに来ないか?」と言ってもらえたそうだ。
だから、お給料は減るけど当面の生活は大丈夫だと。

それから、もっと二人は驚く話をした。
僕が置いた、写真や花は忘れていた二人の思い出の物だったそうだ。お互いが「思い出してもう一度頑張りましょう」と言う意味でさりげなく玄関に置いていたと思っていたらしい。
コスモスは若い頃お金のなかったお父さんがあの空き地で一杯摘んで来てお母さんにプロポーズしたんだって。
お父さんもお母さんもそれを見て若い頃の気持ちを思い出したそうだ。
二人は僕の顔をまじまじと見た。

「僕じゃないよ。僕がそんな事を知ってるわけないよ」

そういうと僕はもう眠たくなって自分の部屋に引っ込んだ。
そうだよ、僕じゃないんだ。おじいちゃんなんだ。

その日の夢にもおじいちゃんが出て来た。

僕の頭をクシャクシャってするとこう言った。
「もう、大丈夫だな。それじゃあ、おじいちゃんは行くとしようか」

「どこへ?おじいちゃん行かないでよ!」
と僕が言うと
「なあに、またいつか会えるさ」
そう言うとおじいちゃんはウィンクをして消えようとした。

「おじいちゃん!僕まだ何も助けてもらってないよ!」
僕は叫んだけど、おじいちゃんは靄の中に溶けて言った。

僕は悲しくって目が覚めた。
お茶を飲もうと下へ降りていくとお母さんが話す声が聞こえてきた。
こっそり聞いたその内容はこうだった。
お母さんはおじいちゃんのお葬式にも出なかったお父さんを恨んでいたと。
毎晩、遅くに帰ってきて家族の事もかえり見ないお父さんが嫌いになりかけていたと。
だから、僕と一緒にこの家を出て行こうとしていたと。

・・・すっごいピンチだったんだ、僕。ここを出て行ったら友達のゆう君とももう遊べないじゃないか!
そして何よりお父さんに会えない・・・

お父さんは会社が倒産しそうで毎日遅くまで走り回って頑張っていた。
毎日、毎日。でも、僕が置いた物を見て「家族がいる事」を思い出したんだって。
だから、最後まで頑張れたと。

お母さんも、あの品物を見て若い頃を思い出したそうだ。
そしてもう一度頑張ってみようという気になったとお父さんに言っていた。

めでたし、めでたしだなぁと思って階段を降り僕は目を擦りながら

「お茶!」と言った。

二人は僕を見て笑った。

お茶を飲んでもう一度布団に入って僕は思った。
やっぱりおじいちゃんは僕を助けに来たんだ。
いや、もしかするとお母さんを助けに来たのかもしれない。

そう思いながら僕はすぐに眠ってしまった。
誰かが頭をクシャクシャって撫ぜた感じがしたけど、・・・もう今度は夢をみなかった。


**************<あとがき>****************

この話は私に起こったことを元に書きました。
父が喘息の発作で倒れて脳死状態になり、本当に体の全機能が止まってしまう前日に祖父が、父を「迎えに来た」と言う夢を見たこと。
夢枕って言うのかな枕元にもうかなり前に亡くなった祖父がいつも被っていたよそ行きの帽子を被り座っていたんですよね。
「おじいちゃん、お父さんを助けて!そっちからポンと背中を押せば戻ってこられるでしょ」
と夢で私が言ったら祖父が黙って首を振ったんです。
今日か・・・今日か・・・と思っていた私が無意識のうちに見た夢。
翌日、父は完全に心臓が止まってしまいました。

それと、うちの大魔王が遊び歩いて家の事を顧みなくなった時、今度は夢に父が出てきて私が「なんとかして、お父さん!大魔王に罰を当ててよ!」と言ったら父が
「任せとけ!」と。

数週間後、大魔王がどえらい目に会いました。
ただ、人を呪わば穴二つで大魔王が天罰のせいで家族が大変な目にあいました。

ただ・・・大魔王はそのせいで家族の元に帰ってきました。
この天罰がなかったら多分私達は離婚していたと思います。

やはり父は私の為に何かをしてくれた・・・と思いたい私です。

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落とし穴

2008年09月13日 | ショート・ショート
道を進もうとしたら、ぽっかり黒い穴が開いている。
覗いてみるとかなり深そうでどこまでも落ちていきそうな穴だ。
そこを通らないとなると少し遠回りしなければならない。

立ち止まって考えていると後から人が来て僕を追い抜かしていった。
その穴に足がかかる。

「!」

なんとその人はまるで地面があるように穴の上を歩いていった。
後からたくさんの人が来てその穴の上を歩いていく。

なんだ、大丈夫なのか・・・。
巧妙に何か細工がしてあるだけかもしれない。

僕はそう思い、穴に向かって一歩を踏み出した・・・。

「うわーーーーっ!」

僕の足はその穴に吸い込まれるように落ちていった!
下に下に落ちる・・・。
「助けてくれーーーーっ!」

ドサッ!ドン!

痛い!
・・・僕はベットから落ちていた。
夢だったのか・・・。
それにしてあの落ちる感覚は結構リアルで今でもドキドキする。

時計を見ると8時前だった。
やばい!遅刻になる!
僕は急いで着替えネクタイを締めて顔を洗うのもそこそこに家を飛び出した。

会社には遅刻寸前で着いた。
今日は大きな商談がある。
努力した結果やっと今日まとまりそうなのである。
僕は急いで用意したため曲がったままのネクタイを締めなおし、資料を出そうとパソコンを開いた。



なんとデータが消えている。
落ち着け・・・データーのバックアップの為にUSBメモリーに入れて置いたはずだ。
だが、机の中を必死で探すが見つからない。
どうしよう時間が・・・焦りばかりつのる。

「どうしたんだ?」同僚のが近づいてきた。
「いや、今日の資料が消えててバックアップにとったメモリーもないんだ」
「俺も探してやるよ」とは一緒に探し始めてくれた。
「ありがとう」と僕はFに礼を言おうとFの方を向いた。

すると、の胸の辺りに黒い穴が見えた。
昨日の夢で見たような穴だ。
なんだか嫌な感じがした。

僕はが僕の机の辺りをかがんで探している隙にの机の引き出しを探した。
あった・・・。
僕が同僚の机から取り上げるとが青い顔をして後に立っていた。
「勝手に人の机を開けるなよ」
そう言うとは去っていった。
幸いにもデーターは暗号がかけてあるため消えてなく、その日の商談に間に合った。

2~3日しては会社を辞めていった。人づてに聞くとどうやらかなり僕の事をねたんでいたようだ。
妬むより自分も努力をすればいいのに・・・。。

それにしてもの胸の辺りに見えたあの黒い穴は・・・。

それから僕は度々、その穴を見ることになった。
商談先の人の足元に見えたこともある。「いい話なのに」と上司からは散々言われたが断ると、その会社がすぐに倒産した。
街に出ると若い綺麗な女の子の口の横に見えるときもあった。
「すいません、少しだけいいですか?」と声をかけられるも相手にしないで通り過ぎると、気の弱そうな男性に声をかけて「そこのビルに宝石店があって入りたいんだけど、一人で入る勇気がないので一緒に行ってもらえますか?」と言ってドギマギしている男性の手を引いて連れて行ってしまった。
あれはデート商法と言う詐欺なのか?

どうやら、僕は僕限定の「落とし穴」が見えるようになったらしい。
他の同僚などが危ない商談をしていてもそれは見えないが、いざ自分の担当になると見える。
うまくそれを利用し僕は着々と成績を上げていった。

ある日の事。僕は専務に呼ばれた。
こんな上の人に呼ばれることはめったにないので緊張して行くとにこやかな顔をした専務が言った。
「君に実はお願いがあってね」

話の内容はこうだった。
専務のお嬢さんが最近、会社に来たときに僕を見かけなんと一目ぼれをしたという。是非、紹介して欲しいとせがまれたので一度あってもらえないか?と。
専務としても僕が最近、メキメキと実力を発揮した有望な若者なので娘と付き合うのは願ってもない事だという。

あまりにもうまい話で僕は専務と専務の周りに落とし穴がないかと目を凝らしてみた。
でも、何もなかった。
あるのはにこやかに笑っている専務だけだ。
もしかするととんでもない不細工なんじゃないか・・・と思いながら僕はとりあえず承知した。

そしてお見合いの当日。
僕は驚いた。専務の娘はかなり綺麗でかなり僕の好みだった。たぬきみたいな顔の専務だが奥様が綺麗な人で幸いな事にそちらに似たらしい。
恥かしげにまぶたを伏せうつむく姿に僕は一目ぼれしてしまった。
と言うことは相思相愛・・・僕の胸は高鳴った。
何か話そうと彼女をふと見ると彼女の胸の辺りにあの「黒い落とし穴」が見えた。

なんと言うことだ!彼女が僕を陥れようとしているのか!

「後は若い二人で」と何かのドラマに出てきそうなお決まりの文句を言われ、僕は彼女と二人になった。

・・・・・・

少しの沈黙の後、僕は口を開いた。
「僕のどこが気に入ったんでしょう?多分、違いますね。話してくれますか?」

すると彼女はポロポロと涙を流して話し出した。
実は以前から彼女には付き合っている男性がいる。その男は売れないミュージシャンで専務が付き合いを反対していると。
そして無理やり別れさせ専務の気に入る人と結婚させられようとしたので、そのミュージシャンとは一旦別れたように見せかけるために僕と見合いをしたらしい。
たまたま会社に来たときに僕が通りかかり「この人ならなんだか後で断っても許してくれそう」だという印象を受けたと言った。
なんとも、プライドを傷つける事を言うものだと苦笑しながらも僕は涙を流し続ける彼女の姿から目が放せないでいた。

彼女の恋愛を成就させるため、僕はしばらくの間、隠れ蓑になる事を承知した。
そして、彼女を傷つけないために1ヵ月後に僕から断るということにした。
交換条件として、彼女はかなりの金額を提示した。
僕は本当はお金などほしくなかったが承知した。
まったく深い落とし穴に落ちたものだ。
・・・ただ、それぐらい彼女は魅力的だった。
断った後の会社の対応はどうなんだろうとかなりの不安はあったが、なんとかなるさとさえ思った。

それから僕達は週に1~2度のデートをした。
ただ、僕が車で迎えに行き彼女をミュージシャンの所まで連れて行くのだ。
とんだピエロのようだが、僕は彼女の顔を見れれば幸せだった。
行き帰りの車の中で彼女の話を聞きく・・・それだけで。
そのミュージシャンと駆け落ちをする計画を彼女はたてていた。
「今日、その話をしに行くわ!」送り迎えを始めて一ヶ月たったとき彼女は言った。
これで僕の役目も終るだろう。

送っていった後、すぐに彼女から携帯に電話がなった。
「迎えに来て欲しいの。すぐに」涙声で・・・。

僕は彼女の指定した場所に行った。
泣きじゃくりながら彼女が駆けて来た。
そして僕の胸に顔をうずめて延々と泣いた。

落ち着いた後、事情を聞いた。

彼女が何もかもを投げ出してあなたの元へ・・・と言った後、そのミュージシャンの男は急に怒り出したらしい。
「君は君の家があっての君なんだ。財産がない君となんか付き合えない」と。
どうやら奴は彼女の家の財産を狙っていたらしい。

今時、流行らない格好悪い話だな・・・と僕はため息をついた。
彼女の「駆け落ち」の話もなんだかレトロ感がある。
それにきっとそのミュージシャンは一生売れないミュージシャンのままだろうな。そんな財産目当てのミュージシャンなんて格好悪すぎだ。

僕がぼんやり考えていると涙で腫れた目の彼女が顔を上げた。
「でも・・・悔しいからこんなに泣いたけど、本当は心の中では少しほっとしてるの・・・だって、私・・・」

見上げた彼女の目の中にハートの黒い穴が見えた。

ふと見るとこの1ヶ月あった胸の黒い穴はふさがっている。
ふさがる事もあるんだ・・・と思った。
でもこのハートの落とし穴ははまってもいいんだろうか?
僕の心が少し警告したが、僕の腕は心に反して彼女を強く抱きしめていた。

・・・そして今日も一人の若者が落とし穴に落ちていった。





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白昼夢

2008年09月07日 | ショート・ショート
ある日曜日、あたしは恋人のタカシと繁華街をあるいていた。

タカシと暮らし始めて1年・・・。
タカシは小説家を目指していて今はアルバイトで生活を繋ぐ日々だ。
あたしの一人暮らしをしているアパートにタカシは転がり込んできた。
あたし自身はある会社に勤めているが、給料なんて高くない。
タカシと二人の生活はタカシが小説を書いているときは収入が激減してしまい、あたしの給料だけになる。
家賃と光熱費、そして二人分の食費を引いたらあたしの給料なんてほとんど無くなってしまう。
化粧品も満足に買えなく、同期の女の子と一緒に昼休みにトイレで化粧直しをするのも恥ずかしい。
半年間はそれでも幸せだった。
タカシの才能を信じ、タカシの言う難しい言葉に酔っていた。

でも・・・最近・・・。

考え事をしながら歩いていたら急に目の前が暗くなった。顔を上げると一人のおばさんが目の前に立ちふさがっていた。
なんだろう。

「あなた!その男と結婚したら駄目よ!」

私はびっくりして目の前が暗くなった・・・。

 ************************************************************************************

・・・・。目が覚めた。
どうやら夢を見ていたようだ。
もうじき出勤時間だ。
若い頃の夢。
タカシと歩いていたら、目の前におばさんが立って「その男と結婚したら駄目よ!」って言われたんだっけ。
今になったらその忠告を聞いておけばよかったと思う。
あれからあたしはタカシと結婚をした。
相変わらずタカシは小説家を目指し、あたしはそれを支える日々だ。
もう、あの時から20年もたってしまった。
子供も出来ず・・・と言うより経済的に産めなかった。
タカシは結婚してからますます働かなくなり飲んで家でゴロゴロする事が多くなった。
あたしは彼を支えるためにずっと同じ会社で働いている。
局と呼ばれ、影では「あのおばさん、早く辞めたらいいのに」と言われ。

早く、会社に行かなくっちゃ・・・。
顔を洗い、化粧をしようとふと自分の顔を良く見るとそこには若い頃私に叫んだあのおばさんの顔があった。
しわだらけになり、目の下にクマが出来ている。髪の毛はボサボサだ。
あの忠告をするのは【あたし】だったのか!
苦労をしすぎて変わり果てた自分の顔だと気がつかなかった。

どこかで昔の私のすれ違う瞬間があるのか!それなら、今度こそ!今度こそ。

あたしは化粧もせず、家を飛び出した。

玄関をあけるとあの時の通りに繋がっていた。
目の前を若いカップルが歩いてきた。あれだ!
今度こそ!今度こそ!

「あなた!その男と結婚したら駄目よ!」

あたしは叫んだ。


**************************************************************************

「おい!大丈夫か?」タカシにゆすられた。
「あ・・・あのおばさんは?」とあたしは言った。
「誰だ?おばさんなんていなかったぞ。急に立ち止まってボーっとしているからびっくりしたよ。もう帰るか?」
「うん・・・」あたしは頷いた。
タカシは前をどんどん歩いていった。

なんだか、一瞬の間に白昼夢を見ていたようだ。
あたしはタカシと結婚をし苦労をしておばさんになっていく夢を・・・。

かなり先まで歩いていってしまったタカシを追いかけて行くとタカシも一瞬立ち止まった。

「タカシ・・・私達別れよっか」

少しタカシはボーっとしていた。それから夢から覚めたように言った。

「うん」

タカシも別れようと以前から思っていたのか・・・。
その日にタカシは荷物をまとめて出て行ってしまった。
あたし達の別れはあっけなく終った。

  **********************************************************************************

あれから20年、タカシと別れた後、あたしはある出張先で小さい会社だが経営者の息子と知り合い結婚した。
それなりに裕福で子供も生まれてそれなりに幸せな日々だ。
子供もかなり手を離れたので今はゆったりとした毎日を過ごしている。

料理の本を買おうと本屋によると「○○賞受賞作家」と言うポスターが見えた。
そのポスターにはタカシの名前があった。
どうやらサイン会がこの書店であるようだ。

そうタカシは作家としてデビューして成功を収めている。

あたしのあの時の判断は間違っていたのか・・・。たまにわからなくなる。

あたしはサイン会の列に並んだ。
あたしの順番が回ってきた。タカシはあたしがあの時見た白昼夢とは違いすごくお洒落で颯爽とした感じに年をとっていた。
あたしの事がわかるかしら・・・と思いながら
「おめでとうございます。お久しぶりです」
と声をかけた。

「!」
タカシは私の事がすぐにわかったようだ。

後でここに・・・と言うメモ書きが渡された。

メモに書かれた喫茶店で待ているとタカシが現れた。
「おめでとうございます。すごく立派になられてうれしく思います」
あたしは一般的な挨拶をした。
「あなたこそお変わりがなく、あの頃のままです」
タカシがお世辞を言った。
「いえ・・・もうこんなおばちゃんになってしまって驚いたでしょ」
あたしは謙遜して言った。
「いやいや、本当ですよ。実際驚いています。今になったらあの別れが失敗なんじゃないかと思いますよ」
タカシは爽やかに笑って手を振った。その手には指輪がはまっている。結婚したんだなと思った。
あたしはあの時の別れがあまりにもあっけなかったのでずっと気になっていた事をタカシに告げた。
すると思いがけない答えが返ってきた。

「いや・・・あの時、君にわかれようかと言われる直前に白昼夢を見たんだ。一人のおじさんが僕の目の前に立っててね。それがなんとも汚いジャージ姿でこう叫ぶんだ。『あんた!その女と結婚したら駄目だ』って。そして、その後に僕の20年後の夢も見るんだ。僕は君に甘やかされて全然何も出来ない男になってるんだ。そして汚いジャージ姿でゴロゴロしている。・・・ごめんね、今の君のようにきれいじゃない君がなんだか言って、飛び出した後にそのジャージ姿の汚い自分が若い日の僕に叫んだおっさんである事に気がついて・・・飛び出して・・・そして若い頃の僕に向かって叫ぶんだ。『あんた!その女と結婚したら駄目だ!』ってね。
その後すぐに君に別れようと言われたからつい「うん」って言ってしまった。なんだか今思えば残念なことをしたと思うよ」
タカシは意味ありげな視線を送ってきた。

今、あたしはそれなりに裕福な状態にあり、化粧品やファッションにもお金をかけられる。
週に1回はジムに通いスタイルも維持している。

あたしはふっと笑った。
「面白い話ですね。私達って結局別れる運命だったんですね。なんだか納得が出来た思いがします。今日はお会いできてよかったですわ。それでは・・・」

あたしは立ち上がりあっけに取られて見送っているタカシを後に会計をさっさと済ませ、外に出た。

外はかなり強い日差しで目が眩んだ。
まだ、夢を見ているのか?
また、若い日に戻るのか?
いいえ!これが現実なのよ!足をぎゅっと踏ん張って立った。

現実を大事に生きていかないと。
あたしは夫と子供の待つ家に家路を急いだ。

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パンドラの箱

2008年08月30日 | ショート・ショート
沈丁花の苗を植えようと彼女は庭の片隅を掘り起こした。

するとスコップが何かに「カツン!」と当たる。

さらに掘り起こしてみると・・・お茶の缶が出てきた。
ガムテープで密封してあり、蓋には
「希望が入ってます」と書いてある。
幼稚な字で書かれてありどうやら彼女の娘が昔書いて埋めたようだ。

彼女は彼女の娘の事に思いをはせる。
大事に大事に育てたはずなのに16歳の時にぐれてある日プイっと出て行ってしまった。
必死に捜索をしたが見つからず、10年たってしまった。

こんなかわいい事をしていた時期もあったのか・・・とため息をつく。

娘はこの缶にどんな希望を入れたのだろうか。
開けてみようと思ったときに、パンドラの箱の事が思い出された。
プロメテウスに開けてはいけないと言われた箱を妻のパンドラが宝物が入っていると思い込んでねだられ開けてしまったエピメテウス。
中からは人間にとってのありとあらゆる厄災が閉じ込められてあけた途端に飛び出してしまう。
ただ、賢いプロメテウスが人間のために最後に「希望」も閉じ込めてあり、人間はどんな事にあっても希望だけが残される・・・と言うような話だった。

厄災か・・・。
もう私にとっての厄災はすべて出尽くしてしまった。
夫も数年前に亡くなり、今は質素に毎日を暮らしている。
これ以上、よくもならず悪くもなることもないだろう。

缶を密封しているガムテープを剥がす。年数がたっているため綺麗にはがれず苦労する。
フタを恐る恐る開けてみる。

・・・何も入ってなかった。

こんなものよね・・・と彼女はため息をついた。

ふいに後から誰かに背中をポンと叩かれた。
びっくりして振り向くと

「お母さん、ただいま」

なんと娘が立っていた。派手な服装で派手なかばんを提げている。

びっくりして声も出ない彼女に娘が言う。

「あたし、帰ってきたんだ。すぐに出て行かないと駄目だけど。やだ!何?懐かしい~!私それに将来になりたっかった夢を大声で叫んでふたしたんだ。荷物置いてくるわ」
と娘は家に入ろうとした。

娘を見たとたん、うれしいと言うよりやはりこの缶の中には厄災が入っていたような気持ちに彼女は襲われた。
慎ましやかに暮らしている彼女にとってあの派手な娘はどう見ても彼女の生活を脅かす存在に思えてならなかった。

娘が家に入ろうと何歩か下がった時、娘の後ろから小さな女の子が出てきた。
派手な娘に比べ地味な格好で顔も汚れている。

「おばあちゃん、こんにちは」

小さな汚れた手を差し出した。

「その子、私の娘。【のぞみ】って言うの。私、仕事で遠くに行かないと駄目なんだ。何年か預かってくれないかな」
娘はそういい残しさっさと家の中に入っていった。

彼女は小さな手を取った。
あたたかい手だった。

この子がパンドラの箱から最後に出てきた【希望】なのかもしれない。
それとも厄災なのか・・・。
栄養状態も良くないように見受けれる。
・・・でも、娘の小さい頃に面差しが似ている

彼女は手を握ったまま言った。
「おばあちゃんと一緒に暮らしましょう。でも取り合えずその前に何か食べてお風呂に入ろうね」

女の子の目から涙がこぼれた。

やはり、この子は希望なのだ。

手を繋ぎ急に出来た孫と一緒に彼女は家の中に入って行った。











画像


<あとがき>
久しぶりに更新だ。
夏休みも終わりだからね。
この後どうなるのかは想像しだい。
孫と一緒に幸せに暮らしました・・・なのか。
娘が数年後帰ってきて一波乱あるのか。
それとも娘が改心して皆で一緒に幸せに暮らしましたか・・・。
ただ、最後のはあまり期待できないような気もする。
最悪なのは孫がまたぐれるわけだが、これも作品としては嫌な感じなので・・・。
やはり【パンドラの箱】だから一番最初のパターンかな。

年老いた彼女の世話を大きくなった孫が見て、孫の結婚する幸せそうな姿を見て
彼女が涙を残すと言うエンディングが一番よさそうだ。

ただ、ここまで書いてしまうとショート・ショートにはならないのでやはり作品としては上記のままで・・・。


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