その青年は悩んでいた。
明日、自分の重大なミスを上司に報告しなければならない。
そのミスは彼の今後の昇進にも影響しかねない、いやもしかすると彼のその会社での終わりを告げるほどのミスだった。
今日の顧客からのクレーム。
もう定時をまわって1人で残業をしている時にかかっている電話。
彼は実はそんなミスをした覚えがなかったのだが、あれだけ怒っていてまた損害をかけたと言うのだから間違いなのだろう。
とりあえず謝りに謝って明日上司と一緒にお詫びに行きます・・・と言って電話を置いた。
なかなかその晩は寝つけそうになかった。
0時少し前に布団に入り思った。
「明日なんかこなければいいのに」と。
不思議な事に眠れないと思っていたのに暗闇に引きこまれるように眠りに落ちて行った。
・・・そして朝。
青年は目が覚めた。
とりあえず会社に行かなければ。
青年は着換え会社に向かった。
そして会社につき、上司の出勤を待った。
「おはよう」上司が入って来た。
「部長、お話が・・・」と彼が言いかけた時上司がにこやかに笑った。
「やあ、おはよう。昨日は災難だったな。相手の勘違いだったとはいえ最初は雷が落ちたように怒鳴られたからな。まあ、君にとっては後からの出来事が幸運だったから、皆帳消しだな」
「はあ?あのクレームの件をご存知でしたか?」青年は目を白黒させながら言った。
「ご存知も何も昨日一緒に謝りに行ったじゃないか。君まだ起きてないな~。やっぱり君は面白い男だな!あっはっは!」
上司は豪快に笑い去って行った。
青年は何がなんだかわからない。ふと横のカレンダーを見た。すると・・・なんと今日は青年が思っていた日より一日たっているではないか!
その時、彼の携帯にメールが入った。
『昨日は大変ご迷惑をおかけしました。でもあなたって本当に面白い方ですね。今日、もう一度お会い出来ませんか?父もすっかり貴方の事が気に入って昨日のお詫びに食事にご招待したいと言ってます。お返事お待ちしております』
・・・?女性のようだが彼の知らない名前だった。ただ、本来今日行くはずだったクレームの顧客の苗字と一緒だった。
その時彼の同僚が入ってきた。
「よっ!昨日の話聞いたぜ!災難だったな。でも、それで相手のご令嬢とメールアドレスの交換したんだって?本当にお前って面白いやつだよな」
・・・?青年は混乱した。席に戻りなるべく落ち着いて考えて見た。
どうやら、あのクレームは解決したらしい。青年が知らない間に。いや、知らないと言うか青年の記憶の空白の「昨日」があるようだ。
青年が「明日が来なければいいのに」と願ったとおり「明日」は来ず、明後日になってしまった。
青年はとりあえず退社後、顧客の家を訪れた。
ある会社の社長の家でかなりの豪邸だ。
チャイムを押すと中から華やかな女性が出てきた。
「お待ちしてました。どうぞ」彼女が微笑んだ。
青年はひと目で恋に落ちた。
その夜は雲の上にいるようだった。
あれだけ電話で怒られた顧客も上機嫌でことある度に「昨日の君は本当に面白かったな~」と言う。
それに応じあの華やかな女性も・・・彼女はこの社長の娘だった・・・「本当に涙が出るほど笑ってしまったわ」と父親と声を合わせて笑う。
青年は話を合わせるのが精一杯だった。
帰るときに彼女とまた会う約束をした。彼女もまた青年に好意をだいたようだ。
二人の交際は順調に進み、話はとんとん拍子に進んで結婚した。何しろ彼女の父親も彼を大変気に入っていたのだ。
結婚と同時に彼は会社を辞め義父の会社を手伝うようになった。1人娘だったためいわゆる婿養子と言う形だったが彼の肉親は早くに亡くなっていて不満はなかった。
むしろ幸せだった。仕事は遣り甲斐があり妻も優しくかわいい子供も二人できた。
ただ、ひとつの不満は・・・。
彼が「明日がこなけれないいのに」と願ったあの明日の話を妻と義父がする時だ。
二人はよくその時の事を思いだし「本当にあの時の貴方ったら」と言いながら笑う。
青年は何度も聞いてみようとしたが・・・なんだかそれはふれてはいけないことのように思い、笑うだけで話を合わした。
そして月日は流れ、義父が亡くなり青年が社長をついだ。
青年も年をとり、先に妻が旅立つ時がきた。
妻は「あの時の貴方を時々思いだすのよ。貴方に出会えてよかったわ」と言い残し幸せそうに微笑んで旅立った。
青年、いやもう老人になった彼は最後まで聞けなかった。
「あの『明日』に何があったのか」
そしてまた月日が流れ今度は彼が旅立つ時が近づいてきた。
弱った体を横たえながら彼は思う。
「明日がまた目を開けれるのだろうか。でももう思い残すことはない。会社も子供達が立派に跡をついでくれている。ただ、最後にあの空白の日の事が知りたかった」
そして彼は目を閉じ深い闇へと落ちて行った。
鳥の声がした。
彼は目を開けた。
まだ、生きていた。朝日がまぶしい。
でも、おきある事も出来ないだろう・・・と思ったのにすんなり体が起き上がった。
どうしたのだ?
目をこすりながらまわりを見渡せば・・・昨日まで彼が寝ていた病院のベットではない。
そこは・・・。
若き日の彼のワンルームの部屋だった。
慌てて時計のカレンダーを見る。
そう今日はあの『明日』だった。
自分の姿を鏡に映す。
若き日の姿があった。
彼はすべてを理解した。
そう、これからあの『明日』が始まるのだ。
彼の最後の日に。
多分、彼は若き日の妻や義父の姿を見て涙を流すだろう。
いや、何を起こるのかは『今日』を過ごして見なければわからない。
彼はスーツに着換えドアを勢いよくあけた。
外は光にあふれ彼にエネルギーを与えた。
「こんな素晴らしき明日があっていいものだろうか!」
彼は人生に感謝した。

明日、自分の重大なミスを上司に報告しなければならない。
そのミスは彼の今後の昇進にも影響しかねない、いやもしかすると彼のその会社での終わりを告げるほどのミスだった。
今日の顧客からのクレーム。
もう定時をまわって1人で残業をしている時にかかっている電話。
彼は実はそんなミスをした覚えがなかったのだが、あれだけ怒っていてまた損害をかけたと言うのだから間違いなのだろう。
とりあえず謝りに謝って明日上司と一緒にお詫びに行きます・・・と言って電話を置いた。
なかなかその晩は寝つけそうになかった。
0時少し前に布団に入り思った。
「明日なんかこなければいいのに」と。
不思議な事に眠れないと思っていたのに暗闇に引きこまれるように眠りに落ちて行った。
・・・そして朝。
青年は目が覚めた。
とりあえず会社に行かなければ。
青年は着換え会社に向かった。
そして会社につき、上司の出勤を待った。
「おはよう」上司が入って来た。
「部長、お話が・・・」と彼が言いかけた時上司がにこやかに笑った。
「やあ、おはよう。昨日は災難だったな。相手の勘違いだったとはいえ最初は雷が落ちたように怒鳴られたからな。まあ、君にとっては後からの出来事が幸運だったから、皆帳消しだな」
「はあ?あのクレームの件をご存知でしたか?」青年は目を白黒させながら言った。
「ご存知も何も昨日一緒に謝りに行ったじゃないか。君まだ起きてないな~。やっぱり君は面白い男だな!あっはっは!」
上司は豪快に笑い去って行った。
青年は何がなんだかわからない。ふと横のカレンダーを見た。すると・・・なんと今日は青年が思っていた日より一日たっているではないか!
その時、彼の携帯にメールが入った。
『昨日は大変ご迷惑をおかけしました。でもあなたって本当に面白い方ですね。今日、もう一度お会い出来ませんか?父もすっかり貴方の事が気に入って昨日のお詫びに食事にご招待したいと言ってます。お返事お待ちしております』
・・・?女性のようだが彼の知らない名前だった。ただ、本来今日行くはずだったクレームの顧客の苗字と一緒だった。
その時彼の同僚が入ってきた。
「よっ!昨日の話聞いたぜ!災難だったな。でも、それで相手のご令嬢とメールアドレスの交換したんだって?本当にお前って面白いやつだよな」
・・・?青年は混乱した。席に戻りなるべく落ち着いて考えて見た。
どうやら、あのクレームは解決したらしい。青年が知らない間に。いや、知らないと言うか青年の記憶の空白の「昨日」があるようだ。
青年が「明日が来なければいいのに」と願ったとおり「明日」は来ず、明後日になってしまった。
青年はとりあえず退社後、顧客の家を訪れた。
ある会社の社長の家でかなりの豪邸だ。
チャイムを押すと中から華やかな女性が出てきた。
「お待ちしてました。どうぞ」彼女が微笑んだ。
青年はひと目で恋に落ちた。
その夜は雲の上にいるようだった。
あれだけ電話で怒られた顧客も上機嫌でことある度に「昨日の君は本当に面白かったな~」と言う。
それに応じあの華やかな女性も・・・彼女はこの社長の娘だった・・・「本当に涙が出るほど笑ってしまったわ」と父親と声を合わせて笑う。
青年は話を合わせるのが精一杯だった。
帰るときに彼女とまた会う約束をした。彼女もまた青年に好意をだいたようだ。
二人の交際は順調に進み、話はとんとん拍子に進んで結婚した。何しろ彼女の父親も彼を大変気に入っていたのだ。
結婚と同時に彼は会社を辞め義父の会社を手伝うようになった。1人娘だったためいわゆる婿養子と言う形だったが彼の肉親は早くに亡くなっていて不満はなかった。
むしろ幸せだった。仕事は遣り甲斐があり妻も優しくかわいい子供も二人できた。
ただ、ひとつの不満は・・・。
彼が「明日がこなけれないいのに」と願ったあの明日の話を妻と義父がする時だ。
二人はよくその時の事を思いだし「本当にあの時の貴方ったら」と言いながら笑う。
青年は何度も聞いてみようとしたが・・・なんだかそれはふれてはいけないことのように思い、笑うだけで話を合わした。
そして月日は流れ、義父が亡くなり青年が社長をついだ。
青年も年をとり、先に妻が旅立つ時がきた。
妻は「あの時の貴方を時々思いだすのよ。貴方に出会えてよかったわ」と言い残し幸せそうに微笑んで旅立った。
青年、いやもう老人になった彼は最後まで聞けなかった。
「あの『明日』に何があったのか」
そしてまた月日が流れ今度は彼が旅立つ時が近づいてきた。
弱った体を横たえながら彼は思う。
「明日がまた目を開けれるのだろうか。でももう思い残すことはない。会社も子供達が立派に跡をついでくれている。ただ、最後にあの空白の日の事が知りたかった」
そして彼は目を閉じ深い闇へと落ちて行った。
鳥の声がした。
彼は目を開けた。
まだ、生きていた。朝日がまぶしい。
でも、おきある事も出来ないだろう・・・と思ったのにすんなり体が起き上がった。
どうしたのだ?
目をこすりながらまわりを見渡せば・・・昨日まで彼が寝ていた病院のベットではない。
そこは・・・。
若き日の彼のワンルームの部屋だった。
慌てて時計のカレンダーを見る。
そう今日はあの『明日』だった。
自分の姿を鏡に映す。
若き日の姿があった。
彼はすべてを理解した。
そう、これからあの『明日』が始まるのだ。
彼の最後の日に。
多分、彼は若き日の妻や義父の姿を見て涙を流すだろう。
いや、何を起こるのかは『今日』を過ごして見なければわからない。
彼はスーツに着換えドアを勢いよくあけた。
外は光にあふれ彼にエネルギーを与えた。
「こんな素晴らしき明日があっていいものだろうか!」
彼は人生に感謝した。
