おはなしきっき堂

引越ししてきました。
お話を中心にのせてます。

次は何に?

2007年06月08日 | ショート・ショート
有美と言う1人の若い独身女性。
今電車を降りて家路を急ぐ。
今日はついてなかった。仕事では些細なミスが連発し上司にしかられ私生活では服を前半にセールで買いすぎたため小遣いがピンチだから寄り道も出来ない。

有美はひとつため息をついた。
ふと顔をあげると神社が目に入った。毎日通っているのに今まで気がつかなかった。
ちょっと神頼みでもしてみるか・・・と有美はお賽銭をあげ
「何かいい事がおこりますように」と願いを心の中で言った。

神社を出て歩いているとちょっとした段差でつまづいてこけてしまった。
「いたーーい!」と周りを見渡すが誰もいなかった・・・ほっとする。
転んだ拍子に何か手につかんでいた。
一本の鉛筆だった。
何だこんなものと捨てようとした時に目の前で子供達がなんだかわいわいと話していた。
ふとその中の1人が有美と目が合う。
「お姉さん、その持っている鉛筆ちょと貸してよ」とその子が言った。
「いいわよ。よかったらあげるし」と有美が答えると
「ありがとう!ゲームをしてたんだけど点数が皆覚えられなくて書くのが欲しかったんだ」
もう1人別の子が言った。
「そうだ、お姉さん、鉛筆もらったからこれ代わりにあげるよ」
差し出されたのは1個の飴だった。

「ありがとう」
有美はそう言って立ち去った。

こんなものもらってもね・・・と思いながら歩いていると、目の前で一組の親子が歩いていた。
お母さんと小さい女の子だ。
「もう歩けないよ~!」と女の子はしゃがみこんで泣いている。
「もうちょっとだから頑張りなさい」お母さんが一生懸命なだめている。
有美は近づいて言った。
「ねえ、これ元気が出る飴だよ。あげるから頑張って歩いて!」
さっきの子供からもらった飴だ。
女の子は泣きやんだ。そして有美から飴を受け取るとにっこり笑った。
その子のお母さんが言った。
「ありがとうございます。助かりました。よかったらこれ・・・」
と差し出したのは福引の券だった。
「すぐそこの商店街でしているみたいですよ」と。

親子とは手を振りながら別れた。
有美はそういえば小遣いも底をついて来ているし福引で何か当たったらいいなと・・・その商店街にあるいていった。
福引所で福引券を出すと
「すいませんね、これ5枚で一回なんですよ」と言われてしまった。
「なあんだ」と有美は言い丁度後ろに並んでいた年配の女性に「よかったらこれ」と言って渡した。
「あら、うれしいわ。4枚の半端があったのよ。当たったらあなたにもおすそ分けするから見て行きなさいよ」とその女性は言った。
ガラガラ・・・ポトン。青の玉が転がった。
「3等賞!大あたり~!スポーツ飲料一ケース!」
福引所のお兄さんが鐘を鳴らした。
「あら当たったわ!あなたにも一本あげるわね」とその女性は言った。

有美はスポーツ飲料を一本貰うと家に向かって歩き始めた。
何かの話しに似てるな・・・。わらしべ長者だ。
最後には大金持ちになるんだったな。わらしべ一本から。
私の場合、最初の鉛筆がスポーツ飲料になった。でもあんまり期待出来そうにないな・・・と思う。帰るまでに長者になるなんて到底無理だわ。
そう思いクスッと笑ったときに前をたくさんの荷物を持って歩いていた男性が急にしゃがみこんだ。
「大丈夫ですか?!」と声をかける。
「急に歩いているとクラクラして・・・」とその男性は言った。
午前中は雨が降っていた。そのあとやんで一気にいいお天気になった。
すごく蒸し暑く、アスファルトから湯気がでているようだ。
「これ、よかったら飲んでください」
有美はさっき貰ったスポーツ飲料を差し出した。
男性はごくごく飲んだ。すると顔色もよくなってきた。
「ありがとうございます。得意先からの帰り道ずっと水も飲まないで歩いていたものですから・・・。そうだ、これお礼としたら変なんですが、不良品として返って来た服なんです。染ムラがちょっとあるだけで裁縫はちゃんとしてますので良かったらどうぞ」
男性が差し出したのは新品のT シャツだった。でも男性用だった。

男性と別れまた有美は歩き始める。家が見えてきた。
今度はTシャツになったか・・・でも男性用だから家ででも着ようかな・・・それともお父さんか弟にでもあげようか・・・。
その時、目の前を大きな車が通った。
バシャン!大きな水がはねる音がした。少し前の水溜りにタイヤが入り大きな水しぶきがあがった。
「冷たい!」
同時に前で大きな声がした。
見ると背の高い若い男性が水浸しになっている。
はあ・・・こういう事か・・・次は何に化けるんだろう。有美はそう思うと持っていたTシャツを差し出した。
「良かったらこれ」と。
男性は
「ありがとうございます。助かります。これから他所のお宅にお邪魔するところだったので。新しく買って返しますので良ければご連絡先をお聞かせいただけませんか?」
と言った。
なあんだ、今度は何にもならないのかと思って顔をあげるとびっくりするぐらい有美の理想の男性の顔がそこにあった。

「良かったらうち近くなのでそこで着換えをされたらいかがでしょうか?弟のズボンなんかもありますので」
有美の口からこんな言葉が出た。

有美が最後に得た物は・・・『恋』だった。
わらしべ長者にはなれなかったが・・・いやもしかすると。

にほんブログ村 小説ブログ ショートショートへ

ランキングに参加する事によって更新の励みにしてます。
この話が面白いと思われましたらクリックをお願いします。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

会社です。

2007年06月07日 | ショート・ショート
その会社の社長は若い頃苦労して会社を興し従業員が100人弱とはいえ、不況の波にも耐え順調に実績を伸ばしてきた。

彼はかなりのワンマン社長だった。
白い物でも彼が黒だと言えば黒だとなった。
そしてかなりの倹約家でもあった。
空調設備や照明器具ひとつに対しても社員に『節約』をうるさく言った。
社員は仕事が出来なくなる直前まで空調を我慢し照明は部屋の半分しかつけなかった。

また、彼は「人件費がこの業界一安い」という事も自慢にしていた。
給料が安くて辞める社員もいたが、この不況の時代にすぐに補充が出来た。
会社は彼が作った物でまた社員も彼が雇ってやっているものだと思っていた。
会社は彼の為にあるのだ。利益もまた・・・

そんなある日。
社長室を叩くノックの音がした。
「どうぞ、入りなさい」と彼が言うとにこやかな顔の男が入ってきた。
彼の知らない顔だ。
「君は誰だね」と問う。
するとその男は言った。

「私はこの会社です」

彼は一瞬あっけにとられ黙ってしまったが、すぐにはっとしおかしな人物が入ってきた事を他に知らせようとした。
内線を押すが誰も出ない。

「無駄です」その男は言った。

「私はこの会社です。最初あなたの『気持ち』から出来ました。でも今では段々増えていった何人もの社員の人の『気持ち』から出来ています。最初あなただけで出来ていた私の体は今ではあなたの以外の気持ちが大多数を占めるようになりました。そしてそのあなた以外の『気持ち』があなたの『気持ち』を拒否しています」

彼はその男が何を言っているのか理解が出来ない。ただ、その男が人ではない事はそのかもし出す雰囲気からわかってきた。
また、その男は続ける。

「これをあなたにお返しします。あなたの『気持ち』です。この中心の『気持ち』は別な『気持ち』がもう入る事になっています」

男は自分の胸をさわるとそこから光る球をとりだした。
そしてそれを彼に渡した。

「それでは、ごきげんよう」

男はそう言うとすっと消えた。

彼はあたりを見渡すと何もかもが消えていた。彼が築いたと思っていた会社も。
そこにはただ永遠なる野原が続いているばかり。
彼は男に手渡された球に頬を当てる。
ほのかに暖かく彼の若き日の情熱が球の中心で今にも消えそうに揺れていた。
一気に思い出が駆け巡る。
会社を興そうと決心した日。そしてそれに手を貸してくれた親族や友。彼の為に苦労するとわかっていてついて来てくれた昔の同僚。そして段々増えていった社員達。
でも彼と一緒に苦労してくれた仲間の暖かさや情熱は彼の『気持ち』のそばにはもうないのだ。

もう何もかも遅かった。
失った物を悔やみただただ、彼は涙を流すばかり・・・。

にほんブログ村 小説ブログ ショートショートへ

ランキングに参加する事で更新の励みにしています。
この話が面白いと思われたらクリックをお願いします。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
ぺんのちょっと一言。
何でこの話を思いついたかと言うと今日は暑かったから。
・・・ま、ボスはゴルフでいなかったんだけど。
体力が皆落ちてきてね・・・今日はすごくつらかった。
髪の毛の中に汗がたまって私のヘアースタイルはアフロになりかけだった。
アフロぺん・・・なんて自分をこっそり呼んでみたりして。

明日、この話みたいに何にもなくなっていればいいのに。
永遠の野原・・・変な表現かもしれないけど明日出勤したら会社の場所が野原だったらいいのに・・・なあんて思ってしまって、今日汗書きながら仕事してたときに思いついたこのフレーズをどうしても書いてみたかった。
ただ、それだけ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ものさし

2007年06月05日 | ショート・ショート
20代の頃、勤めた会社。
そこそこの規模の会社だったが勤務先は小さな営業所で女性社員は1人だった。
若い男性社員も多かったから、女1人でちやほやされると思ったら大間違いだった。
人手が足りず、でも社員を増やすと経費がかさむのでアルバイトの学生を雇っていた。
それも女の子ばかり。

当然、私は一番年上となる。
あるとき、取引先の人からかわいいキティのバックを貰った。
数があまりなく女の子だけで分けようという事になったのだが、数が足りなかった。
私は我慢しようと思ったのだが、1人のおじさん社員が言った。
「こんな可愛いのはもう君はほしがる年ではないだろう」と。

私は23歳にして『お局』だった。

なんだか、その言葉から常に年齢が気になるようになった。
「もう若くはないんだ」と言う言葉がいつも心の片隅にある。

その翌年、なんだが焦りからか職場でつきあってた人と結婚した。
今から考えるともっと後からでもいいではないかと思うのだけど、年齢的に今しないと駄目なような気がしたから・・・
「もう若くはないから」と。

出産を機に仕事を辞めたが、不況の波にのまれまた働かざるを得なくなった。
今度は自分より年上の多い会社だった。
よく年配の人から言われる。
「若いっていいわね」と。
逆に今度はそのたびに思う。
「それはあなた達から見ての事で本当はもう若くはない」と。

毎日、「若さ」の事を考える。
そうやって何年かが経っていった。

ある朝、化粧をするために鏡を覗いた。
知らないうちに白髪が結構出来ていた。
また思う「もう若くはないんだと」

その時、鏡の向こうに何かが見えた。
「!あれは!若い頃の私だ!」
キティのバックを欲しそうな顔をして見ている。
なんて肌がピチピチで若いんだろう。その横にいるアルバイトの女の子と対して違わないではないか!
そんなに若いのだったらキティちゃんだって持ってもおかしくないよ!
横のおじさんが何か言っている(「こんな可愛いのはもう君はほしがる年ではないだろう」と言ってるんだろうが)私は顔をゆがめ悲しい顔をした。
「そんなおやじ、ぶんなぐっちゃえ!それ持ってもおかしくないよ」思わず言葉が出た!

自分の声にはっとして鏡を再度見るとそこには若い頃の私なんて映ってなかった。
映っているのは嫌な白髪がぴょこんと一本飛び出た私の顔だ。
引っこ抜こうとしたときにどこからか声が聞こえたような気がした。

「そんなの白髪のうちにはいらないよ!まだ抜かなくていいよ!」

振り向いても誰もいなかった。

その日から私はあまり若さの事を考えなくなった。

あの聞こえたような気がした声は何年後かの私の声ではないかと思う。
今の私からのメッセージは23才の私には届かなかったが、もっと先の私からのメッセージは今の私に届いたのだ。
若さなんて関係なく今を大事に生きろと。
今の私だってその先の私から見たら若いのだ。そしてその先の私も・・・。
そんな「若さ」をうらやんでばかりいてもかえって若さは逃げる一方なのだ。
「若さ」と言う「ものさし」なんて誰が作ったものなんだろう・・・そんな変なありもしない「ものさし」に振り回されていた自分がばからしくなった。


元気に「おはようございます!」と言って更衣室に入った。
先に着替えをしてた先輩社員に
「あら、若いっていいわね、元気で」と言われた。

「ええ!そうですよ!」とまたもや私は元気良く答えた。

私は将来を夢見る・・・。
きれいにセットした白髪(ハクハツ)で素敵に微笑む自分を。

にほんブログ村 小説ブログ ショートショートへ

このお話が面白かったと思ったらクリックをお願いします。
・・・励みになりますので・・・
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ほくろクラブ株式会社12(番外2・・・『ぼく』編)≪ある日のウッチー≫

2007年06月03日 | ほくろクラブ
ほくろクラブ株式会社も夏休みに入ってから休業状態だ。

僕は毎日暇で仕方ない。
皆の予定が中々合わないんだ。
皆のうちには兄弟がいるけど、僕は一人っ子だから皆と遊べないとなると夏休みは本当に暇だ。
結構、やまさんと一緒に遊ぶことが多かったのに最近やまさんは何故か料理に目覚め一生懸命料理本を開いて頑張っている。
将来は洋食屋さんになってお母さんに食べさせたいらしい。
最近は皆美味しいと言って食べてくれると自慢してた。

今日は誰とも遊ぶ約束をしてないと言うか出来なかった。
そんな日は・・・家でゴロゴロテレビを見て過ごすことが多い。
「夏休み子供劇場」を見た後ぼーっとしていると、すごいものがテレビに出てきた!

「カキ氷まで出来るスライスカッター」
すごいぞ!きゅうりも切ってるしキャベツも切ってる!
何よりもカキ氷までできるなって夢の機械のようだ!
そう言えば、カキ氷食べたいな~。
テレビの画面のカキ氷を眺めていると急に食べたくなった。
値段は・・・一台8,000円で・・・2台でなんと14,000円だって!
すごいお買い得だ!これはお母さんに言って買ってもらわないと!

なんだかわくわくしてお母さんが帰ってくるのを待った。

「ただいま~~~!」
お母さんが帰ってきた。

「お母さん!僕、今日すごいものテレビで見ちゃったんだよ!カキ氷まで出来るスライスカッターがなんと2台買うと14,000円なんだって!」

お母さんは
「ふーーん」って言った。もっと感動してくれると思ったのに。

その日の夕食はとんかつだった。横には千切りのキャベツがいっぱいついていた。
ご飯が終わってしばらくするとカキ氷器を出してきてカキ氷を作ってくれた。
電動だったから僕でも出来た。

僕は大好きな練乳をかけて食べた。美味しかったよ。

お母さんは無言で「うちには何でもあるのよ」と言ってるのかな~。
でも、あのスライスカッターやっぱりすごいと僕は思うんだけどな。ただ良く考えたら2台もいらないかもしれないけど。

そして次の日・・・。
僕はテレビでまたすごい物を見た。
布団があんなにぺったんこになる布団圧縮袋。今ならさらに棚がついてくるって!すごいなぁ~!僕、布団がぺったんこになるところ見てみたい!
お母さんに知らせないと!今度はきっと「そんないいものがあるの?早速申し込まなくっちゃ!」って言うかもしれない(*^_^*)


にほんブログ村 小説ブログ 童話・児童小説へ

もしこのお話が良かったと思っていただいたらクリックしていただいたらうれしいです。
・・・励みになりますので・・・
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ほくろクラブ株式会社11(番外1・・・やまさん編)≪元気もりもりオムライス≫

2007年06月02日 | ほくろクラブ
僕、山内 透。小学校6年生。

僕のうちはお母さんと僕と妹の沙織(小学校4年生)と犬のポンの4人?家族だ。
お父さんはいない。だからお母さんは朝から夜遅くまで働いている。
お母さんの仕事は看護士だ。帰りは深夜や翌日になる事なんかも多い。
僕は、小さい頃はお母さんがいないから寂しいと思った事もあるけど今ではお母さんが僕や妹の為に一生懸命働いているのを知っているから、もう寂しいと思わない。
それに僕が頑張って沙織の世話をしないといけないと思っている。だって家の中で男は僕1人だから・・・あっ!ポンもいたか!
ただ、お母さんが帰って来るのが遅かったり、翌日お母さんが休みだったりすると一緒によく寝過ごして遅刻をしてしまう。
担任の赤城先生には怒られてばっかりだ。

今、学校は夏休みだ。
同じ留守番友達のウッチーと遊んだ。ほくろクラブの他のメンバーのテンちゃんは野球のチームに入っているからずっと練習だし、みずっちはお母さんの許しがないとなかなか出してもらえない。
夏休みに入ってからは自由なウッチーと遊ぶことが多い。
今日は遊んでいる時に、一番好きな食べ物は何か?と言う話しになった。
「僕は、おでんとオムライス!」とウッチーが言った。
「僕もオムライス一番大好きだよ!」

僕はとたんにオムライスが食べたくなった。
お母さんはオムライスは手がかかると言ってめったに作ってくれない。最後に食べたのはもう何年か前かもしれない。
ウッチーが
「昨日、僕んちはオムライスだったよ。お母さん朝から玉ねぎ刻んで用意をして帰ったらすぐに作ってくれた」と言った。
ウッチーのお母さんも働いているけど毎日7時ごろまでには帰ってきている。
だから作れるんだな・・・きっと。

僕はふとある考えが浮かんだ。
「よし!自分で作ってみよう!」って。

「ウッチー、昨日食べたオムライスって何が入っていた?」と僕が聞くと
「えっと、うちのはね、玉ねぎと・・・にんじんと・・・あっ!忘れてならないのがとり肉だ!」
と言った。

僕はその場でウッチーと別れ、スーパーに買い物に行った。
僕と妹はお母さんが遅くなるときや夜勤の時はコンビニやスーパーでお惣菜やお弁当を買いなさいとお金を渡されている。
今日はそれを使って・・・自分でオムライスを作るんだ!

冷蔵庫の中にたまごが入っていたし、玉ねぎもあったと思う。
ケッチャプもそう言えばあったはずだ!
僕はにんじんととり肉を買って、家に帰った。

まずはとり肉を切った。案外よく切れない。とり肉を切るので30分かかった。
次に玉ねぎとにんじんを切った。
玉ねぎってこんなに目にしみるものだったんだ。段々邪魔くさくなって玉ねぎもにんじんも最後にはかなり大きくなった。
お米を洗って炊飯器にセットして炊いて見た。
炊きあがったご飯はなんだかベチョベチョしてた。
でも、まあいいや。炒めたらカラッなるかもしれない。

沙織が遊びから帰って来た。
「兄ちゃん、コンビニに弁当買いに行こうよ!」と言ったが僕が
「待て!今日は兄ちゃんがオムライス作ってやるよ」と言うと沙織は大喜びした。

僕らだけで火を使うのはお母さんが禁止している。
だから僕はホットプレートを出してきて材料を炒めて次にご飯を入れた。
なんだかべチャべチャでよく混ざらない。団子みたいになってきたので仕方なしにケッチャプを入れたらもっとべチャべチャになった。
いやな予感がしたが「味で勝負だ」と自分に言い聞かせ、一旦ホットプレートの中からチキンライス・・・と言うかチキンライスだんごをとり出した。
次は卵だ。1個1個するのは面倒なので全部流し込んでその上にさっきのチキンライスだんごを入れた。
当たり前だけど・・・ひっくり返せなかった。
出来たのは・・・なんだか卵が下でぐちゃぐちゃしててその上に赤い塊のごはんがのっていると言うものだった。

「兄ちゃん、これ食べれるの?」と沙織が不安そうに言った。
「当たり前だ!」
といい、沙織にそれをよそった。
一口食べた沙織は
「こんなのオムライスじゃない」と言って泣いた。
僕も一口食べた。玉ねぎは大きすぎる。にんじんもまた大きすぎて中まで火が通ってなくてゴリゴリ。
ご飯はべちゃべちゃでケチャプのかけすぎでどろどろした部分とご飯のままの部分がある。
最悪なのは卵が包めてなくてこげている。
僕自身も食べれなかった。
ポンにもちょっとだけだして見た。
ポンは匂いを嗅いでクルッと後ろを向いてしまった。

最悪だ・・・。
泣きじゃくる沙織をなだめカップ麺を出してきてポットのお湯を注いで2人で食べた。
ポンにはドックフードを改めてだしてやった。ポンはうまそうにドックフードを食べた。

なんだか疲れてホットプレートの上のオムライスもどきも片づけずに沙織を寝かせてから僕も眠った。
いつもはお母さんが帰ってくるのを待っていようと思うのに・・・。
なんだかとても悲しかった。

翌朝、僕が起きると食卓の机の上はきれいに片付いてた。
そして手紙が置いてあった。

『オムライスごちそうさま。お母さん、とっても美味しかったしうれしかった。今度はお母さんがオムライスを作るわね』と。

お母さんは昨日は遅かったみたいでまだ寝ている。
僕の作ったあのオムライスもどきが美味しいなんて・・・。
僕はなんだか胸が熱くなった。

その日の夕食はもちろんお母さんの作ったオムライスだった。
黄色い卵で包んだオムライスを食べたらなんだか力がわいてくる。
そしてこれから何か悲しい事があっても今日のオムライスの黄色い色の事を思い出せばきっとなんでも乗り越えられるような気がした。


にほんブログ村 小説ブログ 童話・児童小説へ

もしこのお話が良かったと思っていただいたらクリックしていただいたらうれしいです。
・・・励みになりますので・・・
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする