ウクライナが実行したクルスク侵攻作戦は、ウクライナ紛争の性質を、これまでとは全く異なるものに変えました。
これまでは西側のロシア批判の大きな根拠は・・・
『武力による国境変更は断じて認めない!』
と言うものです。だからロシアは侵略者であり断じて許せない存在でした。西側がウクライナを絶対的に支持し支援する根拠です。
ウクライナがロシア領のクルスク州に軍事侵攻し、ロシア領を占領したならば、この根拠は崩れたことになります。
侵略者と侵略者の戦争になりました。
正義と悪の戦争から、悪と悪の戦争になりました。
まあ、筋論は脇に置いて・・・・・
(1)前線が完全に膠着し徐々にロシア軍優位の戦いになりつつありました。このままでは、ウクライナがジリ貧なのは誰が考えても分かります。ロシアは、現在の戦況を維持するだけで優位が拡大し、ウクライナは苦しくなる一方です。
そこでウクライナが考えたのが、「戦場の取捨選択」です。もう挽回の難しいドネツク州の戦場は整理して、それ以外の戦場に軍事リソースを振り向けて、戦争を継続しようという考えだと思います。この考え方自体は、合理的でありそうするべきです。
しかし、ここでゼレンスキーの見え張りの性格が出てきます。
単にドネツク州を放棄するだけでは、支持率はガタ落ちになります。
支持率アップと西ウクライナ国民の戦意高揚のために考え出されたのが、クルスク侵攻作戦です。
クルスク州にはロシア軍は、ほとんど配備されておらずかなりの規模の精鋭機甲部隊を集結して軍事リソースをつぎ込みましたから、特に作戦が大成功したわけではありません。単にウクライナの精鋭機甲部隊がロシア領に進撃したと言うだけの話です。
尾ひれやふくらましをたっぷり混ぜて、宣伝上手のウクライナは大戦果を誇張しました。
西ウクライナの国民向けには、大成功でした。
戦意は大いに高揚し、ゼレンスキーの支持率もアップしたでしょう。
一時的とはいえ、ロシア領に占領地も獲得しました。
その後いかにウクライナが有利でロシアが不利かの宣伝もテンコ盛りでしました。
例によって西側のメデイアは結構協力しましたので、特にウクライナ・ファンの多い日本では、ウクライナが戦況を挽回して互角になった・と誤解している人は多いのではないかと思います。
単なるドネツク州放棄を、これだけ何だかウクライナ有利の話にデッチ上げるのですから、ウクライナ(ゼレンスキー)の騙しのテクニックは、天才的だと認めざるを得ません。
しかし、所詮騙しのテクニックですから中身があるわけではありません。
中身の話は、これからと言うことです。
(2)「戦場の取捨選択」は今のウクライナには、絶対に必要なことであり私は去年の暮れごろから、そうするべきだ!と言っています。
むしろ遅かったくらいです。
キエフ政府の判断は、事実上現状を黙認することでもあります。ロシアが領土と主張する4州のうちかなりの面積をウクライナが守ってきたのがドネツク州です。
ドネツク州を放棄すれば大体ロシアが主張する4州をロシアが実効支配することになります。
その上でキエフ政府は、クルスク州のロシア領を占領したまま停戦交渉に持ち込みたかったのであろうと思います。
だからウクライナがクルスク州のロシア領を占領することが、いかにロシアに不利かをセッセと宣伝しています。
そして何とかロシアを交渉に引き込もうとしています。
しかし、これは余りにも都合の良すぎる話で現状でロシアが停戦交渉に応じる可能性は、ゼロと言えます。
だからベストの話をすれば、クルスク州のロシア領を占領して西ウクライナ国民が万歳三唱!した時点で即刻、撤退するべきだったと思います。
しかし一時的な成功に舞い上がったゼレンスキーは、スームイ州の防衛のために緩衝地帯を設ける話を持ち出してしまいました。停戦まで占領地を維持することを宣言したのと同じです。
こうしてウクライナは、クルスク州の占領地から撤退する道を自分で放棄してしまいました。
だから、今後はクルスク戦線にスポット・ライトを集めようとするでしょう。
ドネツク州は、出来るだけ陰に隠しておきたいでしょうね❓
「人の噂も七十五日」
やがて、ドネツクのことなんかミーハーな西ウクライナ国民は忘れ果てるだろう❓
こうすると「クルスク州の占領」のお手柄!だけが残るという筋書きを考えていると思います。(失敗は隠してお手柄だけを強調するゼレンスキーの得意技です。)
しかし、これはキエフ政府の希望的な観測にすぎません。
相手のロシアが、どう考えてどう行動するかを完全に無視しています。
(3)ロシアは、どうするか❓
クルスク州ではクルスク原発と州都クルスク市を防衛するために長大な防衛ラインを建設済みだそうです。
このような建設するのに大変なものをわざわざ建設したと言うことは❓
ロシアは、クルスク州のウクライナ軍を、直ぐにどうこうするつもりは、ないと言うことだろうと思います。
持久戦に持ち込み、消耗と補給(兵站)の戦いをすると言うことです。
当分、クルスク戦線での戦闘は続くでしょう。
(4)その間、ロシアはどうするのか❓
まず、現在勝勢のドネツク中部戦線で勝ちに来ています。
具体的には・・・
①トレツクТорецьк~ニューヨルクNiu-York方面を完全制圧して、その後コンスタンチノフカКостянтинівка攻略に向かって進撃する。
②ドネツク西部の要衝のポクロウシクPokrovsk方面を面的に広く制圧する。
③、②と連動して南ドネツクを制圧する。
ここまでは簡単に分かります。
他にも何かするんじゃないか❓
ここでウクライナのクルスク越境占領が出てきます。
ウクライナは、クルスク越境占領を自国領のスームイ州の安全のために緩衝地帯を設けるためだと主張しています。
つまり他国領を越境占領する非が、ここでモロに出てきます。
「自国領のスームイ州の安全のために緩衝地帯を設けるためのロシア領占領」が認められるなら、ロシアが逆にウクライナ領に安全のために緩衝地帯を設けても問題は、ないことになります。
「自分は良い、人はやってはダメ」
このような都合のより論理は、自分が相手より強い場合にのみ通用します。ウクライナの場合は、無理でしょうね❓ロシアより強いようには見えません。
(5)だからロシアが自国領ベルゴロド州の安全のためにハルキウ北部に緩衝地帯を設定するために越境占領した時は、非常に慎重でした。
予め作戦目的を明示して占領範囲も最初から明示していました。
自国領と宣言した4州以外での軍事行動には、非常に慎重でした。
これは、6月にロシアが停戦受け入れの条件を明示しているからです。その条件には、ウクライナがクリミアと4州の割譲を認めることが明示されています。
だから停戦条件を提示する以上は、この条件に示された以外のウクライナ領には軍事行動は、控えなくてはならない事になります。
(6)クルスク侵攻作戦を受けてロシアは、6月に提示した停戦受け入れ条件を事実上撤回しました。
再度のロシアからの条件提示は、これからです。
領土的には「クリミアと4州」以上のものが出てくる可能性が高くなったと言うことです。
ここでウクライナの主張する「「自国領のスームイ州の安全のために緩衝地帯を設けるためのロシア領占領」が大きな意味を持ってきます。
ロシアがロシア領の安全のために同じことをしてもウクライナは、文句も言えませんし相手を批判することも出来ません。
ロシアは、ロシア領が安全だと考えるところまで占領地を広げて緩衝地帯を設定する根拠を与えたと言えます。
「ドニプロ川の東側全域+クリミアの安全のためにオデッサОдесаが必要であり、ヘルソン州の安全のためにムィコラーイウМиколаїв州も必要です。」
こうロシアが主張すると❓
ドニプロ川の東側全域と南部の海側全域ですね❓
ウクライナのクルスク州進撃作戦と占領地確保は、ロシアにこのような「絶好の口実」を与えました。
ロシアが、停戦交渉に応じる見込みは余程領土的にロシアに良い条件を示さない限り、ないと思います。
(7)クルスクにいるウクライナ軍は、ロシアの領土拡大の根拠(証明)と同じです。証拠品みたいなものですね❓だから急いでウクライナ軍をクルスクから追い出さないと思います。むしろ出来るだけ長くいてもらいたいでしょう。
ゼ◎某の思い付きクルスク作戦の結果は、結構ウクライナにとって厳しいことになりそうな気がしています。
周囲が停戦を考えて勧めるだけ、馬鹿らしいですね❓
とことん戦争して、決着を付けたらいいと思うようになりました。
※関連記事目次
「中立の視点で見るウクライナ紛争」の目次⑥
https://blog.goo.ne.jp/kitanoyamajirou/e/e2c67e9b59ec09731a1b86a632f91b27