ブラッサンスのレコードがデビューから数年のあいだポリドール・レーベルで発売されていたことは、記録として知ってはいたが、現物を見るのは初めてだ。これまで手に入ったのは、フィリップス盤だけだった。
といっても、ブラッサンスがレーベル移籍したわけじゃないよ。
フランスのフィリップス・レコードはオランダ・フィリップスとドイツ・ジーメンスの合弁会社だったから、50年代半ばまではPhilipsとPolydorの両レーベルを発売していた。ジャクリーヌ・フランソワなんかも代表曲の「マドモワゼル・ド・パリ」はじめ、初期の録音はポリドール・レーベルだったはずだ。
二つの親会社はやがて提携を解消し、ジーメンスは社名にポリドールを冠した別会社を設立。フィリップスはポリドール・レーベルを使えなくなった。ブラッサンスの初期3アルバムはいったん廃盤になり、フィリップス・レーベルで再発売された。
つまりポリドール・レーベルのブラッサンスは、初回発売盤であることの証しなのだ。
ところがこのポリドール盤、発売部数が少なかったのか、これまで見かけたことがない。以前、フランスで中古レコード店巡りをしていたころにも見なかったし、eBayを漁るようになってからも見たことがなかった。
それがつい最近、なぜかアメリカからeBayに出品されたんですよね。しかも、万単位の値がつけられてもおかしくないのに(日本プレスの10インチに800ドルというアホな値段がついてる)20ドルで即決。迷わず落札した。出品者はミネアポリスの雑貨屋の小母さんだが、価値を知らなかったんじゃないかなあ。
ともあれ、届いたレコードを掛けてみると、しっかり芯があって輪郭が明快なのに少しもやかましくならず、目の前で歌っているように生々しいヴォーカル、ずっしり安定感のあるベース、スッと空気を突き抜けるような澄んだギター。初期プレスでしか聴けない採れたての音である。うっとり。
それにしても、レコードのレーベルって奇々怪々だね。iPhoneがサムスンのブランドになりGalaxyがアップルのブランドになるような、ほかじゃありえないことがワリと普通に起きる。フランスColumbiaはLP時代、EMIのレーベルだったが、90年代にはソニーのレーベルになっていた。いまは、どこが使ってるんだか。