知らなかったなあ、アメリカでノローニャのレコードが出ていたとは。こんな地味な、エレガントな歌手が。エルヴィス・プレスリーのアメリカで。50年代にアマリア・ロドリゲスが世界的な人気を博していたから、そのおこぼれで出たんだろうか。
カッティングとプレスは英Deccaだから、イギリスで出したついでにアメリカでも売り出したのかも知れない。いずれにせよ発売部数は極少だったろうから、それがeBayに出るなんて奇蹟だ。
マリアテレーザ・デ・ノローニャは、故・中村とうようさんに教えてもらった中で最高に魅せられた歌手だ。だが、教えられたときにはすでにLP時代はとっくに終わっていたから、オレはCD(と、音の貧弱な4曲入りEP)でしか聴いたことがなかった。あのギスギス音の険しいポルトガル製CDです。
その彼女の歌がLPのウォーム・トーンで聴ける。これを落札しないでどうする。
トラックリストは、ほとんどが1960年前後に録音された曲だ。かつてポルトガルで出たCDボックスセットの2枚目の前半部分に当たる。屈指の名演「ファド・アナディア」が収録されているのがうれしい。この曲、ノローニャの歌もさることなから、ギタルラのラウール・ネリーがスイングして遊んじゃってるのが楽しいんだよね。
ノローニャのコンピレーションに必ず入っている「捨てられたバラ」が、ここにも入っている。代表的なヒットなんだろうな。しかし彼女の録音、ノローニャの最高の名演でもなければ、この曲の最高の表現でもないと思うんだよね。この曲はやっぱり、初演者エルミニア・シルヴァのものだ。ノローニャの歌は強弱のメリハリが行き過ぎていて、歌に自然な流れがない。
このLP、eBayの商品説明ではVGグレードで、しかもメチャ安の値付けだった。なので、どうせ悲惨な状態だろうと覚悟の上で落札したのだが、実物を見ると意外にもキズなし汚れなし。ノイズもごく少ない。どうなっているのだ。
ただし、音質は期待外れ。中高音域に強調感があり、Sの子音がシュルシュル耳につく。ノローニャの声が甲高くなりすぎる。クラシック・レコードでは音質の良さで有名なデッカだが、自社録音じゃないので限界があったのか。