蒲田耕二の発言

コメントは実名で願います。

『ラ・ジョコンダ』

2017-11-12 | 音楽

イタリア・オペラの大衆性を象徴するような1編である。実験精神は皆無だが、サービス精神は満点。ダイナミックなアンサンブルにメロディアスなアリアにドラマティックなフィナーレに華麗なバレー・ナンバーに、オペラのありとあらゆる魅力をこれでもかとブチ込んである。

ソーダにアイスを浮かべて生クリームを掛け、フルーツとチョコレートをビッシリ詰め込んだサンデーみたい。

何度も聴くと胃がもたれるが、ぼんやり聞き流している分には悪くない。

写真は、録音直後の1966年にキングが英デッカ・カッティングの輸入メタル原盤でプレスしたレコード。したがって、音の良さは折り紙付きであります。ヤフオクで1000円にも満たない値段で売っていた。

実は昔、イギリス・プレスの初期盤で持っていたレコードでもある。随分前に売り払ってしまったが、久しぶりに聴いてみて、なつかし〜〜〜い.......ことはなくて、なんでロクに聴かずに売り払ったか、ワケを思い出しましたよ。ぜーんぜん面白くない。

これ、60年代初めにスランプに陥ったテバルディが数年間休養し、ヴォイス・トレーニングをやり直して復帰してから初めて録音した全曲盤だった(その前にリサイタル盤を録音している)。

往年の声を取り戻したディーヴァが、初めて果敢な声の芝居をしたということでも話題になった。このソプラノはカラスと対照的に、もっぱら声の美しさで勝負して演技はしないことで有名な歌手だった。

しかし、芝居をすることと、その芝居がうまいか否かは、いうまでもないが別問題である。確かにテバルディは懸命に演技してるが、その表情がなんとも大まかで粗っぽくて、田舎芝居というしかない。

第2幕フィナーレでヒロインは恋敵を窮地に陥れるが、彼女の取り出したロザリオを見て、恋敵が実は母親の命の恩人だったことを知る。その時のフレーズ "Che! Quel rosario!" をテバルディは「ケーッ! クエル・ロザーリオ」と絶叫する。いくらなんでも大げさだ。

この人はまた、五線の下の低音を出すと中音以上の「天使の声」と打って変わって、男みたいに野太い無表情な響きになる。共演のメゾ、マリリン・ホーンがまた輪を掛けて野卑な低音を出す歌手なので、二人の重唱はあたかも男性的女性もしくは女性的男性がいがみ合ってるがごときだ。

そんなレコードを、なんでワザワザ採り上げるんだ? なんでだろうね。

ただまあ、人気アリア「空と海」をベルゴンツィが他のどんなテノールよりも見事に歌ってるというメリットはある。

それと、60年代の日本製LPの、まあ贅沢なこと。ボックスにもブックレットにも、海外盤や70年代以降のレコードではありえないほどカネを掛けている。当時の物価水準では、相当に高価な商品ではあったんだろうけど。
コメント
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