こうして初々しい時雄さんと由貴さんのカップルが出来上がりました。
時雄さんはぞっこんなのが文面からわかります。
取り敢えず日光江戸村を目指すことにして出発。
浅草からの特急ロマンスカーが素敵だった。フルムーンカップルにとっては絶好のシチュエーション。座席で初めて手を絡ませた。小さな手の先の綺麗にマニキュアされた細い指達、その可愛さに私は思わず大きな手で握りしめてしまった。私の手の中にすっぽりと包み込まれる程に彼女の手は小さい。温もりが伝わって今宵を予感させる。
甘やいだ気分のまま日光駅に到着。本降りの雨の出迎えである。予約宿のない俄仕立ての夫婦は、旅行案内書に載っているホテル全部に電話を入れたが、空部屋は一つもない。三連休の中日だから世界の観光地たるものこれで当然なのだろう。
仕方なく宿は宇都宮にとった。お陰で相合傘のチャンスが生まれ、彼女の用意した女物の傘の中に入って私は彼女の腰に手を廻し闇にまぎれて強く抱きかかえながらJRの駅まで歩くことが出来た。
宿は和風旅館であった。2階建の小さな駅前旅館である。ビジネスマン用だろう。
宿帳には勿論夫婦名を記入して部屋に案内された。
和室の夫婦床が既に用意されていた。彼女はこれがひどく気に入ったらしい。門限近かったが近くのスーパーで飲物やつまみ等買い込み、飲み且つ喰べながら更け行く夜のオシャベリを楽しんだ。
彼女は話し好き、私は聞き好きである。小さくて可愛い手や、指先を使ってジェスチャーたっぷりに話す由貴さんの話しを聞くのが私は好きだ。おちょぼの口元が可愛くてそこを見詰めながらチャーミングな彼女の話しを聞くのが私は好きだ。
やがて入浴を共にし、雨の夜は激しく、そして静かに時を刻んで行った。
食事の連絡を受けて私は寝間着のまま階下の食堂へ降りた。彼女は遅れて来たが、身繕いも出来上り、昨日とは衣裳を替え又昨日にも優る綺麗なお化粧顔で、給仕の女将に挨拶しながら入って来た。
女将は私の妻に何の疑念を抱く様子もなく私との世間話しの相手になっていた。部屋に戻ると寝具は綺麗に整理されていた。彼女が遅れて食堂に来た理由が判った。昨日脱ぎ放しの筈の私の服は衣紋掛を使ってきちんと片付けられていたし、今又着替えのために脱いだばかりの私の寝間着も直ぐにたたんで自分のと一緒に部屋の隅に片付けた。妻の気遣いだ。嬉しい。とても嬉しかった。部屋を後にする時も彼女は一足後れた。遺漏のないようにと点検したのだろう。
そしてこの後、新幹線を利用して帰京し、映画を観て一泊二日の旅は無事に終ったのである。
彼女の人柄を慕う悩み多い同好者は増えるばかりのようだ。男性の社会的基盤を持つ彼女の限られた時間で、その全てに対応し切ることは不可能に思われる。そんな多忙の中、色褪せたTV愛好家に貴重な時間を割いてくれる好意には、只々感謝感激あるのみ。恥を偲んで拙文を認めた次第である。御笑読あれ。
『くいーん』1992年2月号
>宿帳には勿論夫婦名を記入して部屋に案内された。
お忍び旅行で宿に泊まるとき、宿帳に連れの女性を妻と書くときの嬉しさととまどい。
私もよくわかります。
これから訪れる「愛の確かめ合い」に心が高まるのです。
時雄さんはぞっこんなのが文面からわかります。
取り敢えず日光江戸村を目指すことにして出発。
浅草からの特急ロマンスカーが素敵だった。フルムーンカップルにとっては絶好のシチュエーション。座席で初めて手を絡ませた。小さな手の先の綺麗にマニキュアされた細い指達、その可愛さに私は思わず大きな手で握りしめてしまった。私の手の中にすっぽりと包み込まれる程に彼女の手は小さい。温もりが伝わって今宵を予感させる。
甘やいだ気分のまま日光駅に到着。本降りの雨の出迎えである。予約宿のない俄仕立ての夫婦は、旅行案内書に載っているホテル全部に電話を入れたが、空部屋は一つもない。三連休の中日だから世界の観光地たるものこれで当然なのだろう。
仕方なく宿は宇都宮にとった。お陰で相合傘のチャンスが生まれ、彼女の用意した女物の傘の中に入って私は彼女の腰に手を廻し闇にまぎれて強く抱きかかえながらJRの駅まで歩くことが出来た。
宿は和風旅館であった。2階建の小さな駅前旅館である。ビジネスマン用だろう。
宿帳には勿論夫婦名を記入して部屋に案内された。
和室の夫婦床が既に用意されていた。彼女はこれがひどく気に入ったらしい。門限近かったが近くのスーパーで飲物やつまみ等買い込み、飲み且つ喰べながら更け行く夜のオシャベリを楽しんだ。
彼女は話し好き、私は聞き好きである。小さくて可愛い手や、指先を使ってジェスチャーたっぷりに話す由貴さんの話しを聞くのが私は好きだ。おちょぼの口元が可愛くてそこを見詰めながらチャーミングな彼女の話しを聞くのが私は好きだ。
やがて入浴を共にし、雨の夜は激しく、そして静かに時を刻んで行った。
食事の連絡を受けて私は寝間着のまま階下の食堂へ降りた。彼女は遅れて来たが、身繕いも出来上り、昨日とは衣裳を替え又昨日にも優る綺麗なお化粧顔で、給仕の女将に挨拶しながら入って来た。
女将は私の妻に何の疑念を抱く様子もなく私との世間話しの相手になっていた。部屋に戻ると寝具は綺麗に整理されていた。彼女が遅れて食堂に来た理由が判った。昨日脱ぎ放しの筈の私の服は衣紋掛を使ってきちんと片付けられていたし、今又着替えのために脱いだばかりの私の寝間着も直ぐにたたんで自分のと一緒に部屋の隅に片付けた。妻の気遣いだ。嬉しい。とても嬉しかった。部屋を後にする時も彼女は一足後れた。遺漏のないようにと点検したのだろう。
そしてこの後、新幹線を利用して帰京し、映画を観て一泊二日の旅は無事に終ったのである。
彼女の人柄を慕う悩み多い同好者は増えるばかりのようだ。男性の社会的基盤を持つ彼女の限られた時間で、その全てに対応し切ることは不可能に思われる。そんな多忙の中、色褪せたTV愛好家に貴重な時間を割いてくれる好意には、只々感謝感激あるのみ。恥を偲んで拙文を認めた次第である。御笑読あれ。
『くいーん』1992年2月号
>宿帳には勿論夫婦名を記入して部屋に案内された。
お忍び旅行で宿に泊まるとき、宿帳に連れの女性を妻と書くときの嬉しさととまどい。
私もよくわかります。
これから訪れる「愛の確かめ合い」に心が高まるのです。