
私の「女装小説」のHPには、小説だけではなくそのときどきにメディアに掲載された女装関係の記事などもアップしています。
年末に読み返したとき、朝日新聞2000年12月24日の記事が気になりました。
それはデパートの化粧品売り場にトランスジェンダーの美容部員さんがいて、その彼女を見た女性が朝日新聞にメールしてきました。
そこから記者が取材を始めます。
いまから22年前の記事とは思えません。
日付を2022年12月24日に置き換えてもあまり違和感を感じません。
そこで朝日新聞の縮刷版にあたり、その記事のコピーを手に入れました。
改めて引用してみます。
2000年12月24日
化粧品売り場の心ひかれる女性(あなたが選ぶこの人が読みたい)
都内デパート化粧品売り場に心ひかれる「女性」がいます
東京都中野区 〇〇さん(28)からのメール
人はどんなきっかけで、化粧を始めるのだろう。
メールをくれた知念さんの場合は、予備校に通うため上京したのを機に化粧品をそろえた。高校では化粧厳禁。
「こんな私を見てほしいっていうのが化粧。素顔よりも化粧した方が、本来の自分になれると思うんです」
その反動だったのだろうか。
〇〇さんがよく行くデパートの化粧品売り場で、ひときわ目立っていたのが、化粧品ブランドM・A・Cの「メイクアップアーティスト」りんこさん(23)だった。
リんこさんは母親が美容師だったせいか、幼いころからきれいなものが好きだった。いろんな化粧品や鏡も身近にあった。中学生になると、薄色のリップクリームを塗り、まゆを描き始める。家で雑誌を見て練習した。高校では女友達に教えてあげたりもした。
体と違って、心は女の子なんだと自分でわかってきたのも、このころだ。
なぜ化粧を?
しばらく考えて、言った。
「女の人に勝る部分を持ちたい気持ち、あるのかも」
■ ■
メーク専門学校での成績はトップ。だが、就職に壁があった。ふつうの会社なら、履歴書の顔写真と戸籍名とを見比べて「?」をつけただろう。
松田聖子やナオミ・キャンベルも愛用することで知られるM・A・Cは、会社の信条に「for AII Races,AII Ages,AII Sexes(あらゆる人種、年齢、性別のために)」を掲げる。ブレント・D・スミス事業部長(33)は「採用に何も問題なかった。彼女の性について意識したこともない」。どうしてそんな質問をするのか、と言いたげ 売り場の同僚は最初少しだけ戸惑った。 トイレなどの問題もある。「でも、会ってみたら普通の女の子じゃないですか」と、当時の岩崎知美マネジャー(31)は振り返る。
初めて接客したのは、去年三月。緊張はうれしさに変わった。「こんな私でも受け入れられるんだ」
りんこさんがこの仕事にあこがれたのは、「人にドラマを与えられる」からだ。
化粧を始めたばかりの少女。どこか外見に自信が持てない人。年齢を忘れたい人。そんなお客様に、きれいになる喜びを伝えたい。コンプレックスに苦しんだ自分だからこそできる、と思ったのだ。
今年は、光沢のあるファンデーションが大ヒットしている。しかし、ごつごつした男性的な顔だちの人だと、光を乱反射しやすく、むしろマット系の方が映える。女性らしく見せるすべを知っているから、そう助言する。流行品の押し売りはしたくない。
入社してまもなく、全国の店舗の中で月間売り上げトップになった。
■ ■
数カ月が過ぎ、余裕が生まれたころ。鏡をふいたリ商品を並べたりしていた時だ。
デパートの一階を様々な人が行き交う。ふと、こちらを見ながら流れてゆく視線に気がついた。振り返る人。さりげなくもう一度通る入。わざわざ見にくる人。
(あれ、男じゃないの)
特にカップルは残酷だ。彼女が彼氏に耳打ちする。「オ・カ・マ」と動く唇が見える。彼氏が-べつし「行こうぜ」と手を引いて離れてゆく。
気になり出すと、あっという間に気分が落ち込んだ。売り上げもガクンと減った。
こんな出来事もあった。
ある夕方、若い女性が近寄ってきて買い物もせず、ニヤニヤしながら言った。
「何でここにいるの?」
「えっ?」
「ニューハーフでしょ。あんた面白いじゃないの。電話番号教えてよ」
瞬間、頭が白くなった。
「申し訳ございません。イ固人的な質問にはお答えできかねますので……」
後ろ姿が見えなくなったところで、裏のストックルームに駆け込み、泣いた。
電車の串でも買い物をしていても、他人の目が刺さる。りんこさんはそのたび、相手をにらみつけてしまうようになった。「みなが敵に思える。そう思ってしまう自分が情けない。でも、そうさせた原因は、私を特別な目で見る人たちだと思うんです」
今年五月には胃かいようで倒れ、二週間入院した。
■ ■
堂々と仕事をし、ファッション雑誌にも登場する。メールをくれた知念さんは、そんなりんこさんをすごいと思っていた。
ところが実物の彼女は、いつかポッキリと折れてしまいそうに見える。
「やりたいことが自由にできて、いいね」とよく言われる。それも違う。
「私は趣味で女の格好をしてるんじゃない。男の人も、好きだから背広を着るわけじゃないでしょう」
自分は、男なのか、女なのか、何者なのか。頭が左右にちぎれそうなくらい、ずっと悩み続けてきた。
「障害をもつ人の中で、笑われたりすることがあるのが、私のような『性同一性障害』なんです。この苦しみ、分かりますか?」
恋をする時も、せつない。より女らしくしないと負けだと思うから、尽くす。相手の帰宅時間を見計らい「仕事お疲れさま」と、メールを忘れない。それでも「私なんかに好かれて、彼は迷惑じゃないか」と悩むのだ。
だから、自分から「好き」と告白したことはない。
郷里の両親は「息子としては愛しているが、娘としては分かってあげられない」と悲しむ。母親とは電話で泣き合う。
「スーパーで二人でカートを押しながら『大根ないから買っていこうよ』なんて言う、普通の母と娘になってみたかったよって。でも、お母さんの前では男の子でいてあげたいとも思うし……」
話をしていると、涙でぐじゅぐじゅになり、マスカラが流れ落ちそうになる。あわててトイレに直しに行った。
リんこさんにとって化粧とは、自分を目いっぱい励ますための手段なのかもしれない。
■ ■
話を聞き終え、りんこさんとクリスマス間近の人込みに出た。
178センチの長身にミュールの高さが加わって、人目を引く。「日本では人と少しでも違うと、視線を向ける」。スミス事業部長の言葉を思い出した。「米国人の僕もよく経験することさ」
確かに、並んでいるだけで、視線の海を泳ぐ気分になってくる。リんこさんは、ちょっと険しい表情になった。そして木枯らしに向かうように、コートの襟を立て、大またで駅へと歩き出した。
出所 朝日新聞 2000年12月24日 一部の人名は引用者が匿名としました。
この記事が出た時、りんこさんは23歳。
22年後の現在、彼女は45歳です。
彼女はどのように生きてきたのか、現在はどのように暮らしているのか。
改めて読み返してみて、少し気になります。
年末に読み返したとき、朝日新聞2000年12月24日の記事が気になりました。
それはデパートの化粧品売り場にトランスジェンダーの美容部員さんがいて、その彼女を見た女性が朝日新聞にメールしてきました。
そこから記者が取材を始めます。
いまから22年前の記事とは思えません。
日付を2022年12月24日に置き換えてもあまり違和感を感じません。
そこで朝日新聞の縮刷版にあたり、その記事のコピーを手に入れました。
改めて引用してみます。
2000年12月24日
化粧品売り場の心ひかれる女性(あなたが選ぶこの人が読みたい)
都内デパート化粧品売り場に心ひかれる「女性」がいます
東京都中野区 〇〇さん(28)からのメール
人はどんなきっかけで、化粧を始めるのだろう。
メールをくれた知念さんの場合は、予備校に通うため上京したのを機に化粧品をそろえた。高校では化粧厳禁。
「こんな私を見てほしいっていうのが化粧。素顔よりも化粧した方が、本来の自分になれると思うんです」
その反動だったのだろうか。
〇〇さんがよく行くデパートの化粧品売り場で、ひときわ目立っていたのが、化粧品ブランドM・A・Cの「メイクアップアーティスト」りんこさん(23)だった。
リんこさんは母親が美容師だったせいか、幼いころからきれいなものが好きだった。いろんな化粧品や鏡も身近にあった。中学生になると、薄色のリップクリームを塗り、まゆを描き始める。家で雑誌を見て練習した。高校では女友達に教えてあげたりもした。
体と違って、心は女の子なんだと自分でわかってきたのも、このころだ。
なぜ化粧を?
しばらく考えて、言った。
「女の人に勝る部分を持ちたい気持ち、あるのかも」
■ ■
メーク専門学校での成績はトップ。だが、就職に壁があった。ふつうの会社なら、履歴書の顔写真と戸籍名とを見比べて「?」をつけただろう。
松田聖子やナオミ・キャンベルも愛用することで知られるM・A・Cは、会社の信条に「for AII Races,AII Ages,AII Sexes(あらゆる人種、年齢、性別のために)」を掲げる。ブレント・D・スミス事業部長(33)は「採用に何も問題なかった。彼女の性について意識したこともない」。どうしてそんな質問をするのか、と言いたげ 売り場の同僚は最初少しだけ戸惑った。 トイレなどの問題もある。「でも、会ってみたら普通の女の子じゃないですか」と、当時の岩崎知美マネジャー(31)は振り返る。
初めて接客したのは、去年三月。緊張はうれしさに変わった。「こんな私でも受け入れられるんだ」
りんこさんがこの仕事にあこがれたのは、「人にドラマを与えられる」からだ。
化粧を始めたばかりの少女。どこか外見に自信が持てない人。年齢を忘れたい人。そんなお客様に、きれいになる喜びを伝えたい。コンプレックスに苦しんだ自分だからこそできる、と思ったのだ。
今年は、光沢のあるファンデーションが大ヒットしている。しかし、ごつごつした男性的な顔だちの人だと、光を乱反射しやすく、むしろマット系の方が映える。女性らしく見せるすべを知っているから、そう助言する。流行品の押し売りはしたくない。
入社してまもなく、全国の店舗の中で月間売り上げトップになった。
■ ■
数カ月が過ぎ、余裕が生まれたころ。鏡をふいたリ商品を並べたりしていた時だ。
デパートの一階を様々な人が行き交う。ふと、こちらを見ながら流れてゆく視線に気がついた。振り返る人。さりげなくもう一度通る入。わざわざ見にくる人。
(あれ、男じゃないの)
特にカップルは残酷だ。彼女が彼氏に耳打ちする。「オ・カ・マ」と動く唇が見える。彼氏が-べつし「行こうぜ」と手を引いて離れてゆく。
気になり出すと、あっという間に気分が落ち込んだ。売り上げもガクンと減った。
こんな出来事もあった。
ある夕方、若い女性が近寄ってきて買い物もせず、ニヤニヤしながら言った。
「何でここにいるの?」
「えっ?」
「ニューハーフでしょ。あんた面白いじゃないの。電話番号教えてよ」
瞬間、頭が白くなった。
「申し訳ございません。イ固人的な質問にはお答えできかねますので……」
後ろ姿が見えなくなったところで、裏のストックルームに駆け込み、泣いた。
電車の串でも買い物をしていても、他人の目が刺さる。りんこさんはそのたび、相手をにらみつけてしまうようになった。「みなが敵に思える。そう思ってしまう自分が情けない。でも、そうさせた原因は、私を特別な目で見る人たちだと思うんです」
今年五月には胃かいようで倒れ、二週間入院した。
■ ■
堂々と仕事をし、ファッション雑誌にも登場する。メールをくれた知念さんは、そんなりんこさんをすごいと思っていた。
ところが実物の彼女は、いつかポッキリと折れてしまいそうに見える。
「やりたいことが自由にできて、いいね」とよく言われる。それも違う。
「私は趣味で女の格好をしてるんじゃない。男の人も、好きだから背広を着るわけじゃないでしょう」
自分は、男なのか、女なのか、何者なのか。頭が左右にちぎれそうなくらい、ずっと悩み続けてきた。
「障害をもつ人の中で、笑われたりすることがあるのが、私のような『性同一性障害』なんです。この苦しみ、分かりますか?」
恋をする時も、せつない。より女らしくしないと負けだと思うから、尽くす。相手の帰宅時間を見計らい「仕事お疲れさま」と、メールを忘れない。それでも「私なんかに好かれて、彼は迷惑じゃないか」と悩むのだ。
だから、自分から「好き」と告白したことはない。
郷里の両親は「息子としては愛しているが、娘としては分かってあげられない」と悲しむ。母親とは電話で泣き合う。
「スーパーで二人でカートを押しながら『大根ないから買っていこうよ』なんて言う、普通の母と娘になってみたかったよって。でも、お母さんの前では男の子でいてあげたいとも思うし……」
話をしていると、涙でぐじゅぐじゅになり、マスカラが流れ落ちそうになる。あわててトイレに直しに行った。
リんこさんにとって化粧とは、自分を目いっぱい励ますための手段なのかもしれない。
■ ■
話を聞き終え、りんこさんとクリスマス間近の人込みに出た。
178センチの長身にミュールの高さが加わって、人目を引く。「日本では人と少しでも違うと、視線を向ける」。スミス事業部長の言葉を思い出した。「米国人の僕もよく経験することさ」
確かに、並んでいるだけで、視線の海を泳ぐ気分になってくる。リんこさんは、ちょっと険しい表情になった。そして木枯らしに向かうように、コートの襟を立て、大またで駅へと歩き出した。
出所 朝日新聞 2000年12月24日 一部の人名は引用者が匿名としました。
この記事が出た時、りんこさんは23歳。
22年後の現在、彼女は45歳です。
彼女はどのように生きてきたのか、現在はどのように暮らしているのか。
改めて読み返してみて、少し気になります。
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