僕は自転車(10)

2014-05-27 21:09:22 | 童話
僕が貰われて行く日の朝に男の子がやって来て、サドルをボンポンと叩いた。

僕は涙をこらえるのが大変だった。
僕は幸せだったし、今も幸せだ。

そして、僕が貰われて行く日の午後、今度の家のおじさんが自動車でやって来た。

おじさんが僕を自動車に積む時に、僕を大事にしてくれた男の子が、サドルをボンポンと叩いて『今迄ありがとう。』と言った。

僕はみんなに見つからないようにして涙を流した。

『バイバイ。』

男の子と男の子のお父さんに見送られて、走り出した自動車の中から手を振った。
いや、手ではなくハンドルを振った。